著者
植村 研一
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.23-29, 2009 (Released:2010-03-10)
参考文献数
8

8年間も英語を学習した大学卒業生のほとんどが英語を駆使できないのは日本における英語教育の失敗である。短期間に役立つ外国語教育に成功している外国の例は驚異的である。人間の脳は言葉を聞いて自然に理解でき、話せるようになる。Bilingualの脳にはそれぞれ独立した言語野が形成されるが、これはlistening practiceから入った教育の成果であって、単語と文法を使った直訳を通した外国語学習では、何年続けても独立した言語野は形成されないし、駆使できない。日本の外国語教育の失敗の原因は脳の言語習得機構を無視した結果である。著者の効果的教授学習法を紹介する。
著者
渡邉 修
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.78-86, 2009 (Released:2010-03-10)
参考文献数
12

東京都の高次脳機能障害者実態調査(2007年;対象は通院患者899人)によると、高次脳機能障害者が呈する症状として、行動と感情の障害、記憶障害、注意障害、失語症、遂行機能障害が上位を占めた。これらの障害のなかで、特に行動と感情の障害、注意障害、遂行機能障害の責任病巣として前頭葉の占める比率は高く、社会参加を阻害する大きな要因となることから、リハビリテーションを進める上でターゲットとなる障害である。リハビリテーションは急性期には要素的訓練を、慢性期には代償的訓練が主体となり、いずれの時期でも、行動障害に対する行動変容療法や、人、構造物、制度からなる環境調整に配慮する。認知障害や行動と感情の障害は身体障害に比べ回復に時間を要することから長期的訓練と支援が重要である。認知リハビリテーションによって脳神経活動は、損傷範囲を避け、健常者と異なる多様な賦活パターンを示すようになる。
著者
本田 秀夫
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.33-39, 2017 (Released:2017-08-09)
参考文献数
8

【要旨】発達障害は、何らかの特記すべき精神機能の特性が乳幼児期からみられ、その特性が成人期も残ることによって生活に支障をきたすグループである。DSM-5で「神経発達症」というグループ名が採用されたことからもわかるように、このグループに属する障害はいずれも何らかの神経生物学的異常が想定されている。 発達障害の特性の有無あるいはその程度は、社会適応の問題の深刻さと必ずしも線形の相関関係にはない。特性を有しながらも成人期には治療や福祉的支援を要しないケースもあることから、発達障害の少なくとも一部は疾病というよりも生物学的変異とみるべきである。一方、環境因に基づく二次的な問題が重畳することによって、今度は逆にきわめて深刻な精神疾患の状態に陥ることがしばしばある。大人の発達障害の診断には、「発達障害であるか否か」ではなく、「発達障害の要因がどの程度その人の精神状態および生活の質に影響を及ぼしているか」という視点が必要である。 発達障害の認知構造および発達の道筋は独特である。従来の研究は、発達障害の人たちがそうでない人に比べて何がどう劣っているのかという視点に基づくものが多かったが、今後は特有の認知スタイルとは何か、発達障害の特性を有する人たちが二次障害を被らずに社会参加できるよう育っていくために必要な特有の発達の道筋は何か、などに関する研究が求められる。
著者
大須 理英子
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.217-222, 2005 (Released:2011-07-05)
参考文献数
14

脳が手足を制御するときに解決すべき問題は、制御プログラムが手足のあるロボットを制御するとき解決すべき問題と類似している。計算論的神経科学では、このような視点から、脳に実装されていると思われる機構を同定する。これまでの研究により、例えば速くて正確な腕の運動を実現するためには、フィードフォワード制御が必要であることがわかってきた。このためには、制御対象(例えば腕)のダイナミクスを表現する内部モデルが脳内に獲得されていなければならない。リハビリテーションが必要な状態というのは、このような脳内の制御機構に何らかの異常を来したか、その制御対象である手足に異常を来したのかどちらかであることが多い。いずれの場合にも、速くて正確な運動を取り戻すには、内部モデルの再構築が必要である。これまでのリハビリテーション訓練は、フィードバック制御を必要とする運動が多く、内部モデルを再構築するには最適ではない可能性がある。このような視点からリハビリテーション手法を見直すことでよりよい機能回復がはかれる可能性がある。
著者
杉下 守弘
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.51-67, 2012 (Released:2017-04-12)

