著者
澁谷 遊野
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.13-30, 2022-03-31 (Released:2022-04-20)
参考文献数
52

本稿では,研究蓄積の浅い国内のFacebook上でのCOVID-19関連偽情報等の生成・流通の概要を把握することを目的に,2020年1月から2021年5月までの18ヶ月分の日本語でのCOVID-19関連Facebook投稿を記述的に分析した。その結果,国内外の関連研究で示されている他プラットフォームや他言語による偽情報の傾向と同じように,(1)少数アカウントが偽情報生成・流通で中心的な役割を担っていて, 主流メディアのアカウントと同等もしくはそれ以上の反応数を獲得するなど,COVID-19関連の投稿としては最大級の反応を得ていることが明らかになった。また,(2)偽情報の発信の動機としては,金銭的なインセンティブやイデオロギーに基づいた動機によると考えられるものがあること,(3)YouTube等の外部情報源を利用しながら偽情報を流通させていること,(4)偽情報の中心的なアカウントの周りには緩やかに繋がった大小様々なグループやアカウントが存在し協調的に偽情報の生成・流通に寄与していることが示唆された。偽情報等を展開するアカウントの中には,プラットフォーム事業者によるアカウントや投稿の削除への対策として複数アカウントを運営したり,既存コミュニティとつながることで,偽情報等を受容しやすい潜在偽情報消費者を獲得しているケースもみられた。こうしたことから,COVID-19関連偽情報を巡ってはプラットフォーム事業者等の単一的なアカウントの削除等の対応のみによる効果は限られる可能性が示唆される。今後は国内の偽情報等の生成流通は,プラットフォーム事業者側の問題やリテラシーを中心とした個々の問題としてのみ捉えるだけではなく,社会経済システムの症状としても捉え直し,その背景にある社会・経済・政治な背景や偽情報需要の増減のメカニズムやエコシステムの解明を行うなど,多面的なアプローチも必要と考えられる。