著者
瀧 健治 有吉 孝一 堺 淳 石川 浩史 中嶋 一寿 遠藤 容子
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.753-760, 2014-12-31 (Released:2015-01-24)
参考文献数
13

マムシ咬傷は一般に広く知られているが,全国での発生件数やその治療法は今なお不明確である。目的:本邦のマムシ咬傷の治療法を含む現況を検討する。方法:全国の二次・三次救急病院9,433施設に調査票を郵送し,2007年4月から10月までのマムシ咬傷症例について,発生状況,治療内容,転帰などを調査した。回答率47.2% 975症例のうち,詳細な回答が得られた178症例(18.1%)を分析対象とした。結果・考察:受傷時に応急処置をして,できるだけ早く受診することがすすめられた。治療法は施設によってさまざまであるが,セファランチン®と抗マムシ血清の投与の有無で咬傷による腫脹,腫脹のピークに至る日数,入院日数に差はなかった。しかし,受傷時の安静の必要性はなく,むしろ応急処置や初期治療の必要性が明らかとなった。結語:全国調査でマムシ咬傷の治療法に再考が必要と示唆された。
著者
齋藤 祐介 田久 浩志 齊藤 英一 田中 秀治 植田 広樹 曽根 悦子
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.625-632, 2018-10-31 (Released:2018-10-31)
参考文献数
18

背景:プレホスピタルでは,ショックの早期認知のため出血痕から出血量を推定することがある。しかし,測定方法(OF法)は床や衣類の2種類のみを対象としており,アスファルト舗装(A舗装)と出血痕の関係性についてはわかっていない。目的:A舗装における出血痕と推定出血量について検討する。方法:3種類のA舗装を実験群,OF法を対照群として,模擬血液を用いて出血痕の面積を測定し比較検討した。結果:200mLの出血痕では,OF法を1,800cm2としたとき,密粒度舗装(排水性能なし)は778.5m2で約0.4倍,排水性舗装(排水性能あり)は84.9cm2で約0.04倍の違いがみられた。考察:OF法は簡易的な出血痕測定であるが,A舗装では過小評価のおそれがある。舗装表面の形状と道路種別を評価して測定することで過小評価を防ぐことができる。結論:A舗装の出血痕は,排水性能の有無を評価して出血量を推定する必要がある。
著者
田島 典夫 高橋 博之 畑中 美穂 青木 瑠里 井上 保介
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.16, no.5, pp.656-665, 2013-10-31 (Released:2013-11-25)
参考文献数
12

はじめに:バイスタンダーによるBLS は,実施者に相当な精神的負担がかかると想定されるが,これに関する研究自体が少なく対策も進んでいない。そこで,バイスタンダーのストレス反応を明らかにし,心のケアに関する対策を検討することを目的として調査を行った。対象と方法:2008年8月から2011年10月までの間にバイスタンダーによるBLSが実施されて社会復帰した事案のうち,バイスタンダーの連絡先を把握している事案を抽出し,当該事案の救助に携わった者を対象に面接調査を実施した。結果:多くのバイスタンダーがさまざまなストレス反応を経験していた。また,その体験を他者に話して,自分の気持ちを理解してもらいたいと考える者が多かった。結論:BLS教育において,BLS実施によるストレスとその対処法に関する教育を考慮する必要がある。さらに対策の一環として,相談を受けるシステムを整備することが有用であり,急務であると考えられる。
著者
布施 明 坂 慎弥 立澤 裕樹 吉野 雄大 萩原 純 布施 理美 宮内 雅人 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.703-710, 2016-12-31 (Released:2016-12-31)
参考文献数
9

ツイッターで熱中症の共起ワードに着目し,熱中症救急搬送者数との関係を検討した。2014年6月1日から9月30日の間の,日別の熱中症救急搬送者数を集計し,「熱中症と考えられる」ツイートの114,003件を分析対象とした。搬送者数とツイート数の相関係数は0.91で強い相関があり,地域でも同様であった。共起ワードを検討すると,熱中症とは直接関係性が考えにくい単語でも相関が強い場合があることが明らかとなった。年代別での検討では50代以上で頻出する共起ワードの使用率が他の年代と比較して高かったが,性別での検討では,明らかな特徴はなかった。今回の結果は2014年,単年の分析結果であり,他年にも同様の傾向があるかについては検討する必要がある。50代以上はツイートの利用率は低いが,他の世代に比較して共起ワードの検出率が高かった。本結果をもとに,今後,SNSを用いた熱中症の予防に役立つような手法の開発が望まれる。
著者
安田 康晴 山本 弘二 岸 誠司 友安 陽子 坂口 英児 藤原 ウェイン翔
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.51-54, 2019-02-28 (Released:2019-02-28)
参考文献数
12

