著者
王 昊凡
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究では日本国外の寿司店の増加を事例に、食のグローバル化という社会現象ついて検討した。上海にある寿司店314軒のうち計92軒へのヒアリング調査を行い、調査では生食向け魚介の仕入れ状況、職人の技能養成状況、献立立案や調理実施に関する現状、接客の有り様を調査した。加えて、上海銅川市場において、生食向け魚介の流通を取り扱っている業者へのヒアリング調査も行った。社会学においてグローバル化は長らく重要な研究テーマとなっており、食のグローバル化ではG.リッツァが「マクドナルド化」概念を提唱したこともあって、多国籍企業による大規模チェーン店の展開と、それに伴う合理化した店舗運営に着目してきた。しかし、食は実際には中小零細規模での越境が容易であり、現実にも起こっている点や、食材の品質を考慮した際に、合理化が安定した店舗運営と利益の向上につながるとは限らないという点で、特徴を持っている。食べものがもつこの2つの特徴によって、そのグローバル化のあり方がどのように左右されるかを知るために、本研究では寿司を事例に検討している。本研究の知見をまとめると、以下3点のことがいえる。第一に、②食材の品質と関連して、寿司が多種多様な生食向け魚介を用いるにもかかわらず、上海ではそれを適切に仕入れることが難しいため、職人的技能に頼らざるをえない麺があった。第二に、マクドナルドのような合理化した店舗運営ではなく、技能を身につけた職人の柔軟性によって、仕入れた食材の品質が不安定であること、仕入れた食材の種類が足りないためにメニューが限られること、消費者が多様であるためにその嗜好に合わせなければならないことといった課題を解決する仕組みができあがっている。第三に、そのことは単にひとつひとつの寿司店が安定して運営できることのみならず、上海における寿司店の多様化に寄与した。
著者
王 昊凡
出版者
日本労働社会学会
雑誌
労働社会学研究 (ISSN:13457357)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.1-22, 2015

<p>Since the 1990s, it has become difficult for non-elite youth in Japan to rise economically and socially through their occupations. It has been argued that for the occupation of sushi chef as well the past practices of skills development through the apprenticeship system and rising through career moves within an occupational labor market may be breaking down gradually.</p><p>However, interviews with young sushi chefs have shown that it still is possible to build a career and rise in the occupation as in the past. The need has developed for more flexible development of experience and skills as an effective means of responding to deflationary times through high-value- added preparation of dishes and customer service. Since they contribute to filling this need, skills development through the apprenticeship system and career moves within an occupational labor market continue to function even today, although their forms are changing. Career formation and rising in the occupation can be observed not just at high-end restaurants but even among sushi chefs employed by inexpensive restaurants. One could conclude that even today it remains possible for a young sushi chef to rise economically and socially through his occupation.</p>