著者
竜崎 崇和 松下 雅博 半田 みち子 古川 智洋 猿田 享男
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.45-51, 1998

カルシウム拮抗薬ベシル酸アムロジピンの血液透析患者における有用性と血液透析による透析性を検討した. 対象は維持血液透析施行中の高血圧を合併した慢性腎不全患者で, 観察期透析前血圧が収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧95mmHg以上の外来患者19例. 2~4週間の観察期の後, アムロジピンを2.5~7.5mg/日の量にて投与開始. 服薬は夕食後の1日1回投与とし, 12週間の投薬期間中透析前後で血圧を測定し比較した. その間, 他の降圧薬を服用している患者では降圧薬の変更を禁止し, その後も除去率やクリアランスの測定を施行した例では薬剤の変更は行わなかった.<br>アムロジピンの血清濃度の測定を第1週および第2週目に透析前に施行, 4週以上投与された安定期-1と, 12週以上投与された安定期-2にクリアランステストを施行し, 除去率も計算した.<br>アムロジピン5mg/日服用の15例では, 観察期の透析前収縮期圧, 拡張期圧は, 199±4/95±3mmHgであった. アムロジピン服用開始1週後より有意に血圧は低下し, 12週後には170±5/83±3に低下した. また, 心拍数は観察期には81±2拍/分であったが, 服用開始1週間後に有意に減少し75±2となった. 服用開始2週目以降は観察期と比べ有意な変化は認められなかった. また, 透析後の血圧および心拍数の変動では服用開始1週以降に収縮期血圧で有意な低下を認めたが, 拡張期血圧は第4週と8週に有意な低下を認めただけであった. 透析後の心拍数については, 有意な変化は認められなかった.<br>透析前アムロジピン血清濃度は5mg/日服用者で, 第1, 2, 4週以降, 12週以降でそれぞれ, 6.8±0.8ng/ml, 7.1±0.7, 8.1±1.0, 8.6±1.2であったが有意な差は認められなかった.<br>透析後のアムロジピン血清濃度は透析前の値と比較しても, また, 透析が行われなかった場合の予測値と比較しても有意に低下していた. 透析による除去率は14%から18%であったが, 透析開始1時間という一時点でのクリアランスでは負の値を示した.<br>アムロジピン投与にて血液透析患者の透析前血圧は投与1週間後より12週間まで有意に低下した. また, 少なくとも投与12週間までの間では, 5mg/日の投与量では有意な蓄積傾向はなく, 血液透析による除去率は14~18%であった.<br>結論: ベシル酸アムロジピンは透析患者においても通常投与量で長期投与にても蓄積なく, 安全に降圧し得ると思われた.
著者
猿田 享男
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.285-291, 1996-02-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
20

ある一定濃度のインスリンの存在下で,正常に発揮されるインスリン効果がみられない状態がインスリン抵抗性である.当初は,肥満者やインスリン非依存性糖尿病患者等,ある特殊な病態にみられる変化と考えられていたが,最近になって,想像された以上に多くの疾患がこの病態に関与していることが明らかとなった.さらにインスリン抵抗性を基礎病変として,糖代謝異常のほか,高脂血症,高血圧,血液凝固系の異常等の諸変化をきたし,動脈硬化の進展から,脳・心血管系疾患の発症に密接に関与する病態として注目されるようになった.このような諸病態を総括する名称としてsyndrome X, deadly quartet,あるいは本稿のテーマとなっているインスリン抵抗性症侯群等が提唱されている.さらにこのような病態を呈するものでは,内臓に過剰な脂肪蓄積を呈することが多いことから,内臓脂肪症侯群なる概念も提唱されてきている.