著者
中田 実 渡部 真也
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.1023-1029, 1990-01-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
14

1983年, 滋賀県草津市内で水田作業を行なった農民のなかから, 作業後の手や足に今まで経験したことのない痒みの強い皮疹の発症する者が多発した。皮疹の症状, 発症の経過などから鳥類住血吸虫性セルカリア皮膚炎が強く疑われたので, 草津市内の全農家の1,621名および近江八幡・能登川地区の農民174名を対象としてアンケート調査を実施した。裸足あるいは短靴で水田作業を行なった農民のうち, 192名の四肢に水田作業後, 皮疹発症がみられ, その皮疹の症状, 発症の経過などから108名(58.1%)の皮疹は鳥類住血吸虫によるセルカリア皮膚炎が疑われた。このうち草津市内の発症者に対して電話による聴き取り調査を行ない詳細に確認したところ, 電話で回答した83名中の約90%はほぼセルカリア皮膚炎に間違いないものと考えられた。またこれらのセルカリア皮膚炎と考えられた者のうち6名について間接蛍光抗体法による血中抗体価測定を行なった結果, いずれもセルカリア皮膚炎と診断された。問題になった水田に棲息する貝類の99.3%はカモ類住血吸虫の中間宿主になりうるヒメモノアラガイで, 貝類からはセルカリアは検出されなかったが, この地区の水田にはカモの飛来が確認されている。以上より今回草津市の水田作業者に多発した皮疹はカモ類住血吸虫によるセルカリア皮膚炎であろうと考えられた。