著者
福本 貴彦
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.779-784, 2016-10-18 (Released:2016-11-17)
参考文献数
13
被引用文献数
2

足関節は複雑な構造をしているかと思いきや,いたってシンプルな構造である.しかも,その構造は合目的的であるため,構造の理屈がわかれば理にかなった動きをしていることがわかる.ここで述べる距腿関節・距骨下関節・遠位脛腓関節は,それぞれの形状によりその動きが規定され,画一的な方向への運動が起こる.リハビリテーション場面では,このような関節運動学上の特性を理解し,内容を踏まえ,定義的な単純運動方向(一方向)である底背屈・内外反などといった3次元空間の定義ではなく,足関節が本来有する運動方向への動き(背屈+外反,底屈+内反)によって運動療法を行うべきであろう.
著者
岡田 洋平 福本 貴彦 前岡 浩 高取 克彦 生野 公貴 鶴田 佳世 大久保 優 河口 朋子 岡本 昌幸 松下 祥子 庄本 康治
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.391-396, 2010-10-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
30

【目的】本研究の目的は,パーキンソン病患者および健常高齢者の足趾把持力を比較し,足趾把持力と疾患重症度および罹病期間との関連性について検討することにより,姿勢制御に重要な役割を果たす足趾把持力のパーキンソン病患者の特性を明らかにすることとする。【方法】対象はパーキンソン病患者25名,健常高齢者25名とした。評価項目は対象者の特性,足趾把持力,膝伸展筋力とした。データ分析は足趾把持力,膝伸展筋力の群間比較と患者の特性との関連性について検討した。【結果】パーキンソン病患者の足趾把持力は健常高齢者と比較して有意に低い値を示し,足趾把持力と年齢,疾患重症度,罹病期間には有意な負の相関関係を認めた。ヤール4度群は2度群と比較して有意に低い値を示した。【結論】パーキンソン病患者は健常高齢者と比較して足趾把持力が低値を示し,加齢や疾患の進行に伴い足趾把持力が低下することが示唆された。
著者
福谷 直人 任 和子 山中 寛恵 手良向 聡 横田 勲 坂林 智美 田中 真琴 福本 貴彦 坪山 直生 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1512, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腰痛は,業務上疾病の中で約6割を占める労働衛生上の重要課題であり,特に看護業界での課題意識は高い。近年では,仕事に出勤していても心身の健康上の問題で,労働生産性が低下するプレゼンティーイズムが着目されている。しかし,看護師の腰痛に着目し,急性/慢性腰痛とプレゼンティーイズムとの関連性を検討した研究はない。したがって,本研究では,看護師における急性/慢性腰痛がプレゼンティーイズムに与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】大学病院に勤務する看護師807名(平均年齢:33.2±9.6歳,女性91.0%)を対象に,自記式質問紙を配布し,基本属性(年齢,性別,キャリア年数),腰痛の有無,腰痛の程度(Numeric Rating Scale)を聴取した。腰痛は,現在の腰痛の有無と,現在腰痛がある場合,その継続期間を聴取することで,腰痛なし,急性腰痛(1日から3ヶ月未満),慢性腰痛(3ヶ月以上)に分類した。さらに,プレゼンティーイズムの評価としてWork Limitations Questionnaire-J(WLQ-J)を聴取した。WLQ-Jは,労働生産性を数値(%)で算出できる質問紙であり,“時間管理”“身体活動”“集中力・対人関係”“仕事の結果”の下位尺度がある。統計解析では,対象者を腰痛なし群,急性腰痛群,慢性腰痛群に分類し,Kruskal Wallis検定(Bonferroni補正)およびカイ二乗検定にて基本属性,WLQ-Jを比較した。次に,従属変数に労働生産性総合評価および各下位尺度を,独立変数に急性腰痛の有無,または慢性腰痛の有無を,調整変数にキャリア年数・性別を投入した重回帰分析を各々行った(強制投入法)。統計学的有意水準は5%とした。【結果】回答データに欠測のない765名を解析対象とした。