著者
奴田原 健悟
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.91-101, 2016-03-11

近年,ゼロ金利下におけるニューケインジアンモデルでの政策効果が,従来のマクロ経済理論で考えられていたものと大きく異なることが指摘され,パラドックスとも呼ばれている。本稿では,このゼロ金利下の政策効果のパラドックスが「右上がりの総需要曲線(AD 曲線)」によって説明できることを示す。またパラドックスの多くは,学部教育でも使用可能なフォワードルッキングな要素を持たないケインジアンモデル(IS-MP モデル,AD-AS モデル)による可視的なアプローチによって説明できることを示す。
著者
Mori Hiroshi Cole Tim Kim Sanghyo
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.29-39, 2021-03-15

Japan's economy made rapid and steady progress in the post-war half century and children grew by 2 cm per decade. Economic development in South Korea was some two decades behind Japan, due to the Korean War (1950-53). Teens in Korea were 2-3 cm shorter in height than their Japanese peers in the 1960-70s, caught-up with the latter in the early 1990s and then outgrew Japanese teens by 3 cm in the mid-2000s. They ceased, however, to grow any taller afterwards, whereas the national economy remained prosperous and per capita supply of animal-sourced foods, including milk increased appreciably.School boys in Korea were 1.5 cm greater than their Japanese peers in growth velocity from 1st graders in primary school to high school seniors in the early 2000s but began to fall persistently in velocity to be 2 cm below Japanese in the end of the 2010s.Analyzing Household Expenditure Surveys, 1990 to 2019, the authors were stunned to discover that Korean children started to turn away from vegetables in household consumption in the mid-1990s and ate as little as 10% of vegetables as the control group (people in their 50s) in the mid-2010s. Children in Japan started to steer away from fruit and vegetables in the end of the 1970s, when supply of per capita meat and milk was expanding. It is suspected that vegetables and fruit may be among essential nutrients for child height development.
著者
永江 雅和
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.77-92, 2013-11-30

私立鉄道会社の経営にとって、出発時の用地買収は重要な課題である。1923年設立された小田原急行鉄道株式会社(現小田急電鉄株式会社)が沿線用地をどのように買収し、駅を設置してきたのか、沿線地域の史料をもとに検討した。第1に注目される点は創業者利光鶴松のネットワークである。政治家時代に自由党に入党し自由民間活動家や東京市政関係者と親交を結んだ利光は、これらのネットワークを活用して、沿線地域との交渉を行った。第2の論点は駅の設置場所を巡る交渉である。沿線地域のなかでも多摩川以西の神奈川県内陸部の自治体は、東海道線開通以後、県の動脈が沿岸に集中したことから、内陸部の鉄道敷設を渇望しており、少数の例外を除き同社の路線敷設に賛成であった。ただ用地買収条件については、個別の土地所有者の利害が存在し交渉は難航した。小田原急行側は、後発私鉄であるがゆえに、隠密の用地買収を行うことができず、地域有力者の調停が不十分な場合、駅設置の有無、設置場所を交渉カードとして用いた事例が確認された。駅用地についても従来は地元自治体が好意的に寄付を行う事例が多かったと述べられているが、実際には寄付は同社から要求されているケースが多く、駅の設置をめぐり、沿線自治体内外で紛争が生じる場合も存在したことを地域文献を元に明らかにしている。
著者
山口 勝業
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.183-199, 2009-03-23

博士論文要旨および審査報告:学位授与年月日;平成20年10月18日,学位の種類;博士(経済学),学位記番号;[博]経乙第22号
著者
中島 巖
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.41-65, 2016-11-30

消費の習慣化は,消費を通じて消費を学習していき,学習が進むにつれ,享受される喜びの度合が増していく過程を意味するとされる。そこでは,過去の消費経験の蓄積が,一種の資本ストックとなって,以後の所定の消費からの効用水準に影響力を発揮するものとされる。かかる所定の消費からの効用水準の変化は,時間経過にともなう選好の変化であり,一方で,外部の好情報,すなわち社会契約,広告を通じたデモンストレーション効果の作用にともなう変化であり,他方で,社会的,物理的相互依存性の作用にともなうそれであるとみなされ,とりわけ,後者は,喫煙,飲酒がその例として言及されてきたごとくである。しかるに,かかる変化のあり方を左右する要素として,効用函数の(非)定常性,割引函数の形状が指摘される。定常的効用函数,指数的割引函数の想定は,喫煙,飲酒,薬物等の消費にともなう中毒性をも合理的選択理論の枠組の中で議論され得る合理的中毒性に導く。以下では,まず,合理的中毒性の議論に分析的基礎を与える異時点間の効用依存性の下での最適定常経路のあり方と,その安定性に関するRyder=Heal の議論を展望し,次いで,合理的中毒性のあり方を,1財の消費が2種類の消費資本をもたらす場合における最適消費経路の周期的行動の発生可能性,さらに,1財の消費資本ストックが現行消費を抑制する負のフィード・バック効用が併せ作用する場合における最適消費経路の周期的行動の発生可能性を安定的領域の特定化を通じて検討する。
著者
松井 暁
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.17-42, 2010-12-15
著者
中西 泰夫
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.31-38, 2019-03-15

