著者
村上 弘治
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.129-137, 2000-10-01
被引用文献数
3

アブラナ科野菜根こぶ病は難防除土壌病害のひとつであり,その病原菌(Plasrnodiophora brassicae,根こぶ病菌)は絶対寄生菌であるため土壌中で腐生的に増殖することがない反面,培地上での培養,計数ができない。根こぶ病の発病と土壌中の休眠胞子密度との関係を示すDose Response Curve (DRC)は病原菌,土壌,植物により変動する。(1)根こぶ病菌:根こぶによる差だけでなく,1個の根こぶの中でさえ休眠胞子の発芽率,病原力が異なり,そのため圃場によって病原力が大きく異なった。(2)土壌:普通黒ボク土(福島)よりも淡色黒ボク土(福島)の方がDRCは全体に低く推移した。また,同じ淡色黒ボク土でも地域によりDRCは異なった。さらに,土壌pHの影響も受け,pHを高く矯正した土壌では元の土壌よりもDRCは低く推移した。(3)植物:ハクサイ,キャベツ,ブロッコリーの順でDRCは低く推移した。また,罹病的な品種と抵抗的な品種とでは後者の方がDRCは低くなった。以上のことから,現地農家圃場の正確な土壌評価を行うためには,土壌中の病原菌密度を把握するとともに,その圃場の病原菌(複数の根こぶ),土壌,植物(種類・品種)を用いて,DRCを作成することが必要である。現在根こぶ病の防除剤として広く使われているフルスルファミド粉剤は,休眠胞子の発芽や根毛感染を抑制するものの,土壌中の病原菌密度に対する影響はみられず,同剤の効果は殺菌的な作用ではなく,静菌的な作用によることが示唆された。さらに,残効性が認められるため,同剤の施用により根こぶ病の発生は抑制され,土壌中の病原菌密度が増大することはない反面,積極的な病原菌密度の減少もあまり期待できないことが示唆された。積極的に土壌中の休眠胞子密度を減少させる方法として,おとり植物の利用がある。即ち,おとり植物を前作として栽培し,土壌中の病原菌密度を積極的に低減させて,後作のアブラナ科植物の発病を軽減させることが可能であった。しかし,この発病抑制効果はDRCに依存し,病原菌密度が高くなるにつれて少なくなった。このように根こぶ病を防除する際には,土壌中の病原菌密度を把握し,対象とする圃場のDRCを十分考慮することが必要である。また,おとり植物以外にも病原菌密度低減効果を有する資材を利用するなど各種個別技術を組み合わせ,発病に伴う病原菌密度の増大を抑制しつつ,積極的に病原菌密度を低減させていくことが必要である。
著者
熊代 功児 村上 弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0007, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(以下,TKA)後の膝関節屈曲角度(以下,膝屈曲角度)は大きな膝屈曲角度を必要とする若年患者はもちろん,和式の生活様式を要する日本人にとって重要とされている。TKA後の膝屈曲角度に影響する要因について海外では様々な報告が散見されるが,本邦において術後早期の膝屈曲角度を検討した報告は少ない。本研究の目的は,TKA後2週時の膝屈曲角度を術前因子から予測することである。【方法】2013年9月から2016年6月までの間に当院整形外科にて変形性膝関節症と診断され初回TKAを施行した190例212膝(男性43例,女性147例,平均年齢75.5±7.6歳)を対象とした。術後2週時膝屈曲角度をアウトカムとし,患者因子として,性別,年齢,Body Mass Index(以下,BMI),術前因子として,術側膝関節伸展・屈曲角度(以下,膝伸展・屈曲角度),術側膝関節伸展・屈曲筋力(以下,膝伸展・屈曲筋力),Timed Up and Go test(以下,TUG),術側大腿脛骨角(以下,FTA),術側膝関節前後・側方動揺(以下,前後・側方動揺)を調査した。統計解析は,術後2週時膝屈曲角度と患者因子,術前因子の各変数間について2変量解析を行った。次に,術後2週時膝屈曲角度を従属変数,2変量解析にてp<0.2の変数を独立変数とした決定木分析を行い,術後2週時膝屈曲角度を予測する回帰木を作成した。【結果】術後2週時膝屈曲角度は平均109.2±13.9°であった。術後2週時膝屈曲角度とp<0.2の相関を認めた変数は,年齢,膝伸展角度,膝屈曲角度,膝伸展筋力,膝屈曲筋力,TUG,前後動揺,側方動揺であった。また性別による術後2週時膝屈曲角度の比較の結果,p<0.2であった。これらの変数を独立変数,術後2週時膝屈曲角度を従属変数とした決定木分析によって作成された回帰木より,最上位の分岐は膝屈曲角度(cut off値117.5°)であり,117.5°より大きい群では術後2週時膝屈曲角度が最大(113.5±11.7°)と予測された。117.5°以下の群ではさらに膝屈曲角度(cut off値107.5°)で分岐し,107.5°以下の群では術後2週時膝屈曲角度が最小(93.8±12.3°)と予測された。107.5°より大きい群ではさらに膝伸展筋力(cut off値1.004Nm/kg)で分岐した。【結論】TKA後2週時の膝屈曲角度を予測する術前因子として,膝屈曲角度と術伸展筋力が選択され,これらの要因は先行研究と同様の結果であった。しかし,術後膝屈曲角度に影響すると報告されている年齢,性別,BMIなどの患者因子は本研究では選択されなかった。また,有意な予測因子と報告されている術前のFTAに加えて,術前の膝関節動揺の程度についても検討したが,本研究ではFTA,膝前後・側方動揺ともに有意な予測因子にはならなかった。本研究の結果より,術後2週時という比較的早期においては,術前の膝関節の変形の程度よりも膝屈曲角度や膝伸展筋力などの運動機能の影響が高いことが示唆された。
著者
荒木 貴代 佐藤 敏 川上 哲史 岡本 果南 小幡 弓真 近藤 剛規 高島 幹展 真田 祥太朗 村上 弘城 出口 智宙 高瀬 恒信
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.380-385, 2023-10-20 (Released:2023-10-20)
参考文献数
20

