- 著者
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波多野 恭弘
- 出版者
- 物性研究刊行会
- 雑誌
- 物性研究 (ISSN:05252997)
- 巻号頁・発行日
- vol.84, no.1, pp.123-155, 2005-04-20
結品性物質が塑性変形する際の微視的機構であるdislocationのダイナミクスについて解説する。dislocationとは「線状の格子欠陥」であり、また「すべった面とまだすべってない面とを分ける界面」でもあるので、物理の言葉で言えば欠陥ダイナミクスであり、界面ダイナミクスである。そのようにみた場合、dislocationダイナミクスは二つの特異性をもつ。すなわち、ひずみ場を介した長距離相互作用と、格子に起因する離散性である。dislocation理論は1945年にOrowanらにより提唱されて以来古い歴史を持ち、とくに材料工学の文脈で多数の教科書やモノグラフが出ているが、非線形動力学という観点からはほとんど論じられていないようにみえる。この小論ではdislocation理論を非線形動力学の観点から紹介する。ただし筆者白身非平衡物理の出身であって材料科学の専門教育は受けていないので、dislocation理論の包括的な入門を書くことなどは不可能である。そのような知識の網羅は材料科学の教科書に譲り、ここでは「古い題材に対する新たな見方」の提供を試みる。この小論が物理説にdislocationへの興味を喚起するきっかけとなれば幸いである。