- 著者
-
佐藤 史織
山代 栄士
河村 聡志
中島 竜太
稲垣 伸洋
森 一生
- 出版者
- 一般社団法人 日本臨床救急医学会
- 雑誌
- 日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, no.4, pp.599-604, 2015-08-31 (Released:2015-08-31)
- 参考文献数
- 6
症例は肺炎治療および食道裂孔ヘルニア術後で入院中の80代女性。もともとリバスチグミン経皮吸収型製剤を使用中であった。術後排尿困難に対してジスチグミン臭化物を1回だけ投与した。その1週間後に喀痰増加,気道分泌の漿液化,嚥下困難,徐脈傾向などのコリン作動性クリーゼ様症状を呈した。アトロピン硫酸塩の持続投与および被疑薬の中止により,気道分泌物の減少,脈拍数の回復,呼吸状態の安定を認め,コリン作動性クリーゼを脱したと判断した。本症例はジスチグミン臭化物が慎重投与とされる低体重の高齢者であり,コリンエステラーゼ(ChE)阻害作用を持つリバスチグミンとジスチグミン臭化物を併用していた。加えて,ジスチグミン臭化物投与時の絶食で生体利用率が上昇したこと,下痢による低栄養により体内ChE絶対量が低下していたことなどが複合的に作用し,コリン作動性クリーゼを発症したと考えられた。複合的な要因の関与についての文献的考察を含め,報告する。