- 著者
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波多野 憲男
糸長 浩司
- 出版者
- 東京都立大学都市研究センター
- 雑誌
- 総合都市研究 (ISSN:03863506)
- 巻号頁・発行日
- no.28, pp.p3-37, 1986-09
本論は土地区画整理事業をとおしておこなわれる宅地供給の特性を検討したものである。その1は,宅地供給の観点から土地区画整理事業の実態の特性を,マクロ的な視点からの統計的解析手法を用いて,首都圏3県(埼玉県,千葉県,神奈川県)を対象とし,土地区画整理台帳を分析資料として解明したものである。首都圏3県での土地区画整理事業は,経年的には昭和40年代が全盛期であり,その特徴は県によって相違し,埼玉県型,千葉県型,神奈川県型といえる特徴があるが,主な特徴としては,埼玉県で市街地基盤整備的性格が強く,千葉県,神奈川県で宅地開発的性格が強い。また,施行面積の狭小な「ミニ区画整理事業」が発生する傾向が強まってきている。つぎに,宅地供給に深く関わる土地区画整理事業を,従前宅地率を指標として抽出し,これを「郊外地型土地区画整理事業」としてその特徴を解析した。首都圏での土地区画整理事業の全盛期であった昭和40年代は,郊外地型土地区画整理事業で占められ,郊外地型が首都圏の宅地開発に対して一定の役割を果たしてきた。郊外地型は,組合施行が主であり,施行面積が小規模で,事業期間も短縮化する傾向にある。組合施行による郊外地型は,千葉県,神奈川県において多く存在している。この郊外地型土地区画整理事業は保留地を伴っており,事業の性格を規定する上で大きな意味を持っている。その2は郊外地型土地区画整理事業が施行された地区をとりあげ,農民・土地所有者が土地区画整理事業地区内の宅地をどのように土地利用し,土地運用しているかを検討し,宅地供給者としての行動様式を明らかにすることによって農民・土地所有者がなぜ土地区画整理事業をとおして宅地供給を行うかを解明しようとしたものである。土地区画整理事業によるもとの農地や林地の宅地化は一時的にもとの農業的土地利用を中断させ,大量の未利用地を生み出す。事業後それが時間の経過とともに農用地としてもとの土地利用を回復する部分と建築地や駐車場・資材置場等の都市的土地利用が進む部分にわかれる。事業後15年程度を経過した時点はどちらかの土地利用にわかれた状況を示しており,以降の宅地供給は農用地の転換を待たなければならないことになり,一層,農民・土地所有者の土地利用・土地運用に左右されることになる。農民・土地所有者の土地区画整理事業地区内の土地利用・土地運用は,まず第一に農業経営上必要な農地であるかどうかによって規定されること,第二は世帯の生計維持の範囲での土地利用・土地運用であり宅地供給者として意識されたものではないこと,第三は換地の位置・形状・周辺状況にも規定されていることがわかった。