背景:救急隊現場到着所要時間・病院収容所要時間の延伸および救急車走行中の事故,ヒヤリハットの発生は,自動車運転者が救急車のサイレン音に気づかず救急車の接近が認識できないため緊急走行が妨げられていることも要因の一つであると推測される。目的:自動車運転者に救急車サイレン音が聴こえているかについて検討すること。方法:自動車走行時の車内騒音量と距離別に救急車サイレン音量とを比較した。結果:自動車まで20mの救急車サイレン音(46.4±1.3dB)は,自動車走行中車内音量,オーディオ視聴時(54.6±6.7dB)や会話時(68.4±1.6dB)より小さかった。考察:救急車が20mに接近してもサイレン音量は窓全閉時の走行中車内騒音量より小さいこと,音が高齢者に聴きづらい周波数帯であることなどから救急車の接近が認識できないと考えられた。サイレン音の改良やサイレン音量の基準の見直しが必要である。
著者
北村 淳 宮部 浩道 植西 憲達 加納 秀記 平川 昭彦 原 克子 小宮山 豊 山中 克郎 武山 直志
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.711-715, 2014-10-31 (Released:2015-01-24)
参考文献数
10
被引用文献数
1

致死量の眠気予防薬を服用した急性カフェイン中毒の2 例を経験した。症例1:20代の男性。市販の眠気予防薬を大量内服(無水カフェイン計8g)した。入院後,鎮静薬投与下においてもカフェインの作用による興奮が強く,入院2日目まで痙攣を認めた。第20病日に退院となった。症例2:30代の男性。市販の眠気予防薬を大量内服(無水カフェイン計14g)した。入院後ただちに,血液吸着および血液透析を施行した。人工呼吸管理中に興奮や痙攣などを認めず,第11病日に退院となった。両症例のカフェインおよびカフェイン代謝産物の血中濃度を経時的に測定したところ,血液吸着および血液透析後に明らかな減少を認めた。臨床所見も考慮すると,血液浄化法の早期導入がカフェイン中毒に奏功したと考えられた。致死量を内服した急性カフェイン中毒には,血液吸着に血液透析を併用した迅速な血液浄化法も有効な治療手段の一つであると考えられた。
著者
城川 雅光 笠井 あすか
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.461-467, 2014-06-30 (Released:2015-01-23)
参考文献数
9

2004年度から2012年度の小笠原諸島の急患搬送記録を調査し,現状と課題を検討した。搬送例は合計266例であった。搬送患者の特徴は,外傷,脳血管障害,虫垂炎など手術やICU管理を要する症例が多かった。搬送時間は,全島平均で9時間34分と長時間を要する。一方,空港のある硫黄島からの患者搬送は,地理的に遠いにも関わらず,父島と母島の平均搬送時間と比較して45分程度短い。また搬送要請の過程で,結核患者の搬送が問題となっていた。空港建設が進まない現状で搬送時間短縮に有効な手段の一つとして,航続距離,巡航速度,着陸場所の条件を満たすティルトローター機の就航が考えられる。感染症患者搬送については,病原体や利用する航空機を問わず安全性を確保する上で,簡易アイソレーターの搭載が有効であろうと考える。しかし航空機搭載基準を満たしている製品は,国内で取扱い中止となっており,既存の製品で運用試験を行うことが課題である。
著者
竹中 信義 平川 昭彦 加納 秀記 津田 雅庸 武山 直志 服部 友紀
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.672-677, 2017-10-31 (Released:2017-10-31)
参考文献数
10

