著者
澤谷 由里子 藤垣 裕子 丹羽 清
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.281-291, 2014-02-26

「経済のサービス化」という社会の構造変化が進んでいる。しかしながら,サービス・イノベーションの実態調査では,サービスの雇用および経済規模に対してサービスにおける研究開発活動の貢献が過小評価されている。本研究では,これまで製造業においてイノベーションの原動力となってきた理工学,主に情報技術を基礎とした研究開発が貢献したサービス・イノベーション事例を分析した結果を報告する。製品開発を目的とする研究からサービス研究へ移行した研究開発者に対しアンケートおよびインタビュー調査を行い,製造業のサービス化によって研究開発者の行動がどのように変化するのか,顧客と研究開発者との価値共創による研究開発の成果について明らかにする事を目的とする。調査の結果,顧客とのコラボレーションによって研究開発者の行動が変化し,顧客の使用価値視点からのサービス・システムの創造を重視し,新しい研究領域を作り出す行動(使用価値を出発点とする新規研究開発)を示すようになることが示唆された。また,サービス研究において研究開発者によって創造された成果は,技術だけではなく,顧客の使用価値の具現化のために技術をサービス・システムに埋め込むための統合・デザイン手法や顧客やサービス組織の保持する知識から得られた現場知にまで至る事が示された。