著者
野村 勝彦 渡辺 健一 藤井 辰義 谷 到 江本 克也 鮄川 哲二 沖 修一 荒木 攻
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.444-450, 2011 (Released:2011-07-27)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

我々の施設では2008年1月から2010年12月の3年間に入院時MRI拡散強調画像において内包後脚に可逆性の異常高信号を呈する低血糖脳症を2例経験した.この2例はいずれも両側の内包後脚に異常高信号を有し,受診までの経過あるいは受診時に四肢脱力の左右差があり脳血管障害を疑われた.1例は血糖補正後に速やかな神経学的所見の改善と画像の正常化を認めたが,低血糖症状が遷延した1例においては2回目のMRI拡散強調画像にて内包後脚の病変に加えて放線冠にも異常高信号が観察された.受診時の低血糖や意識障害の程度に関わらず,低血糖に対する初期対応の違いがその後の2症例の臨床経過の違いに影響を与えたと推測された.神経学的所見や画像所見にて急性期脳梗塞が疑われた症例であっても常に低血糖脳症の存在を考慮に入れた十分な初期対応と経過観察を行うことが重要であると考えられた.
著者
長澤 由季 猪村 剛史 今田 直樹 沖 修一 荒木 攻
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1885, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】脳梗塞の病態には,アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞に加え,1989年にCaplanが提唱した脳血管穿通枝入口部のアテローム血栓性病変により閉塞が生じるbranch atheromatous disease(以下,BAD)が知られている。BADの好発部位にはレンズ核線条体動脈,傍正中橋動脈領域があり,進行性の運動麻痺が生じやすく,ラクナ梗塞と比較して,身体機能の予後は不良と報告されてきた。しかし,臨床での予後に関する報告数はまだ少なく,臨床像は明確ではない。本研究では,脳梗塞の病型の違いによる運動機能の変化や予後の差異について検討した。【方法】対象は,平成24年4月から平成26年9月までに脳梗塞の診断で当院に入院した120名とした。対象者はいずれも錐体路症状を呈し,除外規準は既往に脳血管障害を有する者,精神疾患を有する者,骨折・四肢欠損患者とした。運動機能評価には急性期病棟退院時のNIHSS運動項目を用いた。また,FIM効率(FIM利得/在院日数),在院日数についても評価した。統計解析には,一元配置分散分析を用いた。【結果】病型の内訳は,アテローム血栓性脳梗塞は67名,BADは24名,ラクナ梗塞は29名であった。急性期病棟退院時のNIHSS運動項目の合計点は,アテローム血栓性脳梗塞は2.1±2.8,BADは0.6±2.0,ラクナ梗塞は0.4±1.5で,一元配置分散分析の結果,病型に主効果がみられた(p<0.01)。群間比較の結果,NIHSSのスコアでは,アテローム血栓性脳梗塞でラクナ梗塞(p<0.01)およびBAD(p<0.05)と比較して有意に高かった。また,ラクナ梗塞とBADではNIHSSスコアに有意な差を認めなかった。FIM効率では,アテローム血栓性脳梗塞は1.3±1.7,BADは1.7±1.3,ラクナ梗塞は1.6±1.0で,アテローム血栓性脳梗塞はラクナ梗塞と比較して,有意に低値であった(p<0.01)。ラクナ梗塞とBADではFIM効率に有意な差は認めなかった。在院日数では,アテローム血栓性脳梗塞は71.0±70.1日,BADは39.1±43.6日,ラクナ梗塞は19.3±23.8日で,アテローム血栓性脳梗塞はラクナ梗塞と比較して有意に在院日数が長かった(p<0.01)。ラクナ梗塞とBADでは在院日数に有意な差は認めなかった。【考察】本研究では,脳梗塞の病型別における運動機能や予後予測因子の関連を調査した。結果より,NIHSSの得点,FIM効率,在院日数において,アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞では有意な差を認めたが,BADとラクナ梗塞では有意差は認めなかった。従来,BADとラクナ梗塞の運動機能の比較を行った場合,進行性の運動麻痺はBADで多く認め,NIHSSやmRSの得点はBADの方が高いことが多く報告されている。一方で,BADはアテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞の中間の病態であり,BADとラクナ梗塞の重症度の差は少ないとの報告もある。BADには非進行性の病態もあり,発症部位によっても重症度は異なり,必ずしも予後不良でない可能性もある。理学療法介入を行う上で,病型の確認に加え,損傷部位・損傷の程度・画像所見などを比較しながら,予後について検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究を通し,理学療法介入を行う上で,従来の報告に加えて予後予測の一助となると考えられる。