- 著者
-
小野 哲也
池畑 広伸
- 出版者
- 東北大学
- 雑誌
- 重点領域研究
- 巻号頁・発行日
- 1996
環境中の変異原物質が少量づつ長期間にわたって働いた時のリスクが大量で1回作用した時に比べどのように変わるかを理解するために、マウスの肝臓と皮膚、睾丸のDNAへの突然変異誘発効果を指標として調べた。使用したマウスは大腸菌のlacZを含んだラムダゲノムDNAを導入されたMutaマウスを用い、変異原としてはX線と紫外線(UVB)を用いた。4GyのX線を1回照射してから16週後の突然変異頻度は肝で(12.76±2.12)×10^<-5>、睾丸で(13.26±3.22)×10^<-5>であった。同じエイジの非照射マウスの自然突然変異はそれぞれ(7.63±1.41)×10^<-5>、(7.14±1.07)×10^<-5>であったので誘発された分は5.13×10^<-5>、6.12×10^<-5>と計算された。一方、1回0.15GyのX線を週3回づつ、6ヵ月間(総計11.7Gy)照射後16週目でみた突然変異頻度は肝と睾丸でそれぞれ(17.36±5.01)×10^<-5>、(17.18±3.66)×10^<-5>であり、同じエイジでの自然突然変異頻度は(10.73±1.39)×10^<-5>、(9.06±1.04)×10^<-5>、で、誘発された量は6.63×10^<-5>、8.12×10^<-5>であった。これらの値から1Gy当たりに誘発された量を比較してみると少線量多数回照射では1回照射の時に比べ肝でも睾丸でも約45%に減少している。これは変異原に曝される時に少量づつを繰り返して行われた時のリスクは1回で曝露された時のリスクに比べ半減することを示唆している。しかもその量は肝でも生殖細胞でも変わらない。生殖細胞での値は以前にRusselらが数百万匹のマウスを使って得られた値である1/3にほぼ類似した値である。次に皮膚組織での影響を知るべく紫外線による突然変異誘発効果を調べた。0.5kj/m^2までのUVBは皮膚の紅斑を起こさず、しかも突然変異を誘発することを確認した。この線量を1日1回づつ4日連続して照射した所約250×10^<-5>の突然変異頻度が得られた。これは0.5kJ/m^2を1回照射した時の1J/m^2当たりの変異誘発率に比べると約70%であり、紫外線による突然変異誘発についても、分割された曝露は1回曝露でのリスクより少なくなることが示唆された。ただし、ここで行った実験は予備的なものであり、線量や曝露間隔などについてさらに検討する必要がある。