肋骨骨折端によって遅発性に気胸を繰り返した胸部外傷の1手術例を経験したので報告する. 症例は38歳男性. 転落事故による右第7-11肋骨骨折で安静入院した. 肝損傷, 右副腎損傷は保存的に軽快したが, 第9病日, 遅発性に右気胸を生じ胸腔ドレナージを要した. 気胸は改善し外来通院していたが, 第75病日, 第97病日と右気胸を繰り返した. 右第9肋骨骨折端による肺損傷・気胸と判断し, 第111病日に胸腔鏡補助下肋骨骨折端摘除術を行った. 下位・浮肋骨骨折では, 肋骨骨折端が(1)鋭利な形状, (2)胸腔内臓器と接する, (3)胸壁接線に対する鋭角が25度以上である場合は, 予防的摘除を含めた積極的治療を考慮してもよい.
著者
村上 弘毅
出版者
経済理論学会
雑誌
季刊経済理論 (ISSN:18825184)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.26, 2018 (Released:2020-07-13)
著者
鈴木 凌斗 村上 弘晃 西山 勇毅 川原 圭博 瀬崎 薫
雑誌
研究報告モバイルコンピューティングと新社会システム(MBL) (ISSN:21888817)
巻号頁・発行日
vol.2021-MBL-100, no.22, pp.1-6, 2021-08-26

屋内での滞在情報を正確に把握することで,混雑度の推定や集客情報,人流の把握など,様々なサービスを提供できる.Bluetooth ビーコンや WiFi の信号強度を用いた滞在場所推定手法では,低コストに滞在推定システムを導入できる.しかしながら,受信信号強度の不安定さや隣接した部屋から漏れる信号などが原因となり,単純な信号強度のみを用いた判定では,受信環境によっては滞在場所の誤判定が頻繁に発生する.本稿では,部屋ごとの滞在時間特性の違いを考慮に入れることにより誤判定を抑制する手法を提案する.提案手法では,部屋ごとの滞在時間の分布をワイブル分布にフィッティングし,生存時間解析を適用することによりユーザの状態を推定する.信号強度の強弱のみに基づく既存手法との比較のため,正解ラベル付きのデータを収集し評価実験を行った.
著者
村上 弘之
出版者
上武大学
雑誌
上武大学看護学部紀要 (ISSN:1880747X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-14, 2007-09