大正天皇(1879-1926)は大正三年、陛下三十五歳の頃に緩徐性進行性疾患に罹かられた。稀に見る珍しい御病気といわれ、いまだ不明のままである。このため、色々な憶測が行われている。本稿はこのような迷妄を打破するため、大正天皇のおそば近くに居られた方々の日記、侍医や宮内庁御用係による拝診書や御容態書、および大正天皇実録などを検討し大正天皇の御症状、御病気、およびその原因を明らかすることを試みた。大正三年(1914)、発話障害(恐らく、失語症、しかし構音障害の可能性もある。)で始まり、その後、前屈姿勢が生じた。大正四年(1915)、階段の昇降に脇からの手助けが必要となった。四年後(大正七年、1918)の11月には発語障害は増悪し、軽度の記憶障害が認められた。五年後(大正八年、1919)には歩行障害が生じた。その後、これらの症状の増悪とともに、大正十年(1921)末には御判断及び御思考なども障害され認知症となられた。大正天皇の御病気は、初発症状が「失語症」なら「原発性進行性失語症」と推定される。「原発性進行性失語症」は言語優位半球(通常は左大脳半球)の前頭葉、側頭葉および頭頂葉のうちの少なくとも1つに脳萎縮がおこり、はじめに顕著な失語症を生ずる。その後、脳萎縮が広がるにつれ、失語症は徐々に増悪し、さらに記憶、判断、思考なども障害され、認知症となる。「原発性進行性失語」には三つの型があり、大正天皇の御症状はそのうちの「非流暢/ 失文法型」の可能性がある。初症時の発語障害が失語症ではなく、構音障害の場合は「大脳基底核症候群」が考えられる。「大脳基底核症候群」は、一側優位の大脳半球皮質と皮質下神経核(特に黒質と淡蒼球)などの萎縮でおこるといわれる症状で、中年期以降に徐徐に始まり、ゆっくり進行する運動及び認知機能障害である。「原発性進行性失語症」あるいは「大脳基底核症候群」などを起こす原因については現在のところ明らかにはされていない。大正天皇は御降誕後一年の間に二回、鉛中毒が原因の可能性がある「脳膜炎様の御疾患」に罹患された。幼少時に脳疾患に罹り、その症状が完全になくなり、しかも長年にわたり症状が無くても、その幼少時の脳疾患が原因で別の神経変性疾患をおこすということはありうることである。したがって、御降誕後に二回罹患された脳膜炎様の御疾患は「原発性進行性失語症」あるいは「大脳基底核症候群」の危険因子(病気を引き起こしやすくする要因)と考えられる。
著者
福井 俊哉
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3+4, pp.156-164, 2010 (Released:2012-01-01)
参考文献数
8
被引用文献数
2

【要旨】遂行(実行)機能とは、「将来の目標達成のために適切な構えを維持する能力」と定義され、具体的には、1) 目標設定、2) 計画立案、3) 計画実行、4) 効果的遂行などの要素から成り立っている。換言すると、1) 意図的に構想を立て、2) 採るべき手順を考案・選択し、3) 目的に方向性を定めた作業を開始・維持しながら必要に応じて修正し、4) 目標まで到達度を推測することにより遂行の効率化を図る、という一連の行為を指す。 遂行機能の総合検査法には、簡便なものとしてFrontal Assessment Battery (FAB)、詳細なものとしてBehavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome (BADS)などがある。さらに、遂行機能を包括的な機能と捉えた場合、その一部を構成する下位脳機能(とその検査法)として、分割注意、複数課題の処理能力(かなひろいテスト、Trail Making Test)、思考セットの変換(Stroop Test)、思考スピード(語想起)、帰納的推測(Wisconsin Card Sorting Test、Tower of Hanoi)などがある。遂行機能障害は前頭葉または線条体前頭葉投射系の障害で生じる。遂行実行機能障害の発現に直接関与する投射系は背外側前頭前野投射系であるが、外側眼窩前頭葉投射系の障害は脱抑制的・無軌道な行動を生じ、また、前部帯状回投射系の障害は無為・無関心を生じ、いずれも遂行機能を間接的に障害する可能性がある。
著者
宮内 哲 上原 平 寒 重之 小池 耕彦 飛松 省三
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-7, 2012 (Released:2017-04-12)

