著者
坪井 信二 森田 一三 中垣 晴男 内堀 典保 安田 淳 久米 弘 高田 勇夫 渡邊 正臣 小澤 晃
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.222-234, 2003 (Released:2004-09-10)
参考文献数
43
被引用文献数
1

歯 · 口腔の健康を介入維持によりライフスタイルや全身の健康, 精神的健康度が変わるかを知るために本研究を行った. 調査は1998年から3年間の追跡を行った. 対象はA製薬会社の従業員のうち本研究に同意した265名 (男性 : 201名, 女性 : 64名, 平均年齢±S.E. 35.6±0.7歳)で, 口腔状態, 2種類の質問票による質問調査 : The Social Adjustment Scale (以降SASと略す), The Medical Outcomes Study (以降MOSと略す)および栄養調査の3種類について調査を行った. その後層別抽出法により介入群と対照群の2群に分け, 介入群には年2回のスケーリング(歯石除去)および歯科保健指導を, 他方を対照群として3年間追跡した. そして開始年と3年後の状況について, MOS, SAS, 口腔状況, 精神的健康度および栄養状況の結果を比較した. その結果, 1) 歯の状態については, 介入群では, 未処置歯数の減少がみられ, 対照群では処置歯数の増加および未処置歯数の減少がみられた. 歯肉の状態 (CPI)においては, 介入群の方が対照群に比べて健全者の割合 (CPI=0)が高い傾向にあった (p < 0.10). 2) 栄養調査結果では対照群においてエネルギー充足率, 蛋白質充足率, 脂質充足率及び肉 · 魚類充足率の上昇 (p < 0.05)が, また糖質充足率, カリウム充足率, カルシウム充足率, 鉄分充足率も増加する傾向 (p < 0.10)にあったが, その他の栄養素食品群ならびに介入群の全ての充足率には有意な差が認められなかった. 3) MOS中の健康観については調査開始1年後に介入群の方が対照群よりも改善者の増加率が高い, もしくは減少率が低かった. 身体的機能は1年後では大差ない, もしくは介入群の方が若干よくない傾向にあったが, 3年後では介入群の方が対照群よりも改善者の増加率が高い, もしくは減少率が低かった. 身体の痛みについては1年後で介入群の方が減少率が低かった. 社会的尺度については1年後および3年後とも対照群の方が介入群よりも改善者の減少率が低かった. 精神的尺度についても1年後および3年後とも対照群の方が介入群よりも改善者の増加率が高い, もしくは減少率が低かったが, 神経質的な傾向があった. 4) SASについては仕事場での社会的健康度および家庭での社会的健康度とも介入調査1年後には介入群の方が対照群に比較して良好であった. 以上より産業従業員に対してスケーリングや歯科保健指導を行うことにより口腔内が改善され, それが個人のライフスタイルに影響し, 社会的役割達成指標は向上, 健康に対する価値観も向上し, 健康的な社会生活をおくることができるものと結論される.