近年,麻疹や風疹などの小児ウイルス感染症や結核などの集団感染事例が高校・大学等の教育機関だけでなく,医療機関では院内感染として問題になっている.臨地実習が看護教育上欠かすことができない看護学生は,臨地実習施設が病院だけでなく地域施設などにも及ぶことから何らかの感染を受ける危険が高い.また,患者に感染させる危険も高い.現在の看護学生が属する10歳代後半から20歳代若年者集団には,小児ウイルス感染症や結核などに対する感受性が高い者が多く含まれている.これまで,医学や看護を学ぶ学生にはB型肝炎感染予防対策が中心であり,空気感染や飛沫感染によって伝播するウイルス感染症や結核に関する対策は少なかった.看護学生の属する若年者の感染症に対する感受性を考慮し,臨地実習では学生の安全だけでなく患者の安全を厳守するという医療安全,学校内では集団感染発生に対する危機管理上必要な対策が求められている.
著者
蛯子 隼 金城 政樹 村上 弘 赤嶺 良幸 當銘 保則
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.884-887, 2020

<p>腱黄色腫は家族性高コレステロール血症に伴い出現する報告が多い.高コレステロール血症を伴わない,多発性腱黄色腫の1例を経験したので報告する.症例は46歳,女性.8年前に両側手関節部と下腿後方の腫瘤に気付いた.2か月前に右手関節部腫瘤が書字やパソコン操作に支障をきたし近医受診,当院へ紹介された.初診時身体所見で両側手関節掌尺側に弾性・硬,可動性に乏しい腫瘤があり,両側アキレス腱および腓骨筋腱の肥厚を認めた.血液検査で高コレステロール血症はなく,高トリグリセライド血症を認めた.MRIで尺側手根屈筋と連続し,T1・T2強調画像で低信号,被膜のみ造影効果を示す腫瘍を認めた.切開生検で腱黄色腫と診断した後に高トリグリセライド血症に対し,脂質代謝コントロールを行い右手関節部の腫瘤を可及的に切除した.術後5か月で関節可動域・握力に術前と大きな変化はなく,書字・パソコン操作時の支障は消失した.</p>
著者
中澤 知洋 森 浩二 村上 弘志 久保田 あや 寺田 幸功 谷津 陽一 馬場 彩 幸村 孝由 内山 泰伸 斉藤 新也 北山 哲 高橋 忠幸 渡辺 伸 中島 真也 萩野 浩一 松本 浩典 古澤 彰浩 鶴 剛 上田 佳宏 田中 孝明 内田 裕之 武田 彩希 常深 博 中嶋 大 信川 正順 太田 直美 粟木 久光 寺島 雄一 深沢 泰司 高橋 弘充 大野 雅功 岡島 崇 山口 弘悦 森 英之 小高 裕和 他FORCE WG
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会講演概要集 72.1 (ISSN:21890803)
巻号頁・発行日
pp.508, 2017 (Released:2018-04-19)

NGHXTあらため、FORCE衛星は1-80 keVの広帯域X線を高感度で撮像分光し、まだ見ぬ隠されたブラックホールや超新星残骸のフィラメントでの粒子加速の探査を目指している。2016年に変更した計画の内容、検出器および望遠鏡の開発状況、およびサイエンス検討の進捗を報告する。
著者
村上 弘
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1_117-1_140, 2016 (Released:2019-06-10)
参考文献数
57

日本の政治学教育 (主権者教育) について, 目的, 内容, 手法 (教え方) を整理し, 見解を述べるとともに, とくに内容の面について, 2点を中心に考える。第1に, 教えるべき項目群を民主主義, 市民社会などの政治理念から体系的に導出できないか試みる。第2に, とくに日本で理解が弱いと思われる 「多元的民主主義」 や, その具体的な理解につながる政治権力への批判的視点や政党システムに関する教育について, 内容や教え方を検討する。    教える内容について, とくに高校までの段階では 「政治的教育の中立性」 による制約があるが, 中立性と, 多元的・批判的な見解の紹介とは両立しうる。多元的民主主義や政府への批判的視点は, 政治史, 政治思想, 政治制度, 比較政治などを通じて理解してもらうべきだ。各政党の論評が難しい場合には, 政党システムや 「左と右」 の座標軸を教えることで, 政治を比較し判断する視点を身に付けてもらうこともできる。    教え方については, 複数の情報や見解をもとに考え議論する力を付けさせるとともに, 集団作業, 政治参加, 市民活動などの経験を促すこと自体が有効である。