磁気共鳴現象を利用して生体の断層像を撮像するために開発されたMRI 装置で脳活動を計測するfMRI の原理が確立されてから二十年が経った。この間fMRI は、特定の刺激やタスクに対する反応として一過性に賦活される脳領域を高い空間分解能で同定する計測法として用いられ、多くの知見が蓄積されてきた。近年になって、安静時の自発性脳活動のfMRI 信号から、離れた脳領域間の活動の相関を求めたり、グラフ理論により脳全体を情報ネットワークとみなして脳の状態を推定する研究が飛躍的に増大している(resting state network及びdefault mode network)。本稿ではfMRI を用いた脳研究の最近の動向として、安静時の自発性脳活動に関するresting state network及びdefault mode networkについて概説する。

2 0 0 0 OA 記憶障害

著者
長田 乾 小松 広美 渡邊 真由美
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.118-132, 2011 (Released:2017-04-12)

記憶は、過去を回想するときの把持時間から、短期記憶と長期記憶に分類され、短期記憶は数十秒程度の記憶、長期記憶は数分から数十年前の記憶とされる。短期記憶には、電話番号を即座に憶えるなどの一時的な情報保持機能である作動記憶が相当する。長期記憶は、記憶内容を言葉で表現できる陳述記憶と技術や無意識の経験など言葉で表現できない非陳述記憶に分類される。陳述記憶には、出来事記憶と意味記憶が含まれる。出来事記憶は、個人的な体験やイベントの思い出に相当し、意味記憶は客観的な事実・知識・情報など学習によって習得される一般的な知識や教養に相当する。出来事記憶は加齢の影響を受け易いが、意味記憶は加齢の影響を受け難い特徴がある。非陳述記憶には、水泳や自転車の運転など必ずしも意図せずに習得した技量や技術に係わる記憶に相当する手続き記憶が含まれる。手続き記憶も加齢の影響を受け難く、認知症でも若い頃に修得した手続き記憶は相対的に保たれることが多い。記憶障害を時間軸で捉えると、脳損傷を受けた時点以降の記憶が欠落する状態を前向性健忘、一方受傷以前の出来事を思い出すことができない状態を逆行性健忘と呼ぶ。逆行性健忘では、新しい出来事から古い出来事へ、複雑なことから単純なことへ、慣れないことから習熟したことへ記憶の解体が進む。
著者
加我 牧子
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.29-33, 2011 (Released:2017-04-12)

発達障害とは「発達期に生じる脳神経系の発達の遅延又は異常による状態を広く指す言葉である」ことを理解した上で、使われている状況や使っている人の考え方を理解して対応する必要がある。個々の発達障害児の心的特性や行動特徴を前提に、短時間で飽きない評価方法を工夫し、他覚的アプローチを多用した上で、背景となる病態を理解し、その後の支援に貢献できるような評価法が必要である。そのため本稿では認知機能評価に用いられる検査の概要、Wech‐sler 系知能検査の応用、social skill training が自閉症の身体図式の改善に有用であることの例示、AD/ HD の抑制機能評価の方法などいくつかの実例を呈示した。
著者
杉下 守弘 朝田 隆
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.87-90, 2009 (Released:2010-03-10)
参考文献数
2
被引用文献数
3

高齢者用うつ尺度短縮版(GDS)の日本版(GDS-S-J)を作成した。作成に際して、質問項目が現在の日本文化からみて妥当であるか否かを検討した。また、聞いて分かりやすい訳語を使用した。さらに、各項目の日本文が長くならないように配慮した。このように、文化的および言語学的妥当性を高めてあるので、実際に用いることができると考えられる。英語版から翻訳された心理検査では文化的妥当性と言語学的妥当性を考慮する必要があるが、同時に英語版との等価性にも配慮する必要がある。これによって英語版のデータと日本語版のデータを比較しやすくなるからである。
著者
川合 伸幸
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.103-109, 2011 (Released:2017-04-12)