対象者のうち,363名(47.5%)が急性腰痛,131名(17.1%)が慢性腰痛を有していた。単変量解析の結果,腰痛なし群に比べ,急性および慢性腰痛群は有意に年齢が高く,キャリア年数も長い傾向が認められた(P<0.001)。加えて,“労働生産性総合評価”“身体活動”“集中力・対人関係”において群間に有意差が認められた(P<0.05)。重回帰分析の結果,急性腰痛が労働生産性に与える影響は認められなかったが,慢性腰痛は“集中力・対人関係”と有意に関連していた(非標準化β=-5.78,標準化β=-1.27,P=0.016,95%信頼区間-10.5--1.1)。【結論】本研究結果より,看護師の慢性腰痛は“集中力・対人関係”低下と有意に関連することが明らかとなった。急性腰痛は,発症してから日が浅いため,まだ労働生産性低下には関連していなかったと考えられる。しかし,慢性腰痛では,それに伴う痛みの増加や,うつ傾向などが複合的に“集中力・対人関係”を悪化させると考えられ,慢性腰痛を予防することで労働生産性を維持していくことの重要性が示唆された。
著者
山野 宏章 和田 哲宏 田坂 精志朗 福本 貴彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1264, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】野球肘は成長期の野球選手に多く,発見が遅れ重症化すると選手生命に関わることから,予防,早期発見が重要視されている。その発生要因としては投球数や練習量だけでなく,肩関節周囲筋の筋力や柔軟性などの身体的要因も関わっているとの報告がされている。しかし,野球肘を発症する選手の身体的特徴は,一貫した報告がされていない。また,スポーツ現場で野球肘の評価をするにはポータブルエコーを用いて医師が行うのが一般的で,理学療法士や指導者が簡易に評価できる指標はストレステストや痛みの問診等しかなく,十分ではないのが現状である。そこで本研究の目的は,エコー診断や各種身体機能検査を含めた評価をもとに,野球肘の発症あるいは重症度に関係する要因を包括的に検討することとした。【方法】奈良県の少年野球選手436名を対象とした野球肘検診において野球歴・投球時痛などのアンケート調査,医師によるエコー検査とストレステスト,理学療法士による柔軟性検査を実施した。そこで得た結果を基に野球肘の重症度を5段階に分けた。統計解析は,5段階の重症度を従属変数,アンケートの結果,エコー所見,ストレステストの結果,柔軟性検査の結果を独立変数とし,重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。なお,統計解析にはSPSS statistics ver. 22(IBM,Chicago,IL)を使用した。【結果】重回帰分析の結果,外側エコー異常所見,内側エコー異常所見,肘関節伸展での違和感,肩関節水平内転テスト(以下:HFT),投球時痛,肩関節外旋での違和感,肘内外側のしびれ感の7項目が独立した因子として抽出された。標準偏回帰係数は外側エコー異常所見0.684,内側エコー異常所見0.331,肘関節伸展での違和感0.268,HFT0.056,投球時痛0.045,肩関節外旋での違和感0.052,肘内外側のしびれ感-0.037であった。自由度調整済み決定係数は0.882であり,Durbin-Watsonの検定は2.134であった。【結論】柔軟性検査のうち唯一抽出されたHFTの減少については,肩関節後方の軟部組織の柔軟性の低下を示している。これは投球動作時に体幹,肩甲帯から受けるエネルギーを適切に上肢に伝えることを困難にし,肘関節の適切な運動を阻害する。その結果,肘関節に異常なストレスを与え,野球肘の発症に繋がると考えられる。本研究の結果から,エコー検査が重症度予測に有用であると考えられるが,通常医師が行うエコー検査と比較した場合,エコー検査以外の重症度に影響する因子である痛みやしびれ,違和感の聴取,HFTの測定は理学療法士や指導者が簡易的に実施できる。そのため,スポーツ現場でこれらの評価を定期的に実施することにより,野球肘の予防や早期発見に繋がる可能性があると考えられる。
著者
