著者
澤山 英太郎 高木 基裕
出版者
水産増殖談話会
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.155-162, 2014 (Released:2014-09-03)

本研究は,マダイ人工種苗で見られる吻部の異常を示す形態異常について遺伝的要因を明らかにすることを目的とした。60日齢における吻部異常個体の形態的識別を行った。吻部の異常を有する個体は全体の3.4%で,その中でも下顎短縮は最も高い割合で確認されたため,下顎短縮個体についてマイクロサテライトDNAを用いた多型解析と親子鑑定を行い,正常個体の値と比較した。ヘテロ接合体率やアリル頻度においては正常個体と下顎短縮個体で違いは見られなかった。また,親子鑑定を実施したところ,正常個体には9個体のメス親魚と16個体のオス親魚からなる43家系が,下顎短縮個体には9個体のメス親魚と15個体のオス親魚からなる40家系が関与しており,正常個体と下顎短縮個体で出現家系に有意な偏りは確認されなかった。以上の結果から,本下顎短縮個体は遺伝的な要因よりも,何らかの後天的な要因が強く影響しているものと推測された。
著者
澤山 英太郎
出版者
有限会社まる阿水産
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

海産魚の種苗生産において初期餌料として用いられているシオミズツボワムシ(S型ワムシ)の個体数増減と遺伝的多様性についての関連を、マイクロサテライトDNAマーカーを用いたクローン解析により検討した。まず、クローン解析に必要なマイクロサテライトDNAマーカーの選定を行ったところ、4つのマイクロサテライトDNAマーカーを用いてクローン判別をすることで解析集団の全てのクローン型が特定でき、ミトコンドリアDNAのCOIハプロタイプとも一致することが分かった。次に、S型ワムシを1ヶ月間培養し、増殖良好時と培養不調時のワムシについて、ミトコンドリアDNA COI領域によるハプロタイプ解析とマイクロサテライトDNAマーカーによるクローン型解析を行った。ミトコンドリアDNA COI領域による株型判別の結果、全てのワムシはBrachionus plicatilis sp. “Cayman”と判別された。また、培養良好時には2~3種類のハプロタイプが混在していたが、培養不調時には1種類のハプロタイプのみが確認された。マイクロサテライトDNAによるクローン型解析を行ったところ、80個ものクローン型が識別された。また、培養良好時のワムシのクローン多様度は培養不調時と比べて高い傾向が見られた。以上の結果から、ワムシの培養が良好な時はワムシの遺伝的多様度が高いことが明らかとなり、ワムシの個体数増減に遺伝的要因が関与する可能性が示唆された。しかしながら、飼育環境が良好であることで隠蔽種も良好な増殖をし、その結果として遺伝的多様度が高まった可能性も否定できない。そのため、今後は本研究で見られた主要なクローン型を用い、単一クローンでの培養、ならびに複数クローンでの混合培養を行い、個体数の増減と遺伝的多様性の関係について実験的に解析していく必要がある。
著者
澤山 英太郎 高木 基裕
出版者
水産増殖談話会
雑誌
水産増殖 = The aquiculture (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.441-446, 2010-12-20
参考文献数
22
被引用文献数
3

種苗生産場で生じたヒラメの逆位個体について,マイクロサテライト DNA マーカーを用いた遺伝的多様度の解析および DNA 親子鑑定により,発生要因の推定を行った。種苗生産には17個体の親魚を用い,96日齢時に正常個体52個体と逆位個体49個体を得た。ヘテロ接合体(観察値,期待値,観察値/期待値)およびアリル頻度において,正常個体群と逆位個体群で違いは見られなかった。マイクロサテライトマーカー座の多型により全ての親子関係を判別できた。親子鑑定の結果から,正常個体は7個体のメス親魚と5個体のオス親魚からなる14組から生じていることが分かり,また逆位個体は7個体のメス親魚と7個体のオス親魚からなる18組から生じていることが分かった。1個体のメス親魚は他の親魚よりも高い割合で逆位個体を産んでいることがわかった。以上の結果から,本異常の発生要因は後天的な影響が強いものの,一部のメス親魚は遺伝的もしくは他の母性要因により逆位個体を産生していることが示唆された。