- 著者
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泉 留維
中里 裕美
- 出版者
- 専修大学経済学会
- 雑誌
- 専修経済学論集 (ISSN:03864383)
- 巻号頁・発行日
- vol.47, no.3, pp.1-16, 2013-03-15 (Released:2013-04-10)
1980年代頃から世界各地で地域通貨が導入されるようになり、日本では2000年前後から取り組みが本格化していった。現在、日本においても10年以上取り組まれている地域通貨が存在するようになっているが、そのような地域通貨は、主として地域経済の活性化を狙うのではなく、地域での人と人の新たな繋がりを重視している。すなわち、地域通貨による取引やそれに伴って発生したイベントなどを通じて、地域に絆や信頼、互酬性の規範など社会生活を円滑にする関係が育まれていくことを期待するものである。いわゆるソーシャル・キャピタルの醸成を念頭においているといえよう。地域通貨とソーシャル・キャピタルとの関連についての考察を行うため、1999年から千葉市で取り組まれている地域通貨ピーナッツを事例として取り上げ、二段階で分析を行った。まず,2000年2月から2010年6月までの間の地域通貨ピーナッツ会員の取引記録データを用いて、社会ネットワーク分析を行った。そして、取り組みの中心をなしているメンバーの聞き取りから、地域通貨ピーナッツの歴史を明示し、上記の取引ネットワークの構造的特徴についての解釈を行った。その結果として、次の諸点が指摘される。地域通貨ピーナッツでは、新しい取引関係が続々と生み出され新たなネットワークを形成しており、一定の取引量を維持している一方で相互取引が少なく、個人と個人の取引は少ないことなどそのネットワークは薄くて弱い。その薄くて弱いネットワークが構築されていく中で、ピーナッツの中心的なメンバーが主体となった様々なイベントが間断なく生まれており、地域通貨の取引が地域社会に地縁や血縁などとは異なる新たな繋がりをもたらしていると言えよう。