幸田 仁志 岡田 洋平 福本 貴彦 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100012, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】 高齢者や重度障害者は,寝たきり予防のため車椅子を使用する.しかし,不良姿勢での長時間座位は,体位変換及び除圧動作を出来ない対象にとって,褥瘡発生の危険性を高める.褥瘡は治癒困難な慢性創傷の一つとして位置づけられ,理学療法士は褥瘡予防の観点から,車椅子座位に及ぼす外力に対して介入を行う必要がある.外力とは圧迫力と剪断力を示し,圧に剪断力が加わることで褥瘡発生の危険性を高めるとされている.車椅子機構が殿部圧迫力に及ぼす影響が数多く報告されてきたが,殿部剪断力に及ぼす影響を検討したものは見当たらない.我々は第47回日本理学療法学術大会においてリクライニングにおける前方への剪断力の増加,ティルトにおける後方への剪断力の増加を示した.しかし,ティルト・リクライニングの組み合わせによる外力の影響は明らかでない.本研究の目的は,ティルト・リクライニングを組み合わせた角度変化が,圧迫力および剪断力に及ぼす影響を検証することとする.【方法】 対象は神経疾患,骨関節疾患に特記すべき既往がない健常成人12名(23.9 ± 1.8歳,男性6名,女性6名)とした.対象者はティルト・リクライニング機構が備わった車椅子上で3分間の座位保持を行い,測定中に不快を感じても姿勢を変えないように指示した.アームレストは使用せず,両上肢を組んだ状態で保持するように指示した.フットレスト高は,同一検者が被験者の大腿部と座面が水平になる高さに調節した.衣服は,座面とズボンの摩擦を統一するため,全被験者が同じ素材のものを着用した. 測定は,リクライニング0°,10°,20°の3条件、ティルト0°,5°,10°,15°,20°の5条件を組み合わせた計15条件で行った.対象者の疲労の要素を考慮して,各条件はランダムな順序で実施した.殿部に生じる圧迫力および剪断力の測定は,車椅子の座面に設置した可搬型フォースプレート(アニマ株式会社,KtSmp)で行い,それぞれ3分間の床反力垂直成分および前後成分の平均値を各対象者の体重で除した値とした. 統計学的解析には,ティルトとリクライニングを2要因とした反復測定二元配置分散分析を使用した.下位検定として各要因について一元配置分散分析を行い,Bonferroni法を用いて多重比較検定を行った.有意水準は1%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認(H23-21)を受けて実施された.対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し書面にて同意を得た.【結果】 圧迫力においては,2要因間での交互作用は認めず独立した要因であった.リクライニングの角度変化に主効果を認め,多重比較の結果は全てのリクライニング条件間において,傾斜角度の増大に伴い圧迫力の有意な低下を認めた. 剪断力においては,ティルトとリクライニングの交互作用は有意であった.単純主効果検定の結果はティルトに有意差を認め,全てのティルト条件間に有意差を認めた.多重比較の結果はティルト0°条件に対してティルト5°,10°条件は,前方剪断力の有意な低下を認めた.ティルト5°条件に対してティルト10°条件は,前方剪断力の有意な低下を認めた.ティルト10°条件に対してティルト15°,20°条件は,後方剪断力の有意な増加を認めた.【考察】 本研究の結果,リクライニング傾斜に伴う圧迫力の低下,ティルト5°,10°における前方剪断力の軽減,ティルト15°,20°における後方剪断力の増加が示された.リクライニングは,殿部へ加わる力を背面へ分散することで圧迫力を軽減したと考察する.先行研究では,リクライニングが前方剪断力の増加を示したことから,組み合わせて用いる際,後方剪断力を誘発するティルト傾斜をより必要とすると予測した.剪断力は二要因の交互作用がみられたが,結果的に全てリクライニング角度条件において,ティルト10°に剪断力軽減がみられた。ティルト10°の際は,背面から生じる前方への反力と,座面傾斜により生じる後方への滑りの力が,互いにほぼ等しい力の大きさとなり,殿部に生じる剪断力を軽減したと考察する.従って,圧迫力軽減にはリクライニング,剪断力軽減にはティルト10°の介入が推奨される.今後は,骨盤や脊柱といった体節の変化についての言及が課題である.【理学療法学研究としての意義】 本研究では,ティルト・リクライニングの組み合わせが,殿部に生じる外力に及ぼす影響を検証した.リクライニング20°ティルト10°の設定が,圧迫力および剪断力の双方の軽減を得る可能性が示唆され,褥瘡予防を介入する上で臨床的意義は大きい.
