著者
河口 和幸
出版者
崇城大学
雑誌
崇城大学紀要 (ISSN:21857903)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.1-18, 2015

通貨発行益(シニョレッジ)とは何かに関しては各種の理解があるものの、中央銀行がその業務を行ううえで通貨を発行し、それを見合いに有利子の金融資産を取得することによって獲得する利益と定義することができる。これは、政府が補助貨幣(硬貨)を発行するときに得られる利益とは違い、通貨発行の見返りとして取得する金融資産の利息収入によって獲得されるものである。近年わが国では、政府の財政悪化、円高、デフレの持続を眺めて、政府紙幣の発行等が議論された経緯もあるが、2013年からは日本銀行によりアベノミクスに歩調を合わせて量的・質的金融緩和(QQE)が実施に移され巨額の国債購入等が続けられている。この政策は、継続されている過程においては日銀の収益としてのシニョレッジが増大するものの、その出口段階では、日銀の収益に大きなダメージを与える可能性があると思われる。この「異次元の金融緩和」とも言われる政策によってデフレから脱却し、成長軌道に回復していくことが期待されているが、そうした事態に至ったとしても、日銀の財務内容の悪化、ひいては通貨への信認の低下に繋がって、非常に大きな問題を抱えることになる可能性があることには注意が必要である。
著者
河口 和幸
出版者
崇城大学
雑誌
崇城大学紀要 (ISSN:21857903)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-22, 2017

近年、わが国では企業による粉飾決算や偽装工作等の不正が頻発するようになってきている。こうした企業倫理の低下を象徴するような事態が発生するようになった背景には、①短期利益追求主義の強まり(資本主義精神の変質)、②日本的経営手法の変質、③企業組織の中に未だに残る暗黙のムラ社会の雰囲気の存在、④メインバンクのモニタリング機能の弱体化、⑤企業が掲げる CSR の履き違え(または曲解)の5点があるものと考えられる。企業に内在する体質と風土は、問題が発生した際のマスコミ等に対する危機管理広報の際にも表れる。中には、拙い対外広報によって傷口を広げてしまい、世間からの批判が強まって信頼を失ってしまうようなケースも少なくない。企業倫理の向上のためには、これといった決め手があるわけではないが、①まずもって経営トップの高い倫理観が必要であり、それを前提に、②コーポレートガバナンスの制度化等の体制の整備・強化、③経営理念を意識した経営計画の策定と社員教育の徹底、④社内での闊達な議論風土の醸成による風通しの向上などの基本的動作が欠かせないだろう。
著者
河口 和幸
出版者
崇城大学
雑誌
崇城大学紀要 = Bulletin of Sojo University (ISSN:21857903)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.25-47, 2016

現在、世界各国では経済成長を最優先とした経済政策を続けている。とくに、わが国を始めとした先進国では、経済成長一辺倒の経済政策を展開してきたものの、それが思うように達成できないばかりか、経済格差の拡大等多くの歪みが露呈する結果となっている。つまり、経済成長にこだわった政策は限界に達してきていることがますますはっきりしてきたのである。わが国を始め先進国の経済成長を阻むものとして、人口の減少(生産年齢人口の減少)、経済のグローバル化、財政政策と金融政策の限界、地球温暖化の進行という4つの大きな壁があり、これらによる制約がますます大きくなっているためである。このような制約下にあっては、これまでのような経済成長をひたすら追い求めていく政策ではなく、経済が成長しなくても国民が一定の豊かさや幸せ感を実感できるような社会、つまり脱成長社会へ移行することが必要となっているのではなかろうか。政策転換の方向としての脱成長社会は、成長ではなく均衡、産業・効率優先ではなく消費者・生活優先がキーワードであり、具体的には、①経済格差の縮小、②世代間不公平の是正、③本来的な意味での地方分権社会への移行、④男女共同参画社会の実現、⑤安心・安全社会の構築が目指していくべき方向として考えられる。