トラベルミン®は中枢性制吐薬および鎮暈薬として市販されており,成分は抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミンサリチル酸塩とキサンチン誘導体のジプロフィリンである。今回,致死量を超える量を内服した急性中毒例を経験した。症例:24歳男性。発熱,不穏状態のため当院に搬送され,口腔内乾燥,瞳孔散大,白血球高値,横紋筋融解を認めた。頭部CT,髄液検査,トライエージDOA®では異常所見を認めず,原因不明の意識障害として人工呼吸,血液浄化などの集中治療を行った。第2病日には意識清明となり,本人より市販のトラベルミン®を100錠内服したことを聴取した。その後,腎不全に陥ったが改善し第17病日に軽快退院となった。トラベルミン® による中毒例の報告は現在までに多くないが,近年インターネットの自殺サイトなどで服薬自殺が可能な薬剤として紹介されており,誰でも容易に購入可能であるため今後増加してくる可能性があり,中毒症状および治療法についての十分な認識が重要である。
著者
廣瀬 正幸 平川 昭彦 中野 裕子 田島 康介 山田 成樹
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.702-706, 2020-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
17

目的:一般用医薬品による急性薬物中毒の現状と地域の薬剤師や薬局の問題点を検討する。方法:過去8年間に一般用医薬品を過量服薬した86例を対象に,年齢・性別,製剤の種類,患者数の推移,致死量摂取例の成分について検討した。また,販売者である地域の薬剤師50 名にアンケート調査を行い,薬剤師や薬局の問題点について調査した。結果:患者数の割合は年々増加傾向であり,総合感冒薬の摂取が29%ともっとも多く,致死量に達した成分別ではカフェインが46%であった。アンケート調査では「流行している中毒やその対応方法などの情報を入手する機会がない」と回答した薬剤師は78%であった。結論:一般用医薬品による薬物中毒患者は増加傾向であり,さまざまな対策が必要である。救急常駐薬剤師と地域の薬剤師との連携は,過量服薬の防止につながると考えられ,中毒患者への対応・対策が病院の救急領域だけでなく,地域社会にも広がることを期待したい。
著者
濵田 千枝美 蓑田 恒平 三宅 功祐 眞田 彩華 石川 成人 安藤 恒平 真弓 俊彦
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.41-45, 2022-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
12

わが国においてショック充電中に胸骨圧迫を実施すると充電がキャンセルされるAEDが存在するといわれているが,その実状は不明である。また,無脈性心室頻拍の際にAEDが除細動の適応なしと誤判定した症例も報告されているが,AEDのショック適応基準などのプログラムも不明である。今回,それらを明らかにするためにアンケート調査を行った。 結果:AED製造/ 販売メーカー8社から,AED,半自動式除細動器,AEDモード付きマニュアル除細動器合計44機種の回答を得た。そのうち,ショック充電中に胸骨圧迫により充電がキャンセルされる機種が30機種,充電中も胸骨圧迫が可能な機種は14機種であった。また,無脈性心室頻拍の鑑別は各AED製造企業が独自のプログラムを組んでいることが判明した。 今後,さらなるAEDの機種の改善・開発や適切なAED使用方法の周知や対応により,救命率の向上につながることに期待する。
著者
植田 広樹 田中 秀治 田久 浩志 匂坂 量 白川 透 後藤 奏 島崎 修次
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.578-585, 2016-08-31 (Released:2016-08-31)
参考文献数
10
被引用文献数
1

背景:病院外心停止傷病者に対するアドレナリンの投与の有効性については臨床的なエビデンスが不十分である。目的:救急救命士が心停止プロトコールに沿って実施したアドレナリン投与が社会復帰率に及ぼす影響について検討すること。方法:全国ウツタインデータ(2006〜2012年)から300,821症例を対象とし,アドレナリン投与群(n=40,970)と非投与群(n=259,851)に分類して効果を解析した。結果:アドレナリン投与による心拍再開率は非投与群の7.9%に対して投与群が22.5%と良好なものの,社会復帰率は非投与群の3.2%に対して投与群が1.9%と低値を示した。しかし,接触から7.9分以内に限定した早期投与群を検討すると,アドレナリンを投与された傷病者の社会復帰率は4.2%と,それ以降に比べ高かった〔OR=4.23(3.44-5.20)〕。考察:今後は,救急救命士が傷病者への接触から7.9分以内にアドレナリンを投与できるように何らかの工夫を講じ,傷病者接触から薬剤投与までの時間を短縮することが必要と言える。結語:病院外心停止症例においてアドレナリンは,早期に投与すれば社会復帰率を改善しうると考える。
著者
矢野 和美 山下 寿 財津 昭憲 瀧 健治 古賀 仁士
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.528-533, 2018-06-30 (Released:2018-06-30)
参考文献数
12