著者
幸田 仁志 岡田 洋平 福本 貴彦
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.183-187, 2015-01-30 (Released:2015-03-04)
参考文献数
14
被引用文献数
1 3

本研究の目的は,車椅子のティルトおよびリクライニングの角度変化が殿部に生じる圧迫力および剪断力に与える影響を検証することとした。対象は健常成人12名とした。車椅子座面上に可搬型フォースプレートを設置し,殿部の圧迫力および剪断力を計測した。測定は6条件で行い,リクライニング0°ティルト0°(r0t0条件),リクライニング10(°r10条件),リクライニング20(°r20条件),リクライニング30(°r30条件),ティルト10(°t10条件),ティルト20(°t20条件)とした。各測定時間は5分間とした。圧迫力において,r0 t0条件に対してr10条件,r20条件,r30条件,t20条件は有意な低下,t20条件に対してr20条件,r30条件は有意な低下を認めた。剪断力において,r0t0条件に対してr10条件,r20条件,r30条件は前方剪断力の有意な増加,t10条件,t20条件は前方剪断力の有意な低下,t10条件に対してt20条件は後方剪断力の有意な増加を認めた(p<0.05)。車椅子座位において圧迫力軽減にリクライニング,剪断力軽減にティルト10°の介入の有効性が示唆された。
著者
岡田 洋平 福本 貴彦 高取 克彦 梛野 浩司 平岡 浩一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BeOS3029, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 パーキンソン病(PD)患者は歩行開始動作に障害を有することが多く,歩幅の減少,振り出し開始前の足圧中心(center of pressure :COP)の後方あるいは振り出し側への移動の異常,COPの移動開始から振り出し開始までの期間の延長などが報告されている。PD患者の歩行障害は歩行開始1歩目と同様,定常歩行においても報告されているが,歩行開始から定常歩行に至る過渡期について定量的に解析した先行研究はない。健常人は歩行開始から定常歩行に至るまで2~3歩要する。本研究では,PD病患者の歩行開始後3歩の異常性を明らかにするため,PD患者と健常高齢者を対象に運動学的指標を評価し比較検討した。【方法】 対象はPD患者10名と年齢を一致させた健常高齢者10名とした。対象者は長さ9mの歩行路において歩行開始動作を実施した。9mの歩行路の最初に2.18mのforce platformを設置し,歩行開始後3歩の足圧分布データをサンプリング周波数100Hzにて記録し,合成COP座標を算出した。対象者はforce platform上において数秒間立位保持し,歩行路の最後端の中央に設置した目標を注視しながら自身のタイミングで至適速度にて歩行開始し,歩行路の最後まで歩行した。歩行開始側は指示せず,いずれかの歩行開始側が10試行に達するまで試行を実施した。 解析項目は,歩行開始後3歩の時空間指標,COP最大移動距離(前後,側方),踵接地位置(前後,側方),踵接地位置とCOPの前額面上の距離とした。時空間指標は歩幅,ステップ速度,ステップ時間,両脚支持期とした。COP 最大移動距離は,歩行開始後のCOP軌跡における4つのpeakにおいて,歩行開始時のCOP座標を0として算出した。1st peakは歩行開始後COPが最も後方かつ振り出し開始側に移動した点とし,2nd Peakは最も初期立脚側に達する点とする。3rd Peakは1歩目の接地後COPが最も外側に移動した点とし,4th Peakは2歩目の接地後COPが最も外側に移動した点とした。踵接地位置は踵中央線の後端とした。踵接地位置とCOPの前額面上の距離は, COPが踵接地位置と同じ前後座標に到達した際の側方の距離とした。 PD患者における評価はON期に統一して行った。統計解析は,2群間における各項目の平均値の差について対応のないt検定を用いて検討した。有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は大阪府立大学総合リハビリテーション学部研究倫理委員会の承認を受けて実施された。対象者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を書面にて説明し同意を得た。【結果】 PD患者における歩行開始後3歩の歩幅,ステップ速度は健常高齢者と比較して有意に低下していた。PD患者の1歩目のステップ時間,1,2歩目の両脚支持期は有意に延長していた。歩行開始後3歩におけるPD患者のCOP軌跡と踵接地位置は振り出し開始側に偏移する傾向が認められた。