著者
山田 実 河内 崇 森岡 周
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.5, 2008

【目的】特定高齢者は、要支援・要介護高齢者の予備群と位置づけされており、これら高齢者の転倒を予防することは介護予防や医療・介護費用の削減に直結する重要な取り組みである。自験例において、特定高齢者の転倒には、探索的行為や注意機能、それに幾多の方向転換などの要素が関与していることを報告した。本研究では、日常生活で不可欠となる極短期的な作業記憶(ワーキングメモリ)の要素を組み入れた複合機能評価によって、特定高齢者における転倒の特性について検討した。<BR>【方法】対象は特定高齢者30名(79.5±6.2歳)とした。対象者が立っている位置より後方2mにホワイトボードを設置し、側方から前方2mにかけて扇状に高さ70cm、幅200cm、奥行き40cmのテーブルを2台設置した。テーブル上には、裏面に磁石のついた15cm×15cmの厚紙に『あ』から『ん』までの平仮名が一文字ずつ書かれた46枚の仮名カードがランダムに配置された。ホワイトボードには3文字(例:らはそ)か4文字(例:こるそや)、もしくは5文字(例:かふろんほ)の意味をなさない文字が書かれてあり、対象者はスタートの合図でホワイトボードの文字を見て、テーブル上にある仮名カードを探索し、拾い集めてホワイトボードに貼り付けることが求められた。検者はスタートの合図より全ての仮名カードを貼り付け終えるまでの時間を計測した。なお、3文字、4文字、5文字は対象者によってくじ引きによってランダムな順序で実施し、1週間の間隔を挟みながら3通りの測定を行った。また、過去1年間の転倒経験の有無によって転倒群12名、非転倒群18名に分けて統計解析を行った。<BR>【結果】3文字の際には、転倒群32.6±10.7秒、非転倒群29.9±8.5秒で有意な差は認められなかった(p=0.607)。同様に4文字の際にも、転倒群43.7±8.1秒、非転倒群39.8±9.3秒で有意な差は認められなかった(p=282)。しかし5文字の際には、転倒群75.5±12.1秒、非転倒群57.3±11.9秒で有意な差が認められた(p=0.012)。<BR>【考察】3文字及び4文字の場合には群間差は認められなかったが、5文字になると転倒群で有意に時間的延長を認めた。本研究で用いたテストは、仮名カードを探す探索的行為や注意機能、仮名カードを探す為に繰り返し行う方向転換、手を伸ばして仮名カードを採るリーチ動作、そして文字を極短期的に記憶しておくワーキングメモリなど日常生活で欠かすことのできない要素が組み込まれている。5文字の場合でのみ転倒群で有意に延長していたということから、探索的行為や方向転換、リーチ動作などの機能に群間差があるとは考えにくく、ワーキングメモリが転倒に関与していたものと考えられた。<BR>【まとめ】特定高齢者の転倒には、ワーキングメモリ機能低下が関係している可能性が示唆された。