著者
佐伯 宏幸 河合 克尚 溝川 賢史 横家 正樹 皆川 太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.443, 2003 (Released:2004-03-19)

【はじめに】人工炭酸泉浴は炭酸ガスの経皮的侵入によって血管拡張と血流増加、組織酸素分圧の上昇、微小組織循環改善などの生理的作用があると報告されている。末梢循環障害による足部潰瘍では切断に至る症例も稀ではない。人工炭酸泉浴はそれら末梢循環障害に対する保存的治療の手段として幅広く使用されている。当院においても人工炭酸泉浴の導入により良好な治療成果が得られた有効例を経験したので報告する。【治療内容】人工炭酸泉は三菱レーヨン・エンジニアリング社製人工炭酸泉製造装置を用いて、濃度約1000ppm、湯温37から38℃とし、浸漬部は下腿局所浴とした。【症例紹介1】48歳、維持透析歴7年の女性。2002年3月より右第1から4趾尖部の潰瘍増悪と疼痛のため歩行困難となり当院入院となる。潰瘍部は黒色壊死にて母趾が約20×22mm、第2から4趾も広範であった。下肢血管造影にて近位から遠位動脈まで高度狭窄病変を呈しており血行再建術不適応、薬物療法も効果不十分の状態であった。人工炭酸泉浴は毎日2回10分間実施した。開始から1ヶ月後、潰瘍の縮小と疼痛の緩和を認め、3ヶ月後には潰瘍と疼痛の消失により独歩にて退院となった。【症例紹介2】67歳、糖尿病、高血圧を有する女性。2002年4月より右踵部に潰瘍が出現し、疼痛の増悪にて歩行困難となり当院入院となる。潰瘍部は25×13×10mmであった。下肢血管造影にて両下腿動脈にびまん性高度狭窄病変を認め、血行再建術は困難と判断された。入院後から人工炭酸泉浴を毎日2回10分間実施したところ、約1ヶ月後には潰瘍の縮小を示し、3ヶ月後には潰瘍および疼痛の消失にて独歩可能となり退院となった。【考察】下肢動脈の慢性閉塞性疾患の根本的治療には血行再建術、薬物療法、理学療法があり、末梢循環障害による潰瘍は循環が改善すれば、潰瘍は軽快すると考えられる。人工炭酸泉浴による理学的治療は、組織循環の30%増加を認め、約4週の局所浴により効果が表れるなど、臨床的にも有効な末梢循環障害の基本的治療であり、長期的に見ても有望なものとされている。今回の症例では、いずれも血行再建術不可、薬物療法も効果不十分であったため、人工炭酸泉療法を行い、足部潰瘍および疼痛が消失し、退院時には独歩可能までになった。潰瘍を合併した虚血肢において人工炭酸泉療法は有用な理学療法の一手段と考えられた。