著者
湯本 誠
出版者
札幌学院大学
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
vol.70, pp.33-49, 2001-12

本稿では, 最近の日本における自殺の急増とその原因について検討している。1998年度において自殺者数と自殺率がともに急増したが, 50代男性の増加が特に著しい。この世代は翌年, 翌々年においても高い自殺率を維持しており, 戦後最高の自殺率を記録している。その原因をこの世代に固有の特徴や模倣に求める見解もみられるが, 人員削減や出向・転籍等の雇用調整に主要な原因が存在するというのが本稿の立場である。雇用調整が大規模に実施された景気後退期には, 必ず自殺率が上昇している。しかし, 失業等にともなう生活苦だけが自殺を生み出すのではない。それとならんで, 社会生活の中心である職場という中間集団の急激な変動やその喪失という要因が重要である。熾烈な競争原理を特徴とする日本型能力主義の徹底が職場社会からの「中高年」層の排除と職場秩序の動揺を, 他方では離婚等の家族社会の動揺を生み出している。こうした中間集団の喪失や動揺が「中高年」層の自殺を促進している。
著者
湯本 誠
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities
巻号頁・発行日
no.105, pp.53-71, 2019-02-25

本稿では,今日の日本では,自殺は常識に反して減少しているという主張の妥当性を検討している。冨高氏と本川氏は戦後日本の自殺率は一貫して減少していると主張する。しかし,1947年を起点とする標準化自殺率の推移を男女別に考察すると,様相は一変する。男性の場合,一貫して減少しているとは決していえず,明らかに3つの自殺急増期が存在する。第2・第3の自殺急増期はいずれも男性中年層の自殺が急増した時期であり,重大な経済的危機の時期と重なり合っている。したがって,自殺は決して減少していない。
著者
湯本 誠
出版者
札幌学院大学
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
vol.82, pp.141-175, 2007-10

本校では,1990年代初頭から2000年代初頭までの時期にトヨタ自動車を定年退職したブルーカラーを対象として,企業内職場経歴・キャリアの特徴を事例研究のかたちで考察している。事例研究の対象である12ケースを到達した職位を基準に3つのグループに分類して,企業内職場経歴・キャリアにおける「重大な転機」に焦点をあてた事例研究を行なうとともに,同一グループに属するケース間の比較検討を行なっている。この12ケースが55歳を迎えた1980年代後半から1990年代半ばまでの時期は「職層制度」から「職能資格制度」への転換によって「職位解任制度」が廃止されていく時期と重なり,専門技能職制度が導入されていく時期でもある。こうした人事制度改革が個々の労働者の戦場経歴・キャリアに及ぼした影響という構造的な局面だけでなく,個々の労働者のキャリア形成への主体的努力や自己選択の局面も分析している。
著者
湯本 誠
出版者
札幌学院大学
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.67-99, 2005-11-18

本稿はトヨタ自動車における長期勤続者の企業内キャリアの新たな動向に関する事例研究である。1990年代における技能系人事制度改革によって,主にスタッフ機能を担う専門技能職が新設されると同時に,労働組織はライン型組織からライン・スタッフ型組織に切り替えられていった。この一連の改革によって,より上位の管理・監督職へと登りつめていく従来型の「役職昇進型キャリア」に加えて,専門職として技能を深めていく「専門技能職型キャリア」が新たに誕生した。ここでは,50代で勤続30年以上の長期勤続者が大多数を占める16ケースの職場経歴を考察することによって,キャリアの複線化が彼らの職場経歴に及ぼした影響と個人の主体選択について検討している。「新しい職業能力と職業経歴」という視点からみて重要なことは,役職昇進型キャリアを拒否して,専門技能職型キャリアを主体的に選択するケースが複数,存在していることである。熟練職場において高度な専門技能を発揮する新しい働き方が誕生している。