著者
河野 隆志 小林 敦郎 八木下 克博 漢人 潤一 廣野 文隆 甲賀 英敏 岡部 敏幸
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.27, pp.49, 2011

【目的】静岡県メディカルサポート(以下MS)は、静岡県高校野球連盟(以下静岡県高野連)の要請を受け平成14年より活動を実施している。主たる活動内容として、全国高校野球選手権静岡大会(以下静岡大会)での試合前・中・後における選手へのテーピング等の応急処置、試合後の投手へのクーリングダウン、選手や審判員に対しての熱中症予防を目的としたドリンク作製や啓発活動等を実施している。また、一昨年度より、投手の障害予防を目的とした投手検診をクーリングダウンと併用し実施している。そこで本研究の目的は、投手検診より、静岡県における投手の現状を把握し、今後意義のあるクーリングダウンの質的向上へとつなげていくことである。特に今回は、障害発生に関与するとされている投球数や投球後における肩関節内旋角度(2nd)、問診による既往歴の有無等を調査し、投手における現状を検討したので報告する。【方法】対象は、静岡大会において初登板し、終了後または途中交代の投手で投手検診を行なった97名(3年生74名、2年生20名、1年生3名)とした。投手検診実施にあたり、静岡県高野連に加盟している全118校に対し、第92回静岡大会責任教師・監督会議においてMS代表より投手検診の趣旨を説明、その後静岡大会での各試合前のトスの際にも再度MSスタッフより趣旨を説明し、同意が得られたチームの投手に限り投手検診を実施した。投手検診の内容は、肩関節内外旋角度(2nd)の測定、問診にて一日の平均投球数(以下平均投球数)や一週間での投球日数(以下投球日数)、クーリングダウン実施の有無、疼痛や故障による既往歴や医療機関への受診歴等の調査を実施した。投球数に関しては、公式記録を参照し記録した。肩関節内外旋角度の測定方法は、15分程度の投球側肘・肩関節へのアイシング終了後、仰臥位にて投球側、非投球側の順に実施した。測定機器はレベルゴニオメーターを使用し、各可動域とも90°を最大値と設定し、5°毎での測定を行なうよう統一した。検討項目として、各項目での測定結果や問診結果の集計、投球後における投球側と非投球側との角度差(以下角度差)を抽出し、各々と既往歴の有無での関係性を検討した。統計学的処理として、投球数と肩関節内旋角度、角度差にはt検定、平均投球数(50球未満、50~80球未満、80~100球未満、100~150球未満、150球以上の5群に分類)と投球日数(3日未満、3~4日、5~6日、7日の4群に分類)、クーリングダウンの有無には、マン・ホイットニの検定を実施し、それぞれの有意水準は危険率5%未満とした。【結果】投球数は98±34球であり、肩関節内旋角度は52.3±14.2°、角度差は8.5±12.1°であった。既往歴に関しては有りが60名(61.9%)無しが37名(38.1%)であった。既往歴有りの投手の部位別では、肩関節(46.7%)、肘関節(43.3%)、腰部(20%)の順に多かった。投球数、肩関節内旋角度、角度差、投球日数、クーリングダウンの有無と既往歴の有無に関しては有意差が認められなかった。しかし、既往歴と平均投球数において、既往歴有りと無しの投手間で有意差が認められた。【考察】静岡大会における投手の現状として、61.9%の投手に既往歴や最近の故障等が認められた。そのなかでの投手の特徴として、一日における投球数が既往歴無しの投手と比べ有意に多いことが判明した。その反面、障害発生に関与するとされている肩関節内旋角度や角度差等において有意差は認められなかった。このような結果となった要因として、学童、少年野球時より受傷し、障害や疼痛が残存したまま現在に至る投手が多いことが予測される。また、部位別では肩、肘関節に次いで腰部の既往の訴えもみられており、投球動作における一連の流れや障害部位による代償等の影響も一要因として考えられる。肩関節内旋角度や角度差に関しては、MS活動における投手へのクーリングダウン時の肩甲骨周囲筋への必須ストレッチとしての実施やセルフエクササイズでの肩関節内外旋筋に対する個別指導による投手への認識が関与しているのではないかと考えられる。本研究より、静岡県における高校野球投手の現状として、肩・肘関節に留まるのではなく体幹や股関節等全身に着目しての実施が必要となるとともに、幼少期からのメディカルチェックも重要となることが示唆される。【まとめ】MSの主たる活動目的として、選手の障害予防や自己管理能力の向上を図ること、教育場面の一環等が挙げられる。今年度より、県内3校を対象とした巡回事業も実施しており、投手検診等のメディカルチェックを実践し、その結果を分析し問題点に対し対策を講じることで、選手が怪我や故障なく高校野球を継続できる環境づくりや障害予防に対する認識の啓発活動を行なっていきたい。