ヒトにとって、「目につきやすいモノ」がある。あるモノは、背景の色や形態との違いによって目立つが、通常の視覚情報処理経路とは異なる、上丘を介した経路(網膜→上丘→視床枕→扁桃体)で伝えられるために見つけやすい対象がある。怒り顔やヘビである。これら脅威の対象をすばやく見つけられることで、危険な状況での反応(闘争や逃走)の準備が効率化し、生存に有利になると考えられる。私たちの研究で、3 歳児の子どもであってもヘビをすばやく見つけることがわかった。そのことは、脅威の対象がバイパスして扁桃体に伝わるのは生得的であることを示唆しているが、学習によってもバイパスされるようになる。そこでヘビが生得的な脅威の対象であるかを調べるために、実験室で生まれヘビを見たことの無いサルで視覚探索実験を行った。その結果、サルもヘビの写真をすばやく見つけた。すなわち、サルやヒトは進化の過程でヘビを生得的に脅威を感じる対象としたと考えられる。ただし、サルを直接ヘビと対面させたところ、ヘビを怖れる個体と、まったく怖れない個体がいた。ヒトでは、怒り顔など恐怖の対象に対する感受性が、セロトニントランスポーターの多型性と関連しているとされる。近年マカクザルでも同じ多型性があることが報告されている。そこで、遺伝子の多型性を分析し、ヘビへの恐怖との関連を検討した。これらの恐怖反応の個人差と遺伝子の多型性の関連についても考察する。
著者
守口 善也
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.34-42, 2011 (Released:2017-04-12)

アレキシサイミア(失感情症)とは、自己の感情の同定や表象の困難という情動処理の不全に関する性格傾向で、心身症などの疾患で重要とされる。その脳機能の研究は重要であるが、体型的なまとめはなかった。ここでは、従来のアレキシサイミアに関わる脳機能画像研究をレビューした。その結果、1)外的な情動(視覚)刺激、及び想像性に対する辺縁系・傍辺縁系(扁桃体、島皮質、前帯状回、後帯状回)の反応性は低下しており、2)内的な体性感覚・運動などの「身体」にまつわる刺激に対しては、島皮質や感覚運動領域をはじめとして、むしろ亢進している。3)社会性の課題に対しては、内側前頭前野・島皮質等において活動が低下していた。アレキシサイミアがもつ「外的な情動刺激への鈍麻」と、一方で「より内的でダイレクトな「身体」感覚への過敏」という脳機能の特性は、アレキシサイミアの人の一部が身体症状に依存することにつながっていると思われる。
著者
杉下 守弘 逸見 功 JADNI研究
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3+4, pp.186-190, 2010 (Released:2012-01-01)
参考文献数
2

【要旨】 Mini Mental State Examination (MMSE)(精神状態短時間検査)は最も広く使用されている認知症スクリーニング検査のひとつである。2006年、新たにMMSEの日本版(MMSE-J)(翻訳、翻案、杉下守弘、2006)を作成した。MMSE-Jの妥当性を、JADNIに参加した健常者107名、MCI 154名、AD 52名の合計313名を対象として検討した。38医療施設の認知症を専門とする医師が被験者313名を健常者、MCI(軽度認知障害患者)およびAD(アルツハイマー病患者)に分類した結果と、その後、MMSE-Jの検査を行い、MMSE-Jの得点による2分類(23点以下を認知症の疑いありとし、24点以上を認知症の疑いなしとして2群を作る分類)を比較して、予測的妥当性を検討した。100-7版の予測的妥当性は、感度0.86、特異度0.89であった。逆唱版の予測的妥当性は、感度0.88、特異度0.94であった。 MMSE-Jのスクリーニング時の検査成績と、6カ月後の再検査成績のある、142名(健常者71名、MCI 47名、AD 24名)について、MMSE-Jのスクリーニング時の検査成績と、6カ月後の再検査成績の相関係数を算出した。相関係数は、100-7版で0.81、逆唱版で0.77であった。JADNIおよびADNIがおこなっている4つの心理テスト(MMSE、CDR、Logical MemoryおよびGDS)をもとにした分類(健常者、MCI、ADの3群に分類。健常者とMCIをまとめて1群とし、ADを1群として2群とする。)とMMSE-Jの得点による2分類(23点以下を認知症の疑いありとし、24点以上を認知症の疑いなしとして2群を作る。)を比較し、予測的妥当性を検討した。100-7版の予測的妥当性は、感度0.83、特異度0.92であった。逆唱版の予測的妥当性は、感度0.83、特異度1.00であった。信頼性を検討するため、MMSE-Jの内部一貫性をみるため、アルファー係数を計算した。100-7版0.58、逆唱版0.47であった。100-7版と逆唱版の相関係数は高く、スクリーニング時に0.89であり、6か月後の再検査時には0.92であった。以上のデータはMMSE-Jが認知症のスクリーニング検査として十分に使用可能であることを示している。
著者
大六 一志
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3+4, pp.239-243, 2009 (Released:2011-06-30)
参考文献数
20

