著者
清水 竜瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.p67-96, 1993-10

ヨーロッパの国々は,現在,景気後退と失業率の上昇に悩んでいる。通貨調整の失敗,消費の低迷,東欧などからの移民の増大がその原因と考えられている。ヨーロッパの経営者は,日本の現在の不況について熟知しているが,それでも貿易黒字1500億ドル,失業率2.5%,勤労意欲の高い労働者の存在に深い関心をもっている。日本の市場は,巷間言われているように閉鎖されていず,経済的,制度的には完全に開放されている,と考えている。ただ文化的,心理的に開放されていないという。ヨーロッパの経営者は,市場・技術動向について長期的に予測して,その経営戦略をたて成功しているようである。ただ日本の市場開放については,それに対する長期的視野が欠け,日本市場への参入に戸迷っている。建設会社の指名入札制度は工事の公平な配分と工事の品質という二つを保証する制度である。現物の所長,職人などの人心の機微についてのノウハウが利益の源泉である。外国人単純労働者でもまじめに働く人間は雇用してもいいのではないか。海外施工について設計から施工まで一貫した体制をもっている(東急建設)。企業の目的は,株主,顧客,従業員の3者を満足させることだが出発点はやはり株主である。日本市場は経済的には完全に開放されている。ただ文化的バリアーがある。これらは,日本人が日本国内の供給者から買いたがる傾向に現れる(ユニリーバ)。これからの通信革命は強力なPCを結びつけたネットワークの構築が中心になる。そのためのソフト開発では日独は米に大きく引きはなされている。日本市場に進出するには長期的な日本語教育が必要。日本の参入障壁にはメンタルなものが大きい。欧州の自動車部品メーカーが日本の部品メーカーと同品質,低価格のものを提供しても,日本の自動車メーカーは買わない(ドイツ銀行)。ロシアのアルミニウムの無秩序な輸出,欧州通貨の混乱,家計消費のマイナス成長などのマクロ経済的問題が経営上の最大の問題となる。日本はヨーロッパに余り関心がない。欧州の対外赤字は米国のそれよりも大きいし,失業率も高い。日米2国間交渉でもなく,GATTの成功に力を入れるべきである(ペシネ)。ぜいたく品を買う富豪が少なくなり中産階級の所得がふえた。彼等に買わせるために,大衆消費財まで,ぜいたく品と同じデザインにした。ぜいたく品と大衆品のデザインの差がなくなり,売れなくなった。対処策としてぜいたく品の品質アップとラコスタと組んだ大量生産品の製造・販売に力を入れる。自分の家が建てられなくても一生けんめい働く,日本人が羨しい。フランスでは社会保障がよすぎるから失業率が高くなる(ジャン・パトゥ)。出版を輸送関係,社会関係の雑誌から年金,税金,会社法などの分野に多角し,さらにそれらをCD-Romに変える。市場拡大と技術革新とを同時に行っている。これらを弁護士,中小企業オーナーなど,個人向けにし,彼等に利用しやすいようにデータバンクをつくっている(ラミー)。人間的側面が重要。経営者能力で最も重要なものは,相手の立場にたってものを考える能力。独学の人にはこれが欠けるので,アメリカでは成功するかもしれないがフランスでは成功しない。グラン・デコールなど正規の教育機関出身者が非常に少ないので,ヘッドハンティング重要な仕事になる。59歳で経営者を採用するのは遅くない。彼等は,先がないから大胆な仕事ができる(ジュウヴ・エ・アソシエ)。
著者
清水 竜瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.p98-141, 1992-06

大企業経営者に,その企業のもつ問題点,それに対する対処策ないし戦略,それを支える人間の組織,人間の評価についてインタビュー・サーベイを行った。問題点としては組織の硬直化が最も多い。創業時代のイメージを持ち続けたままの大規模化(セゾン),過度の堅実経営による大企業病(八十二銀行),図面通りつくるまじめ体質からの硬直化(日本エアブレーキ),旧い枠をたえず崩す必要のある体質(三菱油化),生産続行しながらの工場移転(三菱製鋼),モノカルチュアによる利益の不安定性(三井製糖),リストラのための就職斡旋(三菱マテリアル)など。対処策ないし戦略としては,トップの果敢な意思決定,研究開発の強化,多角化などがある。みんなが反対のときゴー(三菱油化),60%賛成があれぼゴー(三井製糖),経営者の体臭を企業文化に浸透(セゾン),社長の研究現場まわり(日本新薬),制御技術を応用した多角化(日本エアブレーキ),地域密着型の販売系列会社を使った多角化(井関農機),自社の力の限界を前提とした多店舗展開(ユニー),東京の一極集中を県の活性化に積極的活用(埼玉県),現場職長クラスのノウハウの活用(三菱製鋼),孫下請会社の積極的協力(島津製作所)など。人間の組織,人間の評価については業績主義・能力主義を主張するものが多い。人事評価の基準は環境と企業の関数であって変化する(セゾン),人事評価基準は業績プラス能力(三菱マデリアル),人事評価基準は業績プラスプロセス(八十二銀行),不適材不適所の配置による人材育成(八十二銀行),東南アジア出身のドクター採用による活性化(太陽化学),従業員持株制度の強化による不満解消(東洋水産)など。
著者
清水 竜瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.p135-185, 1993-06

