著者
黄 啓徳 田中 齊太郎 泉 唯史 森谷 敏夫
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F4P2297, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 高齢社会が進む昨今、高齢者がADLやQOLを保ち続けるためには、機能的自立度を維持・向上することが、不可欠である。特に、歩行能力は機能的自立度の大きな要因となっており、例えば、歩行速度の改善により、死亡率が改善することが報告されている(Hardy et al. 2007)。また、高齢者における歩行制限は、転倒・骨折、寝たきり、認知症などの問題に関連し、ADL低下(Guralink JM.1995)などの予測因子になる。このことから、高齢者の歩行能力の維持・向上は大きな課題といえよう。 近年、筋力が低下した高齢者や糖尿病などの疾患保有者に対する運動療法として、筋電気刺激(以下EMS)が着目されている。EMSの特徴は、運動弱者に対しても、弱い強度で、選択的に速筋線維を動員する(Hamada et al. 2003)ことで、筋肥大を引き起こす可能性が示唆されている。 本研究では、通所リハビリテーション(以下デイケア)を利用する高齢者に対し継続的にEMSを行い、機能的自立度、特に歩行能力に及ぼす影響を検証することを目的とした。【方法】 実験参加者は当院併設のデイケア施設の利用者のうち、10m以上の歩行が可能な18名(mean ± SE, age = 76.3 ± 1.9 yr, 介護度 = 1.9 ± 0.2 )とし、EMS群10名(通常のデイケアプログラムに加えて、EMSを行う群)とCON群8名(通常のデイケアプログラムのみを行う群)にランダムに振り分けた。EMS群は1日20分週3回のEMSを下肢4箇所(大腿四頭筋、ハムストリングス、前脛骨筋、下腿三頭筋)に対して8週間行った。 EMS群、CON群とも8週間の実験期間の前後に、10m歩行テスト(通常歩行の歩行速度・歩調・歩幅)、チェアスタンドテスト(5回の立ち上がり)、関節可動域(膝関節屈曲角度・股関節屈曲角度)、握力、ファンクショナルリーチテスト、ステッピング、開眼片脚立位、膝伸展筋力の体力テストを行い、機能的自立度を評価した。【説明と同意】 本研究に対しては、実験計画書を当院倫理委員会に提出、承認を得た。また、実験参加者に対しては口頭および文章にて本研究の趣旨、研究内容、期間等を説明し、同意書にて署名をし、本研究の同意を得た。【結果】 EMS群では、10m歩行テスト中の歩行速度、歩幅、歩調、チェアスタンドテスト、膝関節屈曲角度、股関節屈曲角度、握力、ステッピングについて、実験後の体力テストにおいて、実験前に比べ、有意に上昇した(p<0.05)。また、それ以外の項目に関しては、有意な変化は見られなかった。 一方、CON群は、すべての項目について、有意な変化は見られなかった。【考察】 本実験では、EMS群においてのみ、歩行速度の有意な増加が確認された。歩行速度=歩幅×歩調で表されることをふまえると、歩行速度の増加は、歩幅、歩調の両方の増加によるものであると示唆された。また、歩幅の増加は、チェアスタンドテストで表される筋パワーの増大と関節可動域の改善によるものと示唆される。一方、歩調の増加は、ステッピングによって表される敏捷性の改善によるものと示唆される。 このことにより、通常のデイケアのプログラムにEMS20分を週3回・8週間付加することにより、歩行速度を中心とした機能的自立度の改善の可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】 本実験では、通常のデイケアプログラムのみを行った群では、実験前後の変化が確認されなかった。このことは、通常のデイケアプログラムのみを8週間行うことにより、機能的自立度が維持されることを示唆している。だが、電気刺激を短期間(8週間)付加することにより、機能的自立度の維持だけではなく、一部の機能において向上することが認められた。 脳血管疾患、転倒・骨折、関節症、認知症などの理由で、通常の運動療法では、機能的自立度の改善に必要な運動強度に達しない高齢者は少なからず存在する。そのような高齢者に対してEMSは、能動的な運動療法が困難な高齢者に対しても、今後非常に有用な手段になると考えられる。
著者
泉 唯史 田中 みどり 菅原 基晃 菅原 基晃 住ノ江 功夫
出版者
姫路獨協大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

運動中の心機能応答の評価のために,運動負荷頸動脈エコーを用いた評価を試みた.体幹と頭部を固定する特殊な運動装置を用いることにより,運動時においても安定した頸動脈エコーを取得することができた.心エコーを用いて従来の心機能の評価によって得られた左室収縮能および拡張能と比較すると,頸動脈エコーから得られた指標は,収縮能においては良好な相関が得られたが,拡張能においては今後の課題を残した.