政府による規制の緩和が,生産性の上昇をもたらすかどうかは,各国の市場において重要なテーマであり,定量的にテストされることが必要とされている。特に生産性の上昇を計測することが,まず重要である。この論文では生産関数を推定して,そこから生産性の上昇率をもとめている。その際に近年重要になっている内生性の取り扱いに,十分な配慮をして,最新の方法を含んだいくつかの手法で計算している。そして,規制の緩和が生産性の上昇にどれだけ貢献しているかを,パネルデータをつかって推定することによりもとめている。内生性の排除について適切な方法で処理しており,より正確な方法であると考えられる。分析の結果は,生産関数は内生性を考慮した方法により,有意なパラメータの推定結果を得た。したがって内生性の処理をされた生産関数の推定には成功している。規制緩和に関しては,規制緩和が生産性の上昇に有意に貢献しているという結果を得ているが,その際の規制緩和に関する推定方法については,まだ検討の余地が残されており,結論はつけられない。
著者
森 宏
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.197-213, 2019-12-16

人の身長は,動物蛋白(特に幼少期における)で決まるは,学界の通説である。1960年代から70年代にかけて,高3男子の平均で,日本のほうが韓国より3cm前後高かった。この差は「蛋白説」が妥当する。両国とも学童身長の増進は目覚しく,1990年代の初期には両国の差はほぼ解消した。韓国の児童はその後も着実に伸び続け,2000年代半ば(2005)には韓国のほうが3-4cm高くなった。韓国における動物性食品の増加は際立っていたが,2005年時点でも,1人当たり動物性食品の摂取量は,日本のほうが20%程度多かった。「もともと」朝鮮人のほうが日本人より(民族的に?)その程度高かったという説がある。一世紀前の1900-20年代,20歳の成年男子の比較で,朝鮮人のほうが日本人より2cm前後高かった。同じ頃,日本の統治下にあった台湾のほうが朝鮮の若者より3cm高かった。2005年前後,1人当たり食肉消費に関し,台湾は韓国を60%越えていた。台湾の児童は平均的に日本とほぼ同じ水準で,韓国より3-4cm低かった。「もともと」「民族的に」は,説得力を失う。FAOSTATによると,韓国は動物性食品の消費は少ないが,日本と台湾に比べ,1人当たり供給カロリーは,1970年代後半から200-300kcal/day程度多く,同じく1人当たり野菜の純供給は,200kg/yearを超え,それぞれ日本と台湾の2倍前後の水準を維持していた。台湾については分析結果を持たないが,日本において「若者の果物・野菜離れ」は,これまで繰り返し述べてきたように,度を外れている。
著者
永江 雅和
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.77-92, 2013-11-30 (Released:2013-12-23)

私立鉄道会社の経営にとって、出発時の用地買収は重要な課題である。1923年設立された小田原急行鉄道株式会社(現小田急電鉄株式会社)が沿線用地をどのように買収し、駅を設置してきたのか、沿線地域の史料をもとに検討した。第1に注目される点は創業者利光鶴松のネットワークである。政治家時代に自由党に入党し自由民間活動家や東京市政関係者と親交を結んだ利光は、これらのネットワークを活用して、沿線地域との交渉を行った。第2の論点は駅の設置場所を巡る交渉である。沿線地域のなかでも多摩川以西の神奈川県内陸部の自治体は、東海道線開通以後、県の動脈が沿岸に集中したことから、内陸部の鉄道敷設を渇望しており、少数の例外を除き同社の路線敷設に賛成であった。ただ用地買収条件については、個別の土地所有者の利害が存在し交渉は難航した。小田原急行側は、後発私鉄であるがゆえに、隠密の用地買収を行うことができず、地域有力者の調停が不十分な場合、駅設置の有無、設置場所を交渉カードとして用いた事例が確認された。駅用地についても従来は地元自治体が好意的に寄付を行う事例が多かったと述べられているが、実際には寄付は同社から要求されているケースが多く、駅の設置をめぐり、沿線自治体内外で紛争が生じる場合も存在したことを地域文献を元に明らかにしている。