著者
波多 野和夫
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.199-203, 2006 (Released:2011-07-05)
参考文献数
20

【要旨】(1)Wernicke-Lichtheimの図式は失語理解のために有力かつ含蓄に富むモデルである。(2)特異な復唱障害を呈する深層失語は認知神経心理学的思考に依拠した症候群であるが、この図式により連合主義的にも理解可能である。(3)復唱が保存された混合型超皮質性失語には、この図式での説明が可能な言語野孤立例と、不可能な言語野病変例が共に存在する。(4)我々が記載した同時発話は同時的復唱として特殊な復唱保存例と言える。しかしその背景は全失語であり、この図式では説明不能である。(5)言語野が全面的に崩壊した全失語で、反響言語または同時発話を呈する例が確実に存在する。この現象を説明するためには、皮質下レベルで感覚系と運動系を媒介する経路が存在しなければならない。以上を根拠にしてこの図式の修正を試みた。