著者
酒井 寿郎 田中 十志也 浅場 浩
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

ペルオキシソーム増殖薬活性化受容体δ(PPARδ)はリガンド依存的に転写を制御する核内受容体の一つである.我々はPPARδが骨格筋の脂肪酸代謝を調節する因子の一つであることを報告した(PNAS,100,229-234,2003).選択的PPARδアゴニストGW501516(GW)の投与により,ミトコンドリアの増生,脂肪酸β酸化および代謝速度の亢進,骨格筋における顕著な脂肪滴蓄積の減少が認められ,高脂肪食(HFD)負荷によって惹起される肥満およびインスリン抵抗性を改善することを明らかにした.GWは骨格筋および肝臓において脂肪酸輸送,脂肪酸β酸化および呼吸鎖に関与する遺伝子群を誘導した.一方,普通食負荷したマウスのWATの遺伝子発現には影響を及ぼさないが,GWはHFDによって惹起されるTNFαおよびPAI-1の遺伝子発現増加を抑制した.さらに,HFD負荷したマウスの肝,骨格筋およびWATではインスリンによるPI-3キナーゼの活性化が顕著に低下していたが,GW投与群では有意な改善が認められた.以上のことより,GWは長期投与において持続的な抗肥満および抗糖尿病活性を有することが示唆された. PPARδアゴニストのインスリン感受性改善効果の一部は,肝や骨格筋での脂質蓄積抑制や脂肪細胞の肥大化を抑制し,PI-3キナーゼ介在性の糖取り込みやアディポサイトカイン産生を改善することによって発揮されていると考えられた.Oikeらとの共同研究で血管新生液性因子angiopoietin-related growth factorが抗肥満効果としてPPARδを介することを示した。また、私たちは転写因子Kruppel-like factor KLF15が絶食時に誘導されATPを合成するアセチル-CoA合成酵素プロモーター活性を調節することを明らかにした。KLF15は脂肪細胞の分化に関与する転写因子としても知られている。