著者
河野 麻沙美
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.25-40, 2007 (Released:2020-07-06)

本研究は,教室談話を通した課題解決学習を進める算数授業を対象に,児童の理解過程を検討したものである。教師が提供した学習を支援するための数学ツールではなく,教室談話を通して,子どもたちが作り上げた独自の絵図が互いの学習を支援し,理解深化を促した事例に即して,教室における知識構築の過程を分析した。絵図の生成過程における,教室談話と図の使用から捉えられた理解過程を検討し,数学ツール理解の様相と比較すると,図の表象が果たす役割に違いがみられた。学習を支援するはずの数学ツールは,子どもたちの理解を表象する図とはならず,絵図は,子どもたちの知識や思考スタイルの集大成となっており,さらに概念を可視化する数学的表象としての役割と,場面を表象する具体性を持ち合わせていた。Cobb らの数学理解を支援する活動の性質を捉えた「立ち戻り」概念にある共有・再共有の過程は,概念を可視化し,場面を表象するこどもたちの絵図がイメージとして機能し,また,くり返し立ち戻る過程で,子どもたちが様々な表現を用いて説明することで,子どもたちによる足場組みがなされ,子どもたちの理解深化が支えられていたことが分かった。