著者
山崎 友資 岸本 喜樹 川南 拓丸 澤野 真規 五嶋 聖治
出版者
日本貝類学会
雑誌
ちりぼたん (ISSN:05779316)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.208-214, 2007-02-28
被引用文献数
1

トリガイFulvia muticaはReeve(1844)によって記載されたザルガイ科Cardiidaeの1種である。本種は,模式産地は指定されずに記載され,分布は陸奥湾から香港にかけての水深10〜60mの砂泥底に生息するとされ(Higo et al., 1999: p.474, B837),食用貝として利用されている(波部・伊藤,1965; 波部,1977)。その分布の北限について,日本海側は陸奥湾以南(吉良,1968; 波部,1977; 奥谷,1986,1987;奥谷・他,1988;肥後・後藤,1993;松隈,2000),太平洋側は東京湾以南(波部・小菅,1967;奥谷,1983,1985,小菅,1994)とされている。本種は本州各地の市場では高値で取引され,産業種として重要であるが,北海道において分布していることは広く知られておらず,産業の対象にされていない未利用資源種である。本稿では,2005年12月,函館湾沿岸に,トリガイが生きた状態で数多く打ち上げられた。本稿では函館湾からのトリガイの産出について報告するとともに,その個体群構造を明らかにすることを目的とした。さらに,既存の文献ならびに標本を検討し,このことも踏まえて本種の北限分布が函館湾であることを明らかにした。