著者
篠塚 美穂 林 太郎 渡壁 晃子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db1226, 2012

【はじめに、目的】 がん患者リハビリテーションという診療報酬項目も設置され、がんのリハビリテーションが注目されているが、医療者全てにはまだ浸透の浅い分野である。今回、全身病状が悪化したため、化学療法が中止となったが、理学療法介入にて化学療法実施判定基準の一つであるPS(Performance Status Scale、以下PSと表記)が向上、再度化学療法適応となり、在宅復帰を果たした症例を報告する。また、当院では、理学療法士が緩和ケアチームのメンバーとなっており、一般病棟における緩和ケアチームの関わりも踏まえて報告する。【方法】 (緩和ケアチームの特徴)当院は電子カルテ採用にて、文書管理システム内に「緩和ケアスクリーニングシート」を作成。緩和ケアチームにコンサルトを希望する場合、職員のどの職種の誰もが発行できる。チームメンバーは随時シートを確認。アドバイス、介入につなげる。(症例)20代男性。進行胃癌(Stage4)。X年-2年、食べた物を嘔吐繰り返し近医受診。胃癌と診断。家人(両親)には余命1年と宣告。1st Line化学療法効果あり、経口摂取可能となるも、X年-1年、経口摂取困難。2nd Line化学療法へ変更。X年、経口摂取困難、緩和療法目的にて当院に紹介受診。受診当時、がん悪液質に近い状態。胃噴門部癌の食道浸潤部に対し、食道狭窄拡張術(ステント留置)施行。PS0。X年+2月、3rd Line化学療法実施。X年+6月上旬、左肩疼痛増強、熱発継続、膿胸にて入院。PS2。化学療法中止。左大量胸水(膿胸)にて呼吸困難出現。一時はO2 5Lまで増量。チェストドレーン留置し、持続ドレナージ開始。左肩甲骨疼痛には放射線治療(36Gy/12fr/2.5W)施行。緩和ケア病棟転棟も視野に入れ、主治医より緩和ケアスクリーニングシート発行あり。緩和ケアチーム介入。X年+7月、リハビリ依頼。理学療法介入。介入時、左側胸部よりチェストドレーン留置中。疼痛に対し、プレペノン持続皮下注実施中。リハビリ前にはレスキューとして看護師により早送り実施。約1か月の臥床にて、筋力低下著明(MMT下肢2レベル)。PS4。呼吸苦は安静時にはなく、Room Airで経過。立ち上がり困難。車椅子移乗も介助必要な状態であった。余命が月単位、急変もありうることから、できれば外出でも一度自宅に帰ることを目標に、リハビリ強化介入開始。また、病状から精神面での不安強く、リハビリ実施時に、想いの傾聴、緩和ケアチーム看護師と連携を図り、病棟看護師との報告も密に行い、精神面でのケアとしても介入。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の発表に伴い、ご本人に、個人が特定できない状態での情報の提供を依頼し、理学療法の発展のために役立てて欲しいと同意をいただいた。【結果】 介入から4週間(14回介入)で、PS2まで改善。MMT2であった両下肢は、4まで回復。理学療法介入し、詳細評価で左下肢下垂足が判明。今回の臥床で生じており、Dynamic AFO導入。装着後は、介助下歩行器歩行を経て、チェストドレーン抜去後は、両松葉杖介助歩行、介入2週間で車椅子外出を果たし、退院が視野に入る。精神面でも、介入当初は、車いす座位で「しんどい。もう死ぬかもしれない」と発言されていたのが、日常生活に介助量が減少してくる頃には、「目標がいろいろできた。何をするにしても歩けるようになりたい。がんと共存していかなくてはいけないこともわかっている」という発言が聞かれるようになった。リハビリ開始から4週にて、両松葉杖歩行自立。室内独歩近位監視、段差昇降見守りとなり、自宅退院を果たした。その後も、外来で週2回リハビリ継続。独歩訓練強化。X年+3月には、PS1となり、下垂足も改善。屋内装具除去歩行訓練実施。PS向上、化学療法再開となった。【考察】 体力的消耗、全身状態より、化学療法継続適応ではないと判断され、緩和ケアを主体として緩和ケア病棟転棟への見通しが立っていたが、本人の強い化学療法再開希望にて、理学療法介入、PS回復と遂げ、再度化学療法の適応となった1症例である。がん治療における化学療法適応は、患者自身がどの位動くことができ、身の回りのことが一人で行えるかというPS値で判定されることが多い。PS値を保つことができれば、がん治療の選択肢が増え、理学療法の関わりにより、生命予後を変えることができ、患者の希望を支持できることを改めて感じた症例であった。【理学療法学研究としての意義】 がんと共存する時代の到来で、2015年にはがん患者は533万人に達すると予想されている。今後、積極的に理学療法士としてがんの分野に介入することで、がん患者の「人生」の、QOL向上として関わることができると確信する。今回、この症例を報告することで、がんのリハビリの取り組みが、さらに社会に浸透するように願う。