著者
本木 昌秀 沈 学順 安部 彩子 高田 久美子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

大気海洋結合モデルの長期積分結果をもとに、その気候値、季節サイクル、年々変動、十年スケールの変動の再現特性を調べた。モデルの年平均気候は、赤道域で海面水温が若干低めになるものの、太平洋赤道域の東西および南北に非対称な降水分布が非常によく表現されている。東太平洋では、大気モデルの分解能が粗いためと思われる南米沿岸の風、海水温の誤差を除くと、季節サイクルの表現もよい。赤道付近では、日射は半年周期が卓越するにもかかわらず、大気海洋相互作用のため、年周成分が卓越するが、モデルでもこれがよく表現されている。しかし、モデル気侯値には欠点も多々あり、これらの多くは他の多くの結合モデルにも見られるものである。赤道上の風が弱く、湧昇の最大となる領域が観測に比べて西へ寄る、西太平洋暖水域の南北幅が狭い、東南太平洋の海面水温が暖かすぎ、赤道を挟んでダブルピークの傾向が強い、ペル-沖の南風が弱い、など。これらの中にはモデルの低解像度に起因すると思われる要素もあり、本研究の期間内にすべての原因を明らかにすることはできなかった。しかし、雲の放射効果の結合気候に及ぼす影響や、大気・海洋それぞれの境界層過程の役割等について知見を得ることができた。赤道太平洋の年々変動は、観測されたエルニーニョ南方振動とよく似ており、また、他の多くの結合大循環モデルに似ず、振幅も現実的である。また、中緯度北太平洋、北大西洋に、観測されたと同様の十年規模振動がシミュレートされていることがわかった。とくに、前者は、他のいくつかのモデルと異なり、赤道域まで含むモードになっており、観測とよく一致する。
著者
沈 学順 木本 昌秀 住 明正
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.217-236, 1998-04-25
被引用文献数
7

実測SSTを与えた大気循環モデルの10年間積分(1979-1988)を用いて、広域インドモンスーンの年々変動とそれと関連したユーラシア大陸上の陸面プロセスについて調べた。用いたモデルは東大気候システム研究センターと国立環境研究所の共同開発によるものである。南アジアモンスーン域における上下の西風シアをモンスーンの強弱の指標として用いた。モデルでシミュレートされたモンスーン環境の年々変動は観測と良い対応を示した。モデルのモンスーン変動にはユーラシア大陸上で顕著な前兆現象が見い出された。弱いモンスーンの前の冬に、北緯50°より南のほうで積雪がより多く、強いモンスーンの前にはパターンが全く逆になっている。季節の進行とともに、春にはモンスーンの強弱に応じて土壌水分等にも顕著なコントラストが見られた。これらのシグナルは観測の統計結果及び他のモデル実験結果と整合的である。陸面での熱収支解析により、雪解けの遅いチベット高原では積雪のアルベド効果が顕著であり、その西の標高の低い区域では土壌水分偏差による蒸発偏差や増えた雲量によるアルベド効果の方が卓越していることが見い出された。冬〜春の陸面プロセス偏差が引き続き夏のモンスーンの強弱に定量的にどの程度のインパクトをもつかを数値実験によって調べた。このモデルでは、陸面プロセスはボジティブフィートバックとして働きはするが、モンスーン循環の偏差の符号を決定する程の影響力はない。ENSOによる熱帯東西循環の変化の直接的な影響が量的にはより支配的役割を果たすようである。