著者
折原 貴道
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.63-80, 2020-11-01 (Released:2020-12-18)
参考文献数
51

地下生菌とは元来,子実体が地表に露出せず,胞子の能動的散布を行わない大型菌類を指すが,現在では.地上生か地下生かに拘わらず,このような菌に共通する形態的・進化的特性を備えた菌類を広く指す場合が多い.日本における地下生菌の多様性や分類に関する研究は近年急速に進展し,現在では,日本列島が世界的にも有数の高い地下生菌多様性を誇る地域であることが認知されつつある.本稿では,近年特に多様性の解明が著しい,イグチ科ヤマイグチ属およびクロヤマイグチ属に近縁な4属(Chamonixia [アオゾメタマイグチ属(新称)],Octaviania[ホシミノタマタケ属],Rossbeevera [ツチダマタケ属],Turmalinea [ベニタマタケ属])の地下生菌について,近年の分類体系を紹介するとともに,日本産全既知分類群の簡易的な記載および解説を加えた.さらに,和名がついていない分類群については新称を与えた.
著者
中井 実 大前 宗之 折原 貴道
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.51-55, 2021-05-01 (Released:2021-06-16)
参考文献数
19

北海道において,植栽されたナルコユリ(アマドコロ属)の根茎から発生した子嚢果について形態学的な検討を行った結果,Stromatinia rapulumと同定した.本種はヨーロッパではアマドコロ属を宿主とするが,日本では従来ツルドクダミが宿主とされ,日本産標本の菌と宿主の種同定には疑問の余地があった.本報告は,S. rapulumの日本で初めての確かな採集記録であり,新たにナルコユリチャワンタケという和名を提唱した.
著者
大前 宗之 山本 航平 折原 貴道
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.27-32, 2020-05-01 (Released:2020-06-10)
参考文献数
25
被引用文献数
1

茨城県の照葉樹林より,日本新産種Microstoma apiculosporum(新称:テンガイキツネノサカズキ)を報告した.本種は胞子の両端に半球状の突起を有するという,本属菌の中で特異な形態により特徴づけられ,これまで基準産地である台湾中部にのみ分布が確認されていた.本報では,生体分類法や化学反応に基づき,従来報告されていない特徴を含んだ本種の形態について記載した.
著者
折原 貴道 大藪 崇司 岩瀬 剛二
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会50周年記念大会
巻号頁・発行日
pp.67, 2006 (Released:2007-06-05)

ユーカリ属Eucalyptus の多くはオーストラリア大陸原産であり、成長が早く、また乾燥や塩害等にも強いことから、世界中の多くの地域で植林が試みられている。近年では更にパルプ材としての利用や葉から抽出・精製したオイルの利用など、幅広い用途可能性を有する樹木として注目されている。ユーカリ属の樹種は外生菌根を形成することが知られており、オーストラリアやブラジルを初めとする多くの地域からその菌根菌相が報告されているが、日本におけるユーカリ外生菌根菌相ついては未解明な点が多い。本研究では、三重県亀山市の王子製紙森林資源研究所ユーカリ試験植林地において、植栽後8-9年が経過したE. globulus 植栽地に2箇所、及びE. camaldulensis 植栽地に1箇所の方形コドラート(10×10 m)を設置し、2004年7月より月1回の間隔で外生菌根菌の子実体発生状況の定点調査を行った。その結果、Laccaria fraterna, Scleroderma cepa, S. sp. 及びPisolithus sp. の計4種の子実体発生が現在までに確認された。また、子実体発生量及び種数は9月から12月にかけて多くなった一方、1月から8月にかけては常に少ない状態であった。主要な原産国であるオーストラリアでは約660種の外生菌根菌が確認されており(Bougher, 1995)、日本におけるユーカリ植栽地の外生菌根菌相の種多様性は著しく低いことが示唆された。本発表では、これら4種の子実体の形態的特徴及び発生状況の季節変動について考察するとともに、現時点までに演者らが観察した、オーストラリアのユーカリ林及び日本国内の他地域で採集された同種標本との比較も行い、日本におけるユーカリ外生菌根菌の種多様性と、ブナ科樹種の菌根菌相との共通性に関しても考察を行った。本研究の主旨に賛同し、試験植林地の利用を快く承諾してくださった、(株)王子製紙 森林資源研究所に心より御礼申し上げます。
著者
折原 貴道 池田 枝穂 大和 政秀 保坂 健太郎 前川 二太郎 岩瀬 剛二
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.45, 2009 (Released:2009-10-30)

