- 著者
-
折原 貴道
- 出版者
- 神奈川県立生命の星・地球博物館
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2017-04-01
地中にきのこを形成する「地下生菌」は,胞子を風散布する一般的な地上性きのこ類とは異なり,陸棲小動物にきのこを摂食されることで胞子を散布すると考えられてきた.そのため,海洋島への分散は困難であると考えられるが,実際には海洋島においても複数種の地下生菌が見つかっている.本研究では,海洋島に分布を広げている地下生菌がどのようなメカニズムで分散しているのかを,複数遺伝子領域による系統解析や集団遺伝学的解析,さらに野外での無性胞子の探索などの方法により明らかにしてゆくことを主な目的とする.令和元年度の研究実績の概要は以下の通りである.・海洋島-日本本土間,および大陸島-本土間での地下生菌の分散パターンの比較を目的とした,各地での地下生菌子実体サンプリング・得られた標本からのDNA複数領域シーケンスの取得と分子系統解析,および一部の種についての培養法の検討・次世代シーケンサーを用いた集団遺伝学的解析過去に殆ど地下生菌調査の為されていないトカラ列島をはじめとする南西諸島や,伊豆諸島などの島嶼域での子実体サンプリングを実施し,それにより有益な分子データが得られた.また,本土における比較用サンプルも多く追加することができた.次世代シーケンサーを用いた集団遺伝学的解析についても,共同研究者の協力のもと,これまでの複数DNA領域の分子系統解析結果と同傾向の結果が得られ,現在この結果のブラッシュアップを図っている段階である.また,2019年5月には,本研究の研究成果を一部含む一連の研究に対し,一般社団法人日本菌学会より奨励賞を授与され,本研究成果を含む受賞講演を行った.その他,島嶼域での調査で得られたデータをもとに,国際会議において発表を行った.また,日本本土および伊豆諸島で得られた一部の希少種についての新所見を論文として出版した.