著者
立石 康介 渡邉 英博
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.150-159, 2022-12-07 (Released:2022-12-21)
参考文献数
63

昆虫は,特に発達した嗅覚神経系を備えており,匂い情報を利用して種内でコミュニケーションを取り,天敵から身を守るだけでなく,匂い情報から環境状況をも適切に判断することができる。近年,昆虫の嗅覚受容関連遺伝子について解析が急速に進む中,非モデル生物でも嗅覚受容関連遺伝子の報告が盛んに行われている。このような遺伝子の機能解析には嗅感覚細胞からの電気生理学的記録が欠かせない。しかしながら,昆虫嗅覚神経系からの電気生理学実験を展開する研究室が世界的にも少なくなってきている。 本稿では,昆虫が備え持つ嗅感覚細胞から匂い物質に対する応答を直接的に記録でき,匂い情報の符号化様式を解析できる「単一感覚子記録法」について,筆者が発展させてきた実験方法を紹介する。
著者
渡邉 英博
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.89-105, 2013-09-20 (Released:2013-10-24)
参考文献数
120
被引用文献数
1

夜行性で雑食性の不完全変態昆虫であるワモンゴキブリ(Periplaneta americana)は高い匂い識別能力と匂い学習能力を備えた昆虫である。また,その実験学的な扱いやすさから過去四半世紀の間,嗅覚の神経機構を探る電気生理学研究や解剖学研究,行動実験に広く用いられてきた。ワモンゴキブリは二本の鞭状の長い触角の表面に存在する,三種類の形態学的に異なる嗅感覚子によって,外界の匂い分子を取得する。これらの嗅覚情報は一次嗅覚中枢である触角葉を構成する205個の糸球体の時空間的な応答パターンに符号化され,高次嗅覚中枢であるキノコ体や前大脳側葉で異種感覚情報や記憶情報と統合される。本稿ではワモンゴキブリの嗅覚情報処理機構について触角嗅感覚系での嗅覚受容から,触角葉での一般臭の匂い情報処理機構について報告する。続いて,高次嗅覚中枢であるキノコ体や前大脳側葉で,これらの匂い情報がどのように処理されているのかを,最近の解剖学研究を中心に紹介する。現在,昆虫を用いた嗅覚情報処理機構の研究は遺伝学を中心にモデル生物であるショウジョウバエを中心にミツバチ,カイコガなどで目覚ましい発展を遂げている。これら完全変態昆虫の嗅覚系とワモンゴキブリのような不完全変態昆虫の嗅覚系を比較し,相同点,相違点を見出すことにより,昆虫の脳進化を理解する一助になるだろう。
著者
渡邉 英博
出版者
福岡大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

クロオオアリの社会形成において重要な役割を果たす、巣仲間識別の神経機構を解析した。第一に、揮発させた体表物質を手掛かりにアリが巣仲間を識別することを行動学的に発見した。この研究結果をふまえて巣仲間識別に関わる触角感覚子よりインパルス応答を記録し、内在する感覚細胞の嗅覚刺激に対する応答特性を調べた。また、巣仲間認識機構の神経基盤となる脳内領域を一次嗅覚中枢および高次嗅覚中枢で同定し、これらの領域の有無を他種の膜翅目昆虫と比較解析することにより膜翅目昆虫の社会性の進化過程について考察した。