著者
白石 明継 熊代 功児
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0308, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】わが国の「大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン」によると,大腿骨近位部骨折患者の入院中の死亡原因となる合併症は肺炎が最多で,30~44%を占めるとされる。また,金丸らは大腿骨近位部骨折患者における術後1年以内の死因のうち,術後に発症した合併症の死亡率が術前に比べて有意に高く,その原因として肺炎が最も多いと報告している。そのため,術後の肺炎予防は生命予後において非常に重要である。先行研究では大腿骨近位部骨折の手術待期日数が合併症と関連があるとされる一方,早期手術と術後合併症は関連がないとする報告も散見され,術後の肺炎発症の要因について一定の見解が得られていない。そこで本研究の目的は大腿骨近位部骨折患者における術後の肺炎発症に影響する因子を検討することとした。【方法】対象は2013年1月~2016年6月に大腿骨近位部骨折にて当院整形外科に入院した65歳以上の患者459例のうち,術前に肺炎を発症した23例を除いた436例とした。対象者を肺炎非発症群(非発症群)422例,術後肺炎発症群(術後発症群)14例に分類し,患者要因として年齢,性別,神経学的疾患既往の有無,認知症の有無,呼吸器疾患既往の有無,医学的要因として受傷から手術までの日数(手術待期日数),血中ヘモグロビン濃度(Hb値),血清タンパク質値(TP値),血清アルブミン値(Alb値),理学療法要因として入院から理学療法開始までの日数(PT開始日数),手術から端座位開始までの日数(術後座位開始日数)を後方視的に調査した。統計解析は,非発症群と術後発症群間の比較を性別,神経学的疾患既往の有無,認知症の有無,呼吸器疾患既往の有無はχ2検定,年齢,手術待期日数,Hb値,TP値,Alb値,PT開始日数,術後座位開始日数は対応のないt検定またはMann-Whitney検定を用いて実施した。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】非発症群と術後発症群の比較の結果,術後発症群で有意に男性が多く(p<0.05),Alb値が低かった(p<0.05)。【結論】本研究におけるAlb値は入院時に調査した値であり,骨折受傷前の状態を反映していると考えられる。金原らは栄養状態と生体防御機構は密接に関わり合い,低栄養状態下では免疫能が低下すると報告している。そのため,本研究においても低栄養状態で入院した患者は感染に対する抵抗力が弱く,肺炎発症のリスクが高くなったと考える。本研究では理学療法で介入可能な要因は抽出されなかった。しかし,術後座位開始日数の平均値は非発症群2.2日,術後発症群3.6日であった。肺炎発症の要因として,長時間の仰臥位が報告されており,男性で入院時より低栄養状態を呈している症例は術後の肺炎発症のリスクが高くなるため,より早期から離床を図り,術後肺炎発症の予防を行うことが重要であると考える。
著者
熊代 功児 村上 弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0007, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(以下,TKA)後の膝関節屈曲角度(以下,膝屈曲角度)は大きな膝屈曲角度を必要とする若年患者はもちろん,和式の生活様式を要する日本人にとって重要とされている。TKA後の膝屈曲角度に影響する要因について海外では様々な報告が散見されるが,本邦において術後早期の膝屈曲角度を検討した報告は少ない。本研究の目的は,TKA後2週時の膝屈曲角度を術前因子から予測することである。【方法】2013年9月から2016年6月までの間に当院整形外科にて変形性膝関節症と診断され初回TKAを施行した190例212膝(男性43例,女性147例,平均年齢75.5±7.6歳)を対象とした。術後2週時膝屈曲角度をアウトカムとし,患者因子として,性別,年齢,Body Mass Index(以下,BMI),術前因子として,術側膝関節伸展・屈曲角度(以下,膝伸展・屈曲角度),術側膝関節伸展・屈曲筋力(以下,膝伸展・屈曲筋力),Timed Up and Go test(以下,TUG),術側大腿脛骨角(以下,FTA),術側膝関節前後・側方動揺(以下,前後・側方動揺)を調査した。統計解析は,術後2週時膝屈曲角度と患者因子,術前因子の各変数間について2変量解析を行った。次に,術後2週時膝屈曲角度を従属変数,2変量解析にてp<0.2の変数を独立変数とした決定木分析を行い,術後2週時膝屈曲角度を予測する回帰木を作成した。【結果】術後2週時膝屈曲角度は平均109.2±13.9°であった。術後2週時膝屈曲角度とp<0.2の相関を認めた変数は,年齢,膝伸展角度,膝屈曲角度,膝伸展筋力,膝屈曲筋力,TUG,前後動揺,側方動揺であった。また性別による術後2週時膝屈曲角度の比較の結果,p<0.2であった。これらの変数を独立変数,術後2週時膝屈曲角度を従属変数とした決定木分析によって作成された回帰木より,最上位の分岐は膝屈曲角度(cut off値117.5°)であり,117.5°より大きい群では術後2週時膝屈曲角度が最大(113.5±11.7°)と予測された。117.5°以下の群ではさらに膝屈曲角度(cut off値107.5°)で分岐し,107.5°以下の群では術後2週時膝屈曲角度が最小(93.8±12.3°)と予測された。107.5°より大きい群ではさらに膝伸展筋力(cut off値1.004Nm/kg)で分岐した。【結論】TKA後2週時の膝屈曲角度を予測する術前因子として,膝屈曲角度と術伸展筋力が選択され,これらの要因は先行研究と同様の結果であった。しかし,術後膝屈曲角度に影響すると報告されている年齢,性別,BMIなどの患者因子は本研究では選択されなかった。また,有意な予測因子と報告されている術前のFTAに加えて,術前の膝関節動揺の程度についても検討したが,本研究ではFTA,膝前後・側方動揺ともに有意な予測因子にはならなかった。本研究の結果より,術後2週時という比較的早期においては,術前の膝関節の変形の程度よりも膝屈曲角度や膝伸展筋力などの運動機能の影響が高いことが示唆された。