著者
田中 凜 澤井 浩子 小山 恵美
出版者
日本時間学会
雑誌
時間学研究 (ISSN:18820093)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.59-67, 2015 (Released:2017-02-24)

コミュニケーション手段として、小休止時に多くの人が電子機器を使用する可能性が容易に推察される。本研究では、作業中小休止時間の過ごし方がパフォーマンスおよび精神生理状態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、小休止行動として、スマートフォンを用いたテキストでの会話と、従来から行われてきた口頭での会話を比較した。健常若年成人男女26名を対象とした。課題と小休止行動(15分間)を実施し、主観評価、脳波、心電図、課題成績を計測、評価した。小休止行動2条件を比較した結果、口頭での会話中においては、テキストでの会話中よりも、心拍数、心拍変動の小休止15分間平均値が有意に大きい値を示した。また、口頭での会話後には、テキストでの会話後よりも、小休止の気分転換度、休息感、充実感でスコアが有意に高く、これから実施するパフォーマンス評価課題に対するやる気、集中度でスコアが有意に高かった。課題成績において、2条件間に有意な差はみられなかった。作業中小休止時間における会話という行為でも、口頭での会話の方がテキストでの会話よりも、生理的に活性方向の影響を与え、精神的にリフレッシュする効果が大きいことが導かれた。今後、パフォーマンス評価課題を見直すことで、小休止行動がパフォーマンスに及ぼす影響についても明らかになることが期待される。
著者
上野 敬介 澤井 浩子 石井 康晴 宮井 早希 小山 惠美
出版者
日本時間学会
雑誌
時間学研究 (ISSN:18820093)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.21-34, 2013 (Released:2017-02-28)

現代のオフィスでは,VDT作業に代表される精神疲労を伴う知的作業が主流となっている.精神疲労を伴う作業が長時間に及ぶと,覚醒度低下,疲労増大,パフォーマンス低下などを引き起こす恐れがあるが,リフレッシュ行動(RF行動)によって,これらを軽減する可能性が示唆されている.本研究では,より効果的なRF行動の実施を目指すため,オフィスでの実態を反映した数分以内の短時間のRF行動における「自発性」に着目し,知的作業時に生じる座位でのRF行動に伴って心身の状態変化がどのような時系列的特徴を示すのか明らかにすることを目的とした. 結果として,自発的RF行動ではRF行動後に行動前よりも心拍数が減少する時間帯が数分間みられた.また自発的RF行動後では強制的RF行動後よりも,副交感神経活動の指標とされる心電R波間隔時間変動HF成分がより大きい時間帯が数分間みられた.このように,短時間の自発的RF行動に伴って,心拍数および心拍変動HF成分の特徴的な時系列(RF行動後に一時的に活性/緊張と反対方向に変化した後,元の水準まで回復する)変動が有意にみとめられた.よって,知的作業が主流となるオフィス業務では,短時間のRF行動が自発的に生じる環境要件を整えることで,これらの特徴的な時系列変動の振幅がより大きくなり,一時的な作業負荷軽減の効果がより増大する可能性が示唆された.
著者
澤井 浩子 渡守武 和音 上野 敬介 小山 惠美
出版者
日本時間学会
雑誌
時間学研究 (ISSN:18820093)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.49-59, 2013 (Released:2017-02-28)

本研究では、漆器や染物の製作などにおける伝統技能の保存継承に向けた技能素の定量的抽出を目指し、技能習熟過程の定量的評価方法を時間学的な観点から、EOG(Electro-oculogram)時系列変動解析によって検討することを目的とした。 伝統技能として漆塗りを取り上げ、その基本動作の一つである平面の中塗り動作を模擬した作業における習熟過程初期段階について、EOG時系列変動を解析した。キャンバスを塗る課題を1日に3分間5回実施し、5日間繰り返すことで日ごとの習熟過程を評価した。EOGは斜め左右位置に電極を装着し、塗り動作中のEOG時系列変動を計測した。 作業量結果から、計測を通して増加傾向であった群(量上昇群)と安定傾向であった群(精度向上群)の2群に分類された。量上昇群では作業速度が速くなるほど、EOGの時系列変動周期が短縮し、変動が安定する傾向であった。精度向上群では、作業速度が速くなるほど、精度が向上するほどEOG時系列変動が安定する傾向であった。よって、作業量から量または精度の習熟過程分類を判定し、各習熟過程別に一定の動作単位でEOG時系列変動解析を行うことで、習熟過程における「間」や「按配」の変化を定量的に評価できることが示唆された。