著者
折原 貴道 池田 枝穂 大和 政秀 保坂 健太郎 前川 二太郎 岩瀬 剛二
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.45, 2009 (Released:2009-10-30)

きのこを形成する菌類の中でも, 被実性の子実体を形成し, 胞子の射出機構を欠失している点が特徴であるシクエストレート菌 (sequestrate fungi) の分類学的および系統学的研究は日本国内において特に遅れており, 今後の研究により多くの新分類群や未知の系統が明らかになることが期待される. 国内のシイ・カシ類樹下に発生するシクエストレート担子菌コイシタケはHydnangium carneum の学名が与えられているが, オーストラリアに分布しユーカリと特異的に菌根を形成するH. carneum とは, 形態的・生態的特徴のいずれも大きく異なる. 演者らは, コイシタケおよびブナ・ミズナラ樹下に発生し, 形態的に本種と酷似する未報告種(仮称:ミヤマコイシタケ)の形態学的評価および核リボソームDNAのITS領域を用いた系統解析を行った. 分子系統解析の結果, コイシタケはH. carneum とは遠縁である, ベニタケ属の系統内で分化したシクエストレート菌であることが示され, 形態的にも子実層部のシスチジアなど, ベニタケ属菌に特徴的な構造が確認された. ベニタケ属の系統内では複数のシクエストレート菌の系統が分化していることが知られているが, コイシタケおよびミヤマコイシタケはそれらの既知系統のいずれにも属さなかった. また, コイシタケはミヤマコイシタケと種レベルで異なることが分子系統解析結果からも支持された. 両種は肉眼的には酷似しているが, 担子胞子や担子器の形態など複数の顕微鏡的特徴に差異があることも明らかになった. ミヤマコイシタケの担子胞子はベニタケ属菌に特徴的なアミロイド反応を呈する一方, コイシタケの担子胞子は非アミロイドであることから, 両種を含む系統ではシクエストレート菌への系統進化が起こった後に担子胞子のアミロイド反応が消失したと考えられる. また, 両種の分布状況に基づく生物地理学的考察も行う.