著者
白子 隆志 加藤 雅康 藤山 芳樹 田尻下 敏弘 沖 一匡 吉田 隆浩 小倉 真治
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.12, pp.897-903, 2014-12-15 (Released:2015-03-12)
参考文献数
17

介護老人保健施設(以下,老健施設)に入所中の83歳女性が心肺停止になり,勤務中の看護師らスタッフによる心肺蘇生が実施された。心肺蘇生中の看護師A(53歳,女性)が突然意識を消失したため,残りのスタッフが入所者の心肺蘇生を引き継ぐとともに看護師Aの心肺停止を確認し,救急隊の追加要請と看護師Aのcardiopulmonary resuscitation(CPR)を開始した。施設唯一のautomated external defibrillator(AED)は入所者に装着されたため,救急隊到着後に救急隊の半自動式除細動器を入所者に装着し,施設のAEDを看護師Aに装着した。「shock advised」の指示に従いスタッフが1回目のショックを看護師Aに実施した。先着救急隊により入所者を搬送後,追加要請された後着救急隊により看護師Aを救命救急センターに搬送した。救急外来にて看護師Aの心肺停止,VFを確認後2回目のショックを実施し,アドレナリン1mgを投与後に自己心拍が再開した。抗不整脈薬投与,人工呼吸管理,低体温療法を行い,その後implantable cardioverter defibrillator(ICD)を移植し,完全社会復帰した。看護師Aは既往歴に肥大型心筋症を罹患しており,今回の心肺停止は急激な心肺蘇生によって身体的・精神的負荷がかかったために,VFを発症したものと推測した。本症例は,日常の訓練とスタッフを含む適切な救命の連鎖が看護師Aの社会復帰につながったものと考えられた。院内の事後検証において老健施設のAEDの機種,設置場所,台数,予備パッドの管理体制の不備を指摘し,既設のAEDを廃棄後2台新設した。Japan Resuscitation Council(JRC)ガイドライン2010によると心肺蘇生中の救助者が心肺停止に陥ることは極めて稀であるが,救助者の安全についても十分考慮する必要がある。
著者
沖 一匡 笹原 孝太郎 岸本 浩史 吉福 清二郎 高橋 裕輔
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.135-139, 2012
被引用文献数
1

84歳,女性.近医にてS状結腸軸捻転の疑いにて当院へ救急搬送となった.大腸内視鏡にて軸捻転解除を試みたが,解除困難で,緊急手術となった.手術所見ではS状結腸軸捻転は存在せず.大網が横行結腸に癒着し,横行結腸の狭窄と穿孔を認めた.悪性疾患による結腸狭窄,穿孔と判断.結腸切除施行し,盲腸と下行結腸に人工肛門を造設した.免疫染色の結果,Calretinin(+),HBME-1(+),EMA(+),CEA(-)であり,悪性中皮腫と診断された.病歴聴取でアスベストの暴露歴はなく,術後の胸部CTにて明らかな胸膜壁肥厚は認めなかった.悪性中皮腫の頻度は全悪性腫瘍の約0.2%程度で,約20%が腹膜に生じる.特異的症状に乏しく,多くの症例で腹水貯留を来すが細胞診による正診率は低く,最終的には組織生検を施行し,診断する.今回われわれは,腹部膨満,急性腹症に対する緊急手術で発見された腹膜悪性中皮腫を経験したので若干の文献的考察を加えここに報告する.