著者
瓜谷 大輔 福本 貴彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A4P2078, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】解剖学や運動学のテキストに書かれている筋の作用は解剖学的肢位における作用である。しかし、いくつかの股関節回旋筋については股関節屈曲角度の増大に伴って、その作用が解剖学的肢位での作用から逆転することが報告されている。股関節回旋筋の筋力を測定する際には股関節90度屈曲位で行うのが一般的であるが、上記のことから考えると股関節90度屈曲位での筋力測定は,テキストに記載されている股関節回旋筋の主動筋の筋力を反映していないのではないかと考えられる。そこで本研究では、股関節の肢位による股関節回旋トルクの変化について調査することを目的とした。【方法】対象者は下肢に外傷等の既往のない健康な大学生20名とした(男性6名、女性14名、平均年齢21.6±1.0歳)。測定前にボールを蹴る方の脚を利き脚として利き脚側を事前に聴取した。対象者はトルクマシン(Biodex System3、Biodex社製)のシートに、シートの前縁が膝窩部に一致するように座らせ、代償動作を抑制するために体幹,骨盤,計測側大腿部をベルトで固定し,シート両側の手すりまたは支柱を把持させた。測定条件は座面に対するバックレストの角度を10度(臥位)、55度(半臥位)、85度(座位)の3条件に設定することにより,股関節屈曲角度を変化させた。運動課題は股関節内外旋0度、内外転0度、膝関節90度屈曲位での最大等尺性股関節内旋・外旋運動とし、両側に対して実施した。各条件下での測定は、5秒間の運動と5秒間のインターバルを反復して内旋、外旋を交互に3回ずつ行った。左右の順番および測定条件の順番については、被験者ごとに無作為に設定した。また各条件での測定間には1分間のインターバルを設けた。各条件で得られたデータについては測定した3回のトルクの平均値を算出し、採用した。統計解析は利き脚か否か(以下、脚要因)とバックレストの角度(以下、角度要因)の二要因での二元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を用いて行った。なお有意水準は5%未満とした。【説明と同意】対象者には事前に研究の主旨について説明し、書面への署名によって同意を得た。【結果】本研究の結果、股関節内旋トルクおよび外旋トルクともに,脚要因と角度要因による交互作用は認めなかった。股関節内旋トルクについては角度要因(p<0.01)にのみ有意な主効果を認めた。多重比較検定の結果,股関節内旋トルクはバックレストの角度55度で10度より有意に高値であり(p<0.01),85度では10度および55度より有意に高値を示した(それぞれp<0.01,p<0.05)。一方股関節外旋トルクについては両要因ともに主効果は認められなかった。【考察】遺体を使用した研究で、Dostalらはモーメントアームの長さの変化から、股関節20度伸展位で股関節内旋筋として作用する11筋のうち、股関節40度屈曲位では5筋で股関節内旋トルクが減少し、さらにそのうちの3筋は外旋筋に転じたと述べている。一方、股関節20度伸展位での股関節外旋筋については16筋のうち9筋は股関節40度屈曲位で外旋トルクが減少し、うち7筋については内旋筋に転じたと述べている。Delpらも同様に股関節屈曲角度の増大に伴い複数の股関節内旋筋で内旋トルクが増大し、股関節外旋筋では外旋トルクが減少すると報告している。本研究結果からも、股関節屈曲角度の増大とともに股関節内旋筋のモーメントアームが長くなり、産生される股関節内旋トルクが増大し、有意な変化を示したものと考えられた。一方、股関節外旋トルクについては、モーメントアームの変化が股関節外旋トルクに与える影響は小さく、また臥位という不慣れな肢位で運動を行った影響がモーメントアームの変化以上に影響を与えていたことが考えられた。本研究では設定した各肢位での股関節の角度について実測値を示すことができておらず、今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】今回、股関節の肢位の変化によって股関節内旋の等尺性運動でのトルクは有意な変化を示した。今後は股関節回旋筋力評価や股関節回旋筋の治療やトレーニングを実施するにあたって、股関節の屈曲角度を考慮したうえで実施する必要があり、当該部位の既存の評価や治療については再考すべき点があることが示唆された。