著者
安藤 裕一 植嶋 大晃 渡邊 多永子 田宮 菜奈子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.311-318, 2020-05-15 (Released:2020-06-02)
参考文献数
20

目的 日常的に運動を行うことは,生活習慣病の予防ならびに健康寿命を延伸するための一つの要素とされている。本研究は,高齢者の参加と安全配慮に主眼をおき全国に展開する「総合型地域スポーツクラブ」(総合型クラブ)の現状を分析し課題を考察することを目的とした。方法 スポーツ庁が2016年に実施した「総合型地域スポーツクラブ活動状況調査」を二次利用し,年代別会員数の記載のある2,444クラブを対象とした。総会員数に対するシニア会員数の割合(シニア会員割合)の4分位点を算出した上で,シニア会員割合が少ない群から順にA群,B群,C群,D群としこれを独立変数とした。また総合型クラブの所在地に基づき6地域に分類したものをもう一つの独立変数とした。従属変数は,総会員数,シニア会員数,シニア会員割合,1人当たりの月会費,クラブ収入総額,会員1人当たりの年予算,スポーツ・レクリエーション活動種目数,スポーツ指導者数,会員10人当たりのスポーツ指導者数,危機管理方策・事故防止対策(全13項目),法人格取得の有無とした。結果 シニア会員割合が高いD群は,会員数,1人当たりの会費,クラブ収入総額,会員1人当たりの年予算が低く,スポーツ指導者数ならびに,会員10人当たりのスポーツ指導者数が少なかった。またD群は危機管理方策・事故防止対策の6項目(健康証明書提出,賠償責任保険加入,安全講習会実施,熱中症対策,医師との連携,AED設置)の実施割合が最も低く,法人格の取得割合も最も低かった。地域間の比較では,シニア会員の割合は,中国四国が高く,中部が低いという地域差を認めたもののいずれの地域もその中央値は20%台であった。危機管理方策・事故防止対策の実施割合は,関東は10項目で最も高かったのに対し,近畿は8項目で最も低かった。結論 高齢の会員割合が高い総合型クラブは人的規模ならびに予算規模が小さく,危機管理方策・事故防止対策が遅れていること,またこれらの規模や安全対策に地域差がみられることが示された。「高齢者は疾病を抱える可能性が高いことを鑑みれば,高齢の会員割合が高い総合型クラブは安全配慮が重要であるにも関わらず取り組みが遅れている」という現状を,該当する総合型クラブならびに関係機関は理解した上で改善を進めることが必要である。