- 著者
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坂井 素思
馬場 康彦
色川 卓男
影山 摩子弥
永井 暁子
濱本 知寿香
- 出版者
- 放送大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2001
この研究の目的は、「生活政策学」という研究分野の可能性について、基礎的かつ応用的な模索を行うことにある。現代社会の変動は、少子高齢化やサービス経済化などを通じて、政府・市場・家計などの経済領域に対して、かなり強い影響を及ぼしてきている。たとえば、労働や社会組織のフレキシビリティ問題は、典型例である。あるいは、少子高齢社会の中での柔軟な「仕事と家庭」との社会的な調整の問題などが起こってきている。このため、今日の生活領域では、政府が行う公共政策、企業や家庭が行う経営・運営なとが「ミックスした状況」のもとで政策が立てられてきている。このような状況のなかで、これらの社会変動のもたらす弊害に対して、総合的な視点が求められている。このような変動する社会の不確実な状況に対して、一方では市場経済のなかで個人がそれぞれ能力を高めて、これに対処することが求められ、他方で個人では対処が困難なときには、公共政策が企てられてきている。実際には、このような二つの領域が接するところで、はじめてこれらの行動原理が調整される必要があり、ここに生活政策学が求められる可能性がある。基礎的な研究作業では、「生活政策」とは何かについての理論的な研究の展望が行われた。従来、「政策」とは政府が中心として私的分野へ介入を行うような公式的な施策が基本的なものであった。けれども、今日では政府以外の組織によって行われるインフォーマルな施策にも、「政策」と同等の位置づけが行われるようになってきている。このような状況のなかで、これらの複合的な政策に関する整合的な理論が求められている。「生活政策学」に関する応用的な研究を行う段階では、それまで行ってきた基礎的な研究、その性質についておおよその見通しが得られたので、これらの成果を基にして、公共領域と市場領域、市場領域と家計領域、さらに家計領域と公共領域などに見られる中間的な組織や経済制度を対象に選んで、「事例研究」を進めてきている。このなかで、国や地方公共団体のIT政策の生活政策的意味についての検討を試みた研究、または、成果主義や裁量労働制などが導入されている現代における労働生活過程のシステム転換について考察を行った研究、あるいは、生活領域における「ケア」のあり方のなかに、社会の中間的な組織化の原理があると考え、このようなケア組織化の特性についての研究、さらには、平成不況の特質について、現代日本の家計構造を調べることで明らかにしている研究などの成果が上がってきている。