重症の高齢者肺炎患者に対し,どこまで積極的に治療を行うか,救急の現場で医療従事者が悩む症例が増えている。今回,当院救命救急センター搬送後,人工呼吸管理を行った75歳以上の高齢者肺炎患者を生存退院群と死亡退院群に分け患者背景,予後因子を検討した。ICU,HCU入室患者124例中,45名が人工呼吸管理され,転帰は生存退院が13例(28%),死亡退院が32例(72%)であった。また生存退院13例のうち,11例は退院時のADLが入院前と比較して低下しており,人工呼吸器離脱困難が4例,自宅に戻れた患者は2例のみであった。生存退院群と死亡退院群の比較では,アルブミン値,PH,PaCO2値,乳酸値で有意差を認め,アルブミン値とPaCO2値が独立した予後因子であった。今回の結果より人工呼吸管理を行った高齢者肺炎患者の予後は厳しいうえ,生存転帰が社会復帰となることは難しく,患者の栄養状態,社会的背景,退院後転帰を考慮した治療指針が必要ではないかと考えられた。
著者
高橋 哲也 武居 哲洋 伊藤 敏孝 平野 雅巳 竹本 正明 八木 啓一
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.504-508, 2014-08-31 (Released:2015-01-24)
参考文献数
15
被引用文献数
1

目的:診断が遅延したWallenberg 症候群の特徴を検討すること。方法:2005年4月1日から7年間に横浜市立みなと赤十字病院へ入院した新規発症脳梗塞1,331例のうち,神経内科医によりWallenberg症候群と診断された症例の特徴を後方視的に検討した。また初診時に正診された群(初回診断群)と後日診断が確定した群(遅延診断群)の比較検討を行った。結果:調査期間内のWallenberg症候群は23例で,神経学的異常所見は失調歩行が47.8%と最多であった。遅延診断群は11例(47.8%)で,初診時診断名と外来転帰は末梢性めまい(帰宅3例/入院5例),片頭痛(帰宅2例/入院1例)であった。初診時に頭部MRIを施行された3例中2例に異常所見を認めなかった。遅延診断群は初回診断群と比較し,発症から来院までの時間が有意に短く(4.1 ± 5.7 vs 17.8 ± 19.5時間,p<0.05),神経学的異常所見数が有意に少なかった(1.2 ± 1.0 vs 2.5 ± 1.5,p<0.05)。結論:発症早期に神経学的異常所見が少なく,MRIでも偽陰性となる場合があることがWallenberg症候群の診断遅延の要因と考えられた。
著者
砂川 智佳 後藤 縁 小川 健一朗 北川 喜己
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.946-950, 2022-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
11

水タバコは,燃やしたタバコの煙を水にくぐらせ濾過された煙を吸う喫煙方法である。タバコの加熱時に発生する一酸化炭素(CO)を吸入することで急性CO中毒を生じるリスクがあるが,わが国での報告は限られている。症例は25歳,女性。シーシャバーで水タバコを3時間喫煙した後,意識障害を生じ救急搬送された。意識レベルはGlasgow Coma Scale(GCS)E1V1M4。静脈血ガス検査でCOHb 30.7%と高値であり,急性CO中毒と診断した。 高濃度酸素を投与し,COHbは2時間後に14.5%,8時間後に0%まで低下。意識レベルは4時間後にGCS E4V5M6まで改善した。遅発性脳症のリスクを考慮し,高気圧酸素療法が可能な施設へ転院とした。5カ月後の時点で後遺症はみられていない。わが国でも水タバコを提供する店舗が増加しており,救急医療にかかわる者は,水タバコによるCO中毒の危険性を認識し啓発に努める必要がある。
著者
髙井 美智子 上條 吉人 井出 文子
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.22-29, 2015-02-28 (Released:2015-02-28)
参考文献数
16
被引用文献数
1

