著者
森山 陽介 河野 重行
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.3-9, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
40

動物や植物,原生生物を含む多くの真核生物において有性生殖の際にミトコンドリアの母性遺伝(片親遺伝)現象が普遍的にみられる.これは生殖細胞が同型であるか異型であるかを問わない.母性遺伝について最も受け入れられている仮説は,受精前あるいは受精後にオルガネラDNAが選択的に分解されるというものであった(Kuroiwa et al. 1982, Kuroiwa 1985).我々が真正粘菌を用い,片親由来のミトコンドリアDNA(mtDNA)が接合子の形成後に選択的に分解されることを明らかにしたことは,この仮説の直接的な証明となった.また,粘菌の性(接合型)は二極に収斂しておらず複数存在することから,性依存的にmtDNAが選択的に分解される機構について多くの手がかりが得られる.本総説では真正粘菌を用いることで明らかになったミトコンドリアの母性遺伝の機構について紹介したい.
著者
河野 重行
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

申請者は,真正粘菌Physarum polycephalumで,ミトコンドリアプラスミド(mF)を見いだしている.本研究課題の目的は,(1)このmFプラスミドの起源とミトコンドリアへの侵入・伝播・成立の分子機構とその存在意義を明らかにするとともに,(2)mFプラスミドミの水平伝播能を利用し,ミトコンドリア用のベクター開発を目指すことにあった.mFは,mtDNAの一部(mID, 479bp)とほぼ完全に相同な領域(pID, 475bp)をもっており,この間の相同組換えによって,mtDNA内に組み込まれる.mIDがmtDNAに残されたmFの痕跡とすると(pID→mID), mFは,(i)P.polycephalumの種の確立する以前にミトコンドリアに侵入していたか,(ii)種の確立以後に極めて速やかに種全体に伝播したと考えられる.逆に, pIDがmtDNAに由来するものなら(mID→pID),(iii)mFは極最近になってP.polycephalumに侵入した可能性が高い.収集の結果,P.polycephalumの由来の異なる粘菌アメーバを30株以上を保有することができた.本年度は,それぞれのmIDとpIDの塩基配列決定を引き続き行うとともに,近縁種の収集にも力を入れた.1)PCR法を用いて,組換え型,pIDとmIDの有無を調べた.また,mIDとpIDは全て塩基配列を決定し,塩基置換の種類と有無によってmIDとpIDの系譜図を作成している.これによって,pID→mIDとmID→pIDのいずれかが決定できるものと思われる.2)P.polycephalumおよびその近縁種を用いて,mFプラスミドの水平伝播の可能性を探るとともに,mFプラスミドを改変し,mFプラスミドの伝播に果たす末端タンパク質(TP)の役割に注目し,薬剤耐性マーカーの付加やpID改変によるベクター化の可能性を探っている.
著者
大田 修平 河野 重行
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.19-23, 2019
被引用文献数
1

<p>植物や藻類のカロテノイドは光合成のアンテナ色素や抗酸化作用などの役割をもつことで知られている.単細胞緑藻の一種であるヘマトコッカスはβカロテンを前駆体としてアスタキサンチンと呼ばれる赤いカロテノイドを産生し細胞内に蓄積する.最近の研究によりこのアスタキサンチンは油滴に含まれ,βカロテンやルテインなどのカロテノイドと異なり葉緑体の外側に存在していることが明らかになった.このことからアスタキサンチンは葉緑体に局在するカロテノイドとは本質的に異なる機能を有することが示唆される.タイムラプスイメージング解析を行うと,油滴に含まれるアスタキサンチンは光に応答して細胞内を能動的に移動し,強光を遮断している現象が見られた.ハイパースペクトルカメラやフリーズフラクチャーレプリカ法によるイメージング解析の結果,ヘマトコッカスはアスタキサンチンを用いて光の強弱に対する巧妙な適応戦略を発達させ,強光を回避していることが明らかになった.</p>

1 0 0 0 はじめに

著者
河野 重行 河地 正伸
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.39-40, 2017

<p>1/10 mmにも満たない微細な藻類の育種が注目されている.大気に含まれる酸素のほとんども,白亜の海岸も,シェールガスさえもが,地質時代に地球上で大繁殖した微細藻類に由来する.本レポートは,日本植物学会第80回大会(2016年9月16日~19日 沖縄)のなかのシンポジウム3aSB01-06「微細藻類の多様な魅力:分類,進化,ゲノムから形態,藻類バイオまで」からの報告である.微細藻類の多様な魅力を紹介するために,老若男女―黒岩先生から野村真未さんまで,さまざまなキャリアとセンスの研究者に思う存分,微細藻類の多様な魅力を語ってもらった.</p>