著者
片瀬 菜津子 鳥居 拓馬 日髙 昇平
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第37回 (2023) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.2J4GS105, 2023 (Released:2023-07-10)

物理法則発見の情報処理過程、特にその質的なモデルの変容過程を明らかにすることができれば、今後の科学の発展速度の向上が期待できる。先行研究として、認知科学研究として類推を構造的に捉える試みや、計算機科学研究として機械学習を用いた物理法則の発見の試みがある。しかし、前者は数値的データに基づかず、概念的な枠組みの記述に留まっており、後者は予測誤差に基づくモデリングを提案しているが、質的な仮説や理論の変容を説明していない。 古典的な天体運動の理論の成立過程では、天動説から地動説への質的な理論の変容が知られる。本研究ではこの歴史的な理論構築過程の説明を目的として、数理的モデルの構築を試みた。コペルニクスの地動説は、その当時の標準モデルであるプトレマイオスの天動説より予測誤差が大きいことが知られている。それにも関わらず地動説が提案されたという事実は、予測誤差以外に地動説の良さを評価する基準があることを示唆する。本研究では天体運動データを分析し、モデル選択の基準として、全体的な予測誤差以外に、逆行運動など顕著な例外的現象に対する予測誤差を考慮することで地動説への移行が説明できることを示す。