今日の知能検査が何を測定しようとしており、今後どのような方向に発展しようとしているのかについて検討した。21世紀に入ってウェクスラー知能検査は言語性IQ、動作性IQを廃止し、知能因子理論に準拠するようになった。また、数値だけでなく質的情報も考慮したり、課題条件間の比較をしたりすることにより、入力から出力に至る情報処理プロセスのどこに障害があるかを明らかにし、個の状態像を精密に把握するようになっている。現在は、高齢者の知的能力の測定に対するニーズがかつてないほど高まっていることから、今後は高齢者の要素的知的能力の測定に特化した簡便な知能検査が開発されるとよいと考えられる。
著者
渡辺 茂
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.161, 2011 (Released:2017-04-12)

美に生物学的起源を求める考え方は進化美学あるいはダーウィン美学といわれ、生息圏の選択が美的感覚の起源であるという環境説や、性選択起源説が考えられてきた。しかし、これらの理論は思弁的なものが多かった。この講演ではヒト以外の動物における美を1)弁別刺激としての美(美を見分ける)、2)強化としての美(美の快楽)、3)運動技能としての美(美の創造)、の3 つの観点から実験的に分析する。1)については弁別訓練によってある程度美のカテゴリーが弁別可能であることが示されたが、もちろん、ここで言う美は洗練された芸術的な意味でのそれではなく、ごく低いレベルの美しさである。2)については種差、個体差があるが、個体差はヒトの場合にも認められるものである。3)は訓練によって絵画を描くといったことは可能であるが、作られたものが他個体にとって、あるいは自分自身にとって強化的であるかは不明である。

1 0 0 0 OA 美の認知

著者
川畑 秀明
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.84-88, 2011 (Released:2017-04-12)

人は何に、どのように美を感じるのであろうか。芸術や美をめぐる問題は自然科学 からのアプローチが極めて稀であったが、近年の機能脳画像の手法の進歩はそれを可能にし た。この神経美学は、人文科学の問題を自然科学の手法を用いて明らかにしようとするた め、その問題の所在が自然科学者には分かりにくい点も多い。本稿では、哲学から心理学、 脳神経科学に至る美の認知研究の課題を整理した上で、美の本質、基準、過程という3 つの 問題に対するアプローチの例を紹介しながら、美の認知研究の枠組みを論じる。
著者
村井 俊哉 生方 志浦
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3+4, pp.164-170, 2017 (Released:2018-04-12)
参考文献数
11

【要旨】脳損傷後には、依存性、感情コントロール低下、対人技能拙劣、固執性、引きこもりなど、社会的場面における行動に様々な問題が生じてくる。前頭葉は社会的行動と関連する重要な脳領域であるが、その損傷の直接の結果として生じる行動障害は、アパシー、脱抑制、遂行機能障害という3つの症候群として考えることが可能である。アパシーは内側前頭前皮質、脱抑制は眼窩前頭皮質、遂行機能障害は背外側前頭前皮質の損傷とそれぞれ特異的に関連しているとの主張も見られるが、実際には病変と症候の対応関係はそれほど明解ではない。個々の症例における評価と対応においては、実生活の中で問題となる社会的行動障害がどのようなきっかけで生じるかを分析し、必要とされる具体的な能力の獲得を目指すことが必要である。
著者
波多 野和夫
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.199-203, 2006 (Released:2011-07-05)
参考文献数
20

【要旨】(1)Wernicke-Lichtheimの図式は失語理解のために有力かつ含蓄に富むモデルである。(2)特異な復唱障害を呈する深層失語は認知神経心理学的思考に依拠した症候群であるが、この図式により連合主義的にも理解可能である。(3)復唱が保存された混合型超皮質性失語には、この図式での説明が可能な言語野孤立例と、不可能な言語野病変例が共に存在する。(4)我々が記載した同時発話は同時的復唱として特殊な復唱保存例と言える。しかしその背景は全失語であり、この図式では説明不能である。(5)言語野が全面的に崩壊した全失語で、反響言語または同時発話を呈する例が確実に存在する。この現象を説明するためには、皮質下レベルで感覚系と運動系を媒介する経路が存在しなければならない。以上を根拠にしてこの図式の修正を試みた。