著者
王 君香
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.21-38, 2020 (Released:2020-05-08)
参考文献数
44
被引用文献数
3

外邦図は過去の地理情報を直接的に示す資料であり,歴史地理学を始め,地域研究,環境科学などの幅広い研究分野において重要な資料といえる。しかし,これまでの研究の多くは外邦図の目録整理やその製作史に関するものであった。本稿はこうした状況をふまえ,外邦図に記載された黄河下流域の主流における渡口に焦点を当て,旅行記に記録された孟津渡との比較を通して,外邦図の価値と限界を検証した上で,渡口の分布を復原した。さらに渡口の分布の特徴を把握し,その分布に影響を与えた要因を検討した。旅行記に記録された孟津渡の4ヶ所の渡口の内,3ヶ所は外邦図上で確認できた。このように外邦図に渡口は全て記入されているわけではないが,その多くは記載されているといえる。外邦図に基づき復原した黄河下流域の渡口は全部で178ヶ所認められる。渡口は河南省には少ないが,山東省には密に分布している。その要因としては,沿岸の河道状況,鉄道交通,都市(県城)や集落をつなぐ道路,定期市密度にみる経済の発展が関わっていたと考えられる。