- 著者
-
渋井 君也
- 出版者
- 文化学園大学・文化学園大学短期大学部
- 雑誌
- 文化学園大学・文化学園大学短期大学部紀要 (ISSN:24325848)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, pp.109-118, 2019-01-31
『源氏物語』は、中国では「日本の『紅楼夢』」と称されることがよくある。初めて『源氏物語』全文を中国語に翻訳した豊子愷は、かつて「白頭今又訳紅楼(白頭今又『紅楼』を訳す)」と書き、『源氏物語』を翻訳することを、『紅楼夢』を翻訳することに喩えた。『紅楼夢』の研究が中国で「紅学」と称されるのに対し、『源氏物語』の研究は「源学」と称される。近年、中国の『源氏物語』の研究が迅速に進むとともに、『源氏物語』と『紅楼夢』との比較研究は、中国における「源学」研究に占める比重が非常に大きいだけでなく、中国文学と外国文学を含む『紅楼夢』の比較文学の研究においても、それに比肩するのは恐らく『紅楼夢』と『金瓶梅』との比較研究のみである。『源氏物語』がそれほどまでに注目されるのは、主に中国の読者からみれば『源氏物語』が、『紅楼夢』と『金瓶梅』以外に貴族家庭小説の特徴を有し、しかも女性描写への傾注を特色とし、貴族社会を描いた長篇世情小説を提供したためである。