- 著者
-
海野 敦史
- 出版者
- 公益財団法人 情報通信学会
- 雑誌
- 情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, no.3, pp.1-12, 2016 (Released:2017-02-06)
米国の法執行機関による IMSI キャッチャーを通じた情報収集について、それが令状手続によらずに行われる場合に、米国憲法修正 4 条にいう「不合理な捜索」に該当する可能性が議論の焦点となっている。これは、①公権力が個々の通信に関する情報を直接かつ一方的に収集する、②対象となった携帯電話端末の占有者において当該収集の事実を知ること及びそれを回避することが物理的に困難である、③収集・分析対象の情報の中には端末の所在地のように利用者のプライバシーに関する利益に深く関わると認められるものが含まれ得る、などの点にかんがみ、物理的な不法侵入の不存在や誰もが容易にアクセス可能な公共の空間における電波の受信という手法等にかかわらず、「プライバシーの合理的な期待」の保護と解されている同条の趣旨に基づき、令状主義の原則の要請に服すると考えられる。このとき、米国法上、通信傍受や通話番号等記録装置の設置・使用のあり方に関する電子通信プライバシー法の規律と同様に、かかる要請を具体化する新たな立法措置が求められる中で、通信傍受でも通話番号等記録装置の設置・使用でもない固有の特質を有する新種の「捜索」として位置づけられ得る。このことは、我が国において、今後 IMSI キャッチャーが普及するか否かを問わず、技術革新に対応した新種の捜査について、その実施が各人のプライバシーの権利等の基本権又は基本権に関する法益に対する本質的な制約となり得る限り、強制処分としての立法上の位置づけの再整理が必要となるという示唆を与える。