著者
湯川 利和 瀬渡 章子 塘 なお美 糸賀 万記
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅建築研究所報 (ISSN:02865947)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.219-230, 1986

本研究の目的は,主に高層住宅の環境が子どもの発達と活動を阻害しないための空間的条件を明らかにすることである。今回は,子どもの生活時間,子ども部屋の実態を明らかにするとともに,高層住宅環境が心身に及ぼす影響についても分析を行った。そのためのアンケート調査を,幼児母親・小学生とその母親を対象に,大阪・南港ポートタウン内の高層住宅団地で実施した(1985年8~9月,サンプル総数525)。生活時間の中でとくに注目されたのは,テレビ視聴時間が幼児から小学校高学年までほとんど変化がないことであった。階別の生活時間分析では,幼児では上層階の方が屋内での活動時間が長く,屋外遊びは少ない-すなわち住環境の影響を受けていることが明らかとなったが,小学生では一貫した傾向はつかめなかった。NHK調査との生活時間比較を行ったが,高層住宅であるために活動が阻害されている傾向は見出せなかった。子ども部屋の保有率は高い。共用室が多いものの,学年上昇にともない個室率も上がる。また子ども自身,母親ともに個室要求が強い。しかし母親は,最初から個室というのではなく,年齢に応じた与え方が必要と考えていることがわかった。高層住宅環境が子どもの心身に与える影響については,不定愁訴と性格特性を分析する方法をとった。小学生でも不定愁訴を訴える割合は高い。不定愁訴を多く訴えるのは,屋外遊びが少なく,母親によく叱られる子どもであった。これらの要因は居住階の影響も受けており,不定愁訴が少なからず住環境の影響を受けていることが明らかとなった。性格特性の分析でも,情緒安定性・社会的適応性・活動性・外向性の4因子について,住環境の直接的,間接的影響を見出すことができた。