救急医療の現場には,自殺企図や故意の自傷により受傷した患者が頻繁に搬送され,その多くが急性薬物中毒によるものであり,特に向精神薬の過量服薬が大部分を占めている。本研究では,北里大学病院救命救急センターに搬送された急性薬物中毒患者81名(男性:18名,女性:63名)を対象に質問紙調査を実施し,向精神薬の過量服薬の実態および関連する心理社会的要因について検討を行った。80名(98.8%)が何らかの精神障害に罹患していた。自殺念慮の有無における過量服薬した向精神薬の量に違いが認められなかったが,数時間以上前から過量服薬を考えていた患者は,衝動的に過量服薬した患者に比べて,摂取する量が有意に多かった。患者の心理社会的背景として,無職で家族・恋人・友人といった身近な人間とのトラブルを契機に衝動的に過量服薬する傾向が認められた。今後,精神障害の治療に加え心理社会的介入の必要性が示唆された。
著者
山口 陽子 田中 博之
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.21-28, 2016-02-29 (Released:2016-02-29)
参考文献数
9

目的:現場で意識レベルがJapan Coma Scale(JCS)=1と判定された症例について調査する。方法:2009年8月1日からの4年間に救急車で当院へ搬送され,現場での意識レベルが記録されていた4,626例を対象とした。現場の意識レベルがJCS=0,JCS=1,JCS≧2の3群に分け,比較した。結果:JCS=1の原因病態は失神,てんかん,過換気症候群,急性アルコール中毒,頭部外傷,脳血管障害,循環血液量減少などが多く,意識障害に近い病態分布を示した。結論:最も軽症の意識障害を示すJCS=1という病態は確かに存在し,かつJCSを用いてしか判断できない。しかし,JCS=1の頭部外傷症例はJCS=0の8倍強,脳血管障害は約3倍と頻度が高い。救急救命士らはこの事実を認識し,より慎重に意識レベルを判定するとともに,搬送先選定にも役立てるべきであると考える。JCS=1を意識障害として認識するなら,JCSという評価方法は,より軽症の意識障害を拾い上げるという観点に限れば,Glasgow Coma Scaleより優れていると考えられる。
著者
木村 信広 中尾 彰太 月木 良和 萬田 将太郎 松岡 哲也
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.455-461, 2019-06-30 (Released:2019-06-30)
参考文献数
6

心停止症例に対する機械的CPRは,『JRCガイドライン2015』で胸骨圧迫の継続が困難な状況などにおける質の高い用手胸骨圧迫の代替手段として活用を提案されるなど,とくに傷病者の移動時や救急車の走行中の不安定な状況下における質の高い胸骨圧迫の継続が可能なデバイスとして期待されている。筆者の所属する消防機関では,CPA傷病者に対する病院前心肺蘇生中の胸骨圧迫中断時間の短縮を目的に,機械的CPR装置を導入しており,今回,実搬送症例データを基に機械的CPRの有用性を検証した。2013年1月からの3年6カ月間に,当消防本部の救急隊が対応した内因性院外心停止症例172例を,機械的CPR実施群107例と用手的CPR実施群65例に分けて比較分析した結果,機械的CPR実施群では用手的CPR実施群に比し,自己心拍再開率および社会復帰率に有意差を認めなかったが,Chest Compression Fraction(CCF)と特定行為実施率が有意に高かった(CCF;79.7% vs. 73.1%,p<0.01,特定行為実施率;43.9% vs. 24.6%,p<0.05)。欧米と比較して早期搬送が優先されるわが国の病院前救護体制においては,CCF改善とマンパワー確保の観点から,機械的CPRは有用である。
著者
神山 麻由子 岡本 博照 細田 武伸 和田 貴子
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.557-564, 2013-08-31 (Released:2013-10-15)
参考文献数
20

救急隊員の仕事のストレスを把握する目的で,X 市消防局職員1,246 人に対して勤務状況調査票と職業性ストレス簡易調査票を用いて悉皆調査を行い,このうち救急隊員を消防・救助隊員と比較した。救急隊員215 人は消防隊員418 人と救助隊員163 人に比べ,出場時間と出場関係の業務時間が有意に長く,休憩時間と仮眠時間は有意に短かった。救急隊員の不良なストレス要因は,消防隊員と比較して心理的な仕事の負担(質)および仕事の裁量度,救助隊員と比較して心理的な仕事の負担(量)および仕事の適性度を認め,ストレス反応は救助隊員と比較して不良であった。一方,男性標準集団との比較では,救急隊員のストレス反応は良好であり,ストレス要因の少なさと良好な社会的支援の影響が示唆された。救急患者の適切な搬送はきわめて困難な業務であるため,ストレス要因対策だけでなく上司,同僚,家族や友人からの社会的支援が重要であることが示唆された。
著者
植田 広樹 田中 秀治 田中 翔大 匂坂 量 田久 浩志
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.46-51, 2018-02-28 (Released:2018-02-28)
参考文献数
15