バブル崩壊後,新聞,その他のジャーナリズムは,この金融自由化による複合不況はかつてないものであり,いままでの大量生産,大量販売の製造方式や,地に足のつかない高級品消費は全面的に変わるだろう,さらにこの不況は世界の不況と連動しているため,その回復は容易ではないだろう,と喧伝している。しかしこの鍋底のような先のみえない複合不況の下でも,日本・台湾の経営者は守りばかりでなく,次の飛躍の手がかりに確実に着手し,実行しはじめている。巷間問題となっているような,中間管理者の退職勧奨などという企業は,今回のインタビューに関する限り1社もなく,本社ビルの一部を売却してもその雇用を守りつづけようとしている。全体的にみて日本の経営者は,財務的,物的資源を縮小させても,人的資源は減少させることなく,その能力開発・意識改革によってこの未曽有の不況に対応しようとしている。製造業は本業重視,組織改革,コスト削減にまず力を入れている。事業領域を産業構造の変化に合わせてPA→FA→LA→HAと変えていく場合,人々の意識を変えるため新しい組織を導入してショック療法を行う(横河電機)。新しい技術情報・市場情報を積極的に利用すれば,売上が伸びなくても利益は無限に出しつづける(カヤバ工業)。電炉メーカーの参入や不況の長期化に対して本業重視の戦略をたて,高級品シームレスパイプのための900億の新設備投資をする(住友金属)。不況は波だから底が長くても必ず上がってくる。好況のとき忙しくてできなかった管理者の意識改革を不況のときじっくりやる(マブチモーター)。同じように不況下にある不動産業でも,その不況度によって対処策は異なる。不動産不況撃破推進本部をつくって,損を覚悟の見切り販売や,コスト削減のためのNAシステムを開発した。そして思い切ったぜい肉落しをした(日榮不動産)。マンションの含み損を早く表に出したほうがすっきりする。年俸制と組合わせた独得のリーズナブルな人事評価システムをつくった(長谷工コーポレーション)。バブル崩壊後も膨大な含み資産があり,従業員数も少なく,20数億という高純益をあげている(平和不動産)。一方サービス業のうちでも比較的楽なところと苦しいところがある。事業部別のホテルの個性化,QCサークルの積極的活用,人事評価制度の改善によって人々に一層の創造性の発揮を求める(藤田観光)。売上至上主義から利益重視への転換をするためには年功序列主義の廃止,人事評価制度の抜本改革による意識革令が必要である(東武百貨店)。野球では,悪いときは必ずよくなるから大丈夫だという自信を監督自身が持ちつづける必要がある。わがままな現代の若者については70点平均をとる人間より,120点と0点をとる人間がいい。120点をのばして技術が向上すると人格も向上する(読売巨人軍)。台湾のマクロ的な問題点としては,日台の人事交流の稀薄化,貿易の赤字化があり,その対処策としては台湾における日本語教育の充実,学生同士の交流の促進が考えられる(駐日代表)。経済の問題点として,空洞化,ハングリー精神の喪失,賃金・土地価格の上昇があり,現在その対処策として,外国人労働者の導入,工業団地の建設,ハイテク産業の誘致を考える(経済部部長)。大学問題としては,助教,専任講師は必ず外へ出す。副教授から教授への昇進は3段階の教授会で審査する。教授は副教授を審査する以上,副教授よりいい論文を書かなければ恥ずかしい。また全教員の毎年の研究業績をオープンにして教員全員にくばるから研究不足は恥ずかしい思いをする(國立中山大學)。台湾の金融界もバブル崩壊後の不況に悩んでいる。金融の自由化で一挙に15行の民営銀行ができ競争が激しくなった。またLC,先物取引などの自由化がはじまりその波及効果がわからない。その勉強のためにできるだけ多くの社員を海外研修に出している(中國信託銀行)。大資本の民営銀行が一挙に15行でき,しかも給料が公営銀行より高いので,こちらのエリートが引きぬかれる。しかも公営銀行は関係官庁のがんじがらめの規制で動けない。しかし国際化のための能力開発には力を入れている(臺灣銀行)。