著者
浅川 誠
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本年度は2年計画の最終年度としてサイクロトロンレーザ発振実験及び実験結果の解析を行い、以下の成果を得た。●サイクロトロンレーザー発振実験(1)自発放射光のスペクトルを測定した。今回の実験条件である磁束密度1T、磁場長3m、電子ビームエネルギー150MeVでは、電子はソレノイド磁場を通過する間に半回転しかサイクロトロン旋回しない。サイクロトロン共鳴波長は100μmであるにも関わらず、自発放射光はテラヘルツ波帯からミリ波帯にかけて非常に広帯域なスペクトルを示した。(2)光共振器を構築し発振実験を行った。電子ビーム伝送系のミスマッチングのためレーザー光は飽和には至っていないが、自発放射光強度の500倍程度にまで出力が増大した。●数値シミュレーションによる実験結果の解析(1)自発放射光の時間波形及びスペクトルを計算し、実験で得られたスペクトルと比較した。半回転のサイクロトロン旋回を行う電子からのサイクロトロン放射光は、共鳴周波数にかかわらず電子ビームのパルス幅と同程度の時間幅を持つ半周期電磁波を発生することが分かった。半周期電磁波とは通常の電磁波のように電場が正負の値をとらず、正値(あるいは負値)のみを取る電磁波の事を言う。シミュレーションで得られたスペクトルは、実験結果とよく一致しており、観測した放射光は半周期電磁波であると考えられる。(2)一次元の増幅シミュレーションコードを開発した。このコードにより、放射光が電子と相互作用するたびにそのパルス幅を狭めてゆき、飽和レベルに達する時には1psの極短パルスになることが分かった。この時スペクトルはより高周波側に広がり、相当量のテラヘルツ成分を持つようになることが分かった。以上の結果は超相対論的な電子ビームからのサイクロトロン放射を利用することでテラヘルツ帯の超短パルス/大出力光源が実現可能であることを示すものである。