背景:近年,早期に投与されたアドレナリンが脳機能予後を改善することが報告されている。しかし,119番通報から傷病者への接触までの時間(以下,Response time)と,傷病者へ接触してからアドレナリンを投与するまでの時間(以下,Adrenaline time)を関連付けた報告はない。目的:本研究の目的は,病院外心停止症例において救急救命士による早期アドレナリン投与がResponse timeに関係なく,脳機能予後の改善に影響を及ぼすか検討すること。方法:全国ウツタインデータ(2011〜2014年)を用いた後ろ向きコホート研究を実施した。対象は年齢8歳から110歳までの目撃ありの心停止(心静止,VF,無脈性VT,PEA)でアドレナリンの適応であった症例のうち,119番通報から救急救命士が傷病者への接触まで16分以内,かつ傷病者へ接触してから22分以内(99%タイル以内)にアドレナリンを投与した13,326症例を抽出した。対象をResponse timeが8分以内の群(n=6,956)と8分以上16分以内の群(n=6,370)の2群に分類し,さらにそれぞれの群をAdrenaline timeが10 分以内の群と,10分以上の群の2群に階層化した。Primary outcomeを1カ月後脳機能予後良好率,Secondary outcomeを心拍再開率としてロジスティック解析を実施した。結果:Response timeの2群に対して,Adrenaline time の早さにより1カ月後脳機能予後良好率に影響を与えるかオッズ比で比較してみたところ,Response timeが8分以内の群は2.12(1.54〜2.92)であった。8分以上16分以内の群は2.66(1.97〜3.59)であった。一方,心拍再開率はResponse time が8分以内の群で2.00(1.79〜2.25),8分以上16分以内の群で2.00(1.79〜2.25)であった。Response timeが8分以内の群も8分以上16分以内の群も,Adrenaline timeが10分以内の群の方が10分以上の群と比較し1カ月後脳機能予後良好率,心拍再開率ともに有意に高かった。考察:病院外心停止症例においてアドレナリンは,Response timeが8分以上かかったとしても,16分以内であれば,救急救命士が傷病者へ接触後できる限り早期に投与すれば1カ月後脳機能予後良好率を改善し得ると考える。結語:今後,救急救命士は傷病者への接触から10分以内の早期にアドレナリンを投与するための工夫を行うとともに,地域のプロトコールを見直すなど,早期にアドレナリンを投与できるための努力が必要である。
著者
柏浦 正広 齋藤 一之 横山 太郎 小林 未央子 阿部 裕之 神尾 学 田邉 孝大 杉山 和宏 明石 曉子 濱邊 祐一
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.794-799, 2014-12-31 (Released:2015-01-24)
参考文献数
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症例は70歳代男性。気分障害にて入院加療中であったが,一時外出中に自宅のメッキ工場でメッキ加工に使用する無水クロム酸を服毒し,その3時間後に当院救命救急センターに搬送された。来院時,口腔内はびらんが強く,一部粘膜は剝離しており,上部消化管内視鏡検査では食道や胃の粘膜表層が剝離していた。血清クロム濃度は842.6μg/dLであった。ジメルカプロールとアスコルビン酸を投与したが,ショック状態となった。集学的管理を行うも,入院36時間後には肝不全,播種性血管内凝固症候群も併発し52時間後に死亡した。剖検では口腔から食道まで粘膜は剝離しており,凝固壊死がみられた。六価クロムは強い酸化剤であり,容易に吸収され腐食性の損傷を生じる。またその細胞毒性から肝・腎障害を生じることが知られている。本症例でも高度の腐食性の化学損傷を起こし,肝・腎不全の悪化から多臓器不全を生じたものと考えられた。