きのこを形成する菌類の中でも, 被実性の子実体を形成し, 胞子の射出機構を欠失している点が特徴であるシクエストレート菌 (sequestrate fungi) の分類学的および系統学的研究は日本国内において特に遅れており, 今後の研究により多くの新分類群や未知の系統が明らかになることが期待される. 国内のシイ・カシ類樹下に発生するシクエストレート担子菌コイシタケはHydnangium carneum の学名が与えられているが, オーストラリアに分布しユーカリと特異的に菌根を形成するH. carneum とは, 形態的・生態的特徴のいずれも大きく異なる. 演者らは, コイシタケおよびブナ・ミズナラ樹下に発生し, 形態的に本種と酷似する未報告種(仮称:ミヤマコイシタケ)の形態学的評価および核リボソームDNAのITS領域を用いた系統解析を行った. 分子系統解析の結果, コイシタケはH. carneum とは遠縁である, ベニタケ属の系統内で分化したシクエストレート菌であることが示され, 形態的にも子実層部のシスチジアなど, ベニタケ属菌に特徴的な構造が確認された. ベニタケ属の系統内では複数のシクエストレート菌の系統が分化していることが知られているが, コイシタケおよびミヤマコイシタケはそれらの既知系統のいずれにも属さなかった. また, コイシタケはミヤマコイシタケと種レベルで異なることが分子系統解析結果からも支持された. 両種は肉眼的には酷似しているが, 担子胞子や担子器の形態など複数の顕微鏡的特徴に差異があることも明らかになった. ミヤマコイシタケの担子胞子はベニタケ属菌に特徴的なアミロイド反応を呈する一方, コイシタケの担子胞子は非アミロイドであることから, 両種を含む系統ではシクエストレート菌への系統進化が起こった後に担子胞子のアミロイド反応が消失したと考えられる. また, 両種の分布状況に基づく生物地理学的考察も行う.
著者
折原 貴道
出版者
神奈川県立生命の星・地球博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

地中にきのこを形成する「地下生菌」は,胞子を風散布する一般的な地上性きのこ類とは異なり,陸棲小動物にきのこを摂食されることで胞子を散布すると考えられてきた.そのため,海洋島への分散は困難であると考えられるが,実際には海洋島においても複数種の地下生菌が見つかっている.本研究では,海洋島に分布を広げている地下生菌がどのようなメカニズムで分散しているのかを,複数遺伝子領域による系統解析や集団遺伝学的解析,さらに野外での無性胞子の探索などの方法により明らかにしてゆくことを主な目的とする.令和元年度の研究実績の概要は以下の通りである.・海洋島-日本本土間,および大陸島-本土間での地下生菌の分散パターンの比較を目的とした,各地での地下生菌子実体サンプリング・得られた標本からのDNA複数領域シーケンスの取得と分子系統解析,および一部の種についての培養法の検討・次世代シーケンサーを用いた集団遺伝学的解析過去に殆ど地下生菌調査の為されていないトカラ列島をはじめとする南西諸島や,伊豆諸島などの島嶼域での子実体サンプリングを実施し,それにより有益な分子データが得られた.また,本土における比較用サンプルも多く追加することができた.次世代シーケンサーを用いた集団遺伝学的解析についても,共同研究者の協力のもと,これまでの複数DNA領域の分子系統解析結果と同傾向の結果が得られ,現在この結果のブラッシュアップを図っている段階である.また,2019年5月には,本研究の研究成果を一部含む一連の研究に対し,一般社団法人日本菌学会より奨励賞を授与され,本研究成果を含む受賞講演を行った.その他,島嶼域での調査で得られたデータをもとに,国際会議において発表を行った.また,日本本土および伊豆諸島で得られた一部の希少種についての新所見を論文として出版した.
著者
折原 貴道 前川 二太郎
出版者
日本きのこセンター
雑誌
菌蕈 (ISSN:09121889)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.24-30, 2010-11
著者
大前 宗之 折原 貴道 白水 貴 前川 二太郎
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.7, 2011 (Released:2012-02-23)

地中に子実体を形成する菌類,いわゆる地下生菌の大部分は外生菌根菌であり,これらは外生菌根性の樹木が分布する地域を潜在的な分布域とする.日本には,様々な外生菌根性の樹木が広く優占しているため,これら地下生菌の多様性も高いことが推察される.しかし,日本における地下生菌の分類学的な研究は著しく遅れており,その多様性の全貌把握には至っていない.HydnotryaはPezizales,Discinaceaeに含まれる地下生菌であり,日本ではこれまでH. tulasnei(クルミタケ)の一種しか報告されていない.しかし,菌根由来のDNAを用いた系統解析により,日本にはより多くの系統群が分布している可能性が示されている.そこで,演者らは,日本におけるHydnotrya属菌の多様性を明らかにすることを目的とし,採集した子嚢果及びGenBankのデータを用い,核rDNAのITS領域,及び28S領域の分子系統解析を行った.その結果,日本におけるHydnotrya属菌は大きく3つのクレード(クレードA, B, C)に分かれた.クレードAはアジア,北アメリカ,ヨーロッパの種から構成され,その中で,日本産標本は,韓国の外生菌根から検出されたHydnotrya属菌と単系統群を形成した.クレードBは日本産標本のみから構成され,クレードAの姉妹群となった.クレードCは日本産の標本とヨーロッパ産H. cubisporaから構成された.