著者
河月 稔
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.J-STAGE-2, pp.11-21, 2017-08-31 (Released:2017-09-06)
参考文献数
34
被引用文献数
5

神経心理学的検査とは,高次脳機能を評価するための検査であり認知症診療においては必須の検査である。認知症に伴う症状としては,中核症状と行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia; BPSD)があり,これらの症状を定量化する目的で神経心理学的検査が用いられる。神経心理学的検査は,スクリーニングとしての検査,認知症の進行度合いや治療効果の評価としての検査,鑑別診断の補助としての検査に分類することができるが,なかでもスクリーニングとしての検査は臨床検査技師が参画できる領域であると考える。代表的な検査としては改訂長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised; HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)が広く一般に使用されているが,マンパワーをかけずに行える方法としてタッチパネル式コンピュータを用いた簡易スクリーニング法(物忘れ相談プログラム)も推奨される。認知症の症状は様々であり,一つの神経心理学的検査で全ての症状を評価できないため評価目的により使い分ける必要がある。但し,我が国のみならず世界中で多数開発されているため,その選択は検査の信頼性や妥当性,対象疾患やその重症度等を考慮し,しっかりとエビデンスを調べたうえで導入することが望ましい。また,検査の総点数だけで評価するのではなく,どこを間違えたかを確認することで,障害されている機能をある程度推測することができるため,多面的に評価する必要ある。神経心理学的検査は医師または医師の指示により他の従事者が実施できる検査であるが,検査を熟知した者が行うことが望ましいため,認定認知症領域検査技師の認定資格を取得した技師が積極的に行っていくことを期待する。
著者
河月 稔
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.J-STAGE-2, pp.84-89, 2017-08-31 (Released:2017-09-06)
参考文献数
25

嗅覚障害は直接的には生死に関係が少ないことや,外傷性などでない場合は症状の発現や進行が一般的に緩徐であり自覚されにくいことが原因で放置される傾向にある。嗅覚機能は,食品の腐敗への気づきや調理に関与し,ガス漏れや煙など身の危険を察知するためにも重要である。特定の認知症では嗅覚関連領域に病理学的変化が生じるため嗅覚機能の低下をきたすと考えられている。特にアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症でその報告は多く,病期の初期に障害されることがわかっている。認知機能の低下も異常な食行動を招く要因であり,認知症患者における嗅覚機能の低下を早期に発見し,アプローチすることはその後の生活の質を維持するために極めて重要である。しかし,加齢に伴っても嗅覚機能が低下することが知られており,その鑑別を正確に行うことは,現行の嗅覚検査法では困難である。一般的には,認知症の嗅覚障害のほうが重度であると報告されているが,今後,認知症の嗅覚機能の低下をより早期に発見できる検査法や,認知症患者の嗅覚障害への治療法あるいは予防法の開発が期待される。