著者
中村 栄一 深沢 義正
出版者
The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan
雑誌
有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.1044-1054, 1987-11-01 (Released:2009-11-13)
参考文献数
63
被引用文献数
1 1

合成反応の予測性を高めることは研究の目的, 環境を問わず, 有機合成の大きな目標である。これまでも有機合成化学者は試行錯誤から得た経験に反応論や構造論を加味して反応の予測性を高める努力を行ってきた。最近顕著になってきた新しい流れは, 理論計算を合成化学者自身が行うことでこの問題にアプローチしようとする考え方である。過去数年間における計算機や情報ネットワークの普及は目ざましく, 10年前には大型計算機センターでしか出来なかった理論計算, 特に分子力学 (MM) 計算が今や実験室の片隅で行える時代となったことがその背景である。分子や反応に関する情報を計算機によって求める方法としては非経験的分子軌道 (MO) 計算がもっとも優れているが, 今日合成ターゲットとなっているような大きな化合物に関する情報をこの方法で得ることは事実上困難である。パラメータ上の制約のためにまだ比較的限られた化合物への適用しか許されないとはいえ, 計算の速さと簡単さの点でMM計算が1つの現実的な選択である。MM計算から求められる情報は基底状態の分子のある配座でのエネルギーと, そこでの分子の形態である。この2種類の情報を用いて反応生成物の分布の予想と結果の合理的解釈を行うことが計算の目的である。種々のMM計算プログラムが開発されてきたが, 最近の有機合成での応用例は殆んどAllingerらのMM2プログラムが使われている。本総説では身近になったMM2プログラムの有機合成での適用例についてまとめてみたい。