PD患者の2nd Peakの側方移動距離は減少する傾向にあり,3rd Peakの側方移動距離は有意に大きかった。PD患者の1歩目と3歩目の踵接地位置は振り出し開始側に有意に偏移していた。PD患者は健常高齢者と比較してCOPが踵接地位置のより内側を通過し,1歩目と2歩目の踵接地位置とCOPの前額面距離は有意に大きかった。【考察】 本研究の結果,PD患者の歩行開始後3歩のCOP軌跡は振り出し開始側に偏移し,踵接地位置の内側を通過するという異常性が示唆された。COP軌跡の振り出し開始側への偏移は,踵接地位置が振り出し開始側に偏移した影響を受け,これらは2nd PeakのCOP側方移動距離の減少に起因すると考察する。2nd Peakの側方移動距離の低下は,初期支持脚への荷重移動の低下を反映すると考えられる。先行研究においてPD患者の歩行開始動作における初期支持脚への側方荷重移動能力の低下が報告されている。歩行開始時の支持脚への荷重移動の不十分さとその後3歩目まで続く正常な荷重移動により,振り出し開始側へのCOPの偏移が生じたと考えられる。1,2歩目においてCOP軌跡が踵接地位置の内側を通過するのは,両脚支持期の延長に起因する可能性がある。両脚支持期の延長は踵接地後に対側下肢が接地している時間が長いことを表す。COP軌跡が踵接地位置の内側を通過するのは,先行肢が踵接地した後も対側下肢への荷重が多いことを示唆する可能性がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究によってPD患者の歩行開始後3歩における異常性が初めて示された。本研究における知見はPD患者における歩行開始から定常歩行への過渡期に対する介入に寄与すると考えられる。
著者
棏平 司 内山 匡将 原田 千佳 大瀧 俊夫 山上 艶子 福本 貴彦 前岡 浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P3571, 2009

【目的】厚生労働省は、「患者の安全を守るための医療関係者の共同行動」の実施を平成13年度より開始し、医療安全対策を全国的に展開している.今回、当院リハビリテーション科(以下リハ科)において過去5年間のインシデント状況調査を行い、その要因について若干の知見を得たので報告する.<BR>【対象】対象は、平成15年1月1日から平成19年12月31日までにリハ科内においてインシデントリポートとして挙げられ、当院の医療安全管理委員会に許可を得たインシデントを対象とした.<BR>【方法】方法は、インシデントリポートより発生件数、発生内容、発生要因、対応、生命への危険度、患者の信頼度について抽出した.さらに、発生要因は、正準判別分析を用いて分析した.<BR>【結果】発生件数は、平成15年(10件)、平成16年(28件)、平成17年(35件)、平成18年(44件)、平成19年(28件)の合計145件であった.発生内容は、リハ中55%、転落・転倒31%、点滴・NGチューブの抜去・抜管5%であった.発生要因は、確認不足15%、観察不足13%であり、問題行動のある患者(R=0.748、P<0.05)であった.男性ではコミュニケーション不足(R=1.234、P<0.05)、女性では点滴・NGチューブの抜去・抜管(R=0.434、P<0.05)であった.インシデントへの対応は医師診察が54%、なし28%であった.生命への危険度は、実害なし51%、全くなし32%、一過性軽度10%であった.患者の信頼度は、殆ど損なわない52%、多少損なう10%、大きく損なう6%であった.<BR>【考察】発生件数は、平成18年までは増加傾向にあったが平成19年には減少した.これは、リスクマネージャーへの報告や会議を行い、インシデントの分析や対策についての会議を開催したため改善されたものと思われる.男女共に関与が深かった問題行動は、認知能力の低下や高次機能障害の問題によるものと思われる.一方、男性にみられたコミュニケーション不足では、男性に多い口数の少なさから生じているのか、あるいは、リハスタッフそのものの熟練性の差によるものと考えられる.女性に関しては点滴やNGチューブの抜去・抜管の要因が挙げられていたが、これは女性の方が男性より不快感をより強く感じるために起こったのではないかと思われる.インシデントへの対応は、医師診察が半数占め、しかも生命への危険度は実害なしが半数を占めていた.しかし、場合によっては手術を要するものもあり問題も見られた.患者や家族への説明は多くの場合行っていたが、患者の信頼度の中で大きく損なうこともあることから事情の説明はすべきものと思われる.<BR>【結語】今回、医療安全についてインシデントの発生から検討した.急性期化が進められる状況の中でインシデントの原因分析と対策は、よりいっそう講じていかなければならないと思われる.
著者
廻角 侑弥 久保 峰鳴 福本 貴彦 今北 英高 藤井 唯誌 稲垣 有佐 田中 康仁
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.779-783, 2020 (Released:2020-12-19)
参考文献数
20

〔目的〕変形性膝関節症(膝OA)患者の歩行能力と自己効力感の関連性を検討することとした.〔対象と方法〕対象は膝OA患者67名とした.測定項目は,10 m歩行速度,Timed up and go test(TUG),自己効力感,疼痛,膝関節伸展筋力,足趾把持力,痛みの破局的思考とし,関係性を分析した.〔結果〕10 m歩行速度とTUGはそれぞれ,自己効力感,膝関節伸展筋力,足趾把持力,痛みの破局的思考との間に有意な相関関係を認めた.また,10 m歩行速度とTUGに影響する因子として,自己効力感と膝関節伸展筋力が抽出された.〔結語〕膝OA患者の歩行能力には歩行に対する自己効力感が影響することが示唆された.
著者
廻角 侑弥 久保 峰鳴 幸田 仁志 福本 貴彦 今北 英高 藤井 唯誌 稲垣 有佐 田中 康仁
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.61-65, 2020-07-22 (Released:2020-08-04)
参考文献数
17
被引用文献数
1

[目的]人工膝関節全置換術後患者の杖歩行が自立するまでの日数(歩行自立日数)に影響を及ぼす要因を術前項目より検討した。[対象]片側の人工膝関節全置換術を施行した99名とした。[方法]測定項目は歩行自立日数,自己効力感,痛みの破局的思考,安静時痛,歩行時痛,膝関節屈曲可動域および伸展可動域,等尺性膝伸展筋力,歩行速度とした。統計解析はピアソンの相関係数を用いて歩行自立日数との関係性を分析し,また歩行自立日数を目的変数,他項目を説明変数とした重回帰分析を行った。[結果]歩行自立日数は,自己効力感(r=-0.40),痛みの破局的思考(r=0.27),等尺性膝伸展筋力(r =-0.24),歩行速度(r=-0.25)との間に有意な相関関係を認めた。重回帰分析の結果,歩行自立日数に影響を及ぼす要因として自己効力感のみが抽出された。[結語]人工膝関節全置換術後の杖歩行の自立には筋力や歩行速度だけでなく,自己効力感が影響すると示唆された。
著者
粕渕 賢志 福本 貴彦 藤田 浩之 前岡 浩 今北 英高
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CaOI1019, 2011

【目的】<BR> 近年,手根中央関節の動きは,常にダーツスロー・モーション方向であると解明されてきた.ダーツスロー・モーションとは橈背屈から掌尺屈方向への動きである.日常生活では手関節の組み合わされた動きが必要となり,ダーツスロー・モーションで日常生活にあまり不自由をきたさないといわれている.また橈骨遠位端骨折後では,日常生活動作能力と関節可動域(以下 ROM)には関連がなく,握力のみ関連があるとの報告が多い.しかし,今までの報告ではダーツスロー・モーション面のROMを評価しているものはない.従って本研究の目的は,橈骨遠位端骨折後患者のダーツスロー・モーション面のROMが日常生活動作能力に関連があるかを調査することとした.<BR><BR>【方法】<BR> 対象は,当院通院中の橈骨遠位端骨折後患者15名(男性7名,女性8名).平均年齢62.4±16.0歳であった.評価項目は身体機能と日常生活動作能力を評価した.身体機能は患側の掌屈,背屈,橈屈,尺屈,回内,回外のROMと,ダーツスロー・モーションである橈背屈,掌尺屈のROMを自動運動,他動運動にて二回ずつ測定し平均値を求めた.ダーツスロー・モーション面ROMは専用のゴニオメーターを作成し測定した.今回作成したダーツスロー・モーション面用ゴニオメーターは検者内・間とも信頼性が0.90を越え,高い再現性が得られることを確認してから使用した.測定したROM結果より,掌背屈,橈尺屈,回内外,ダーツスロー・モーション面の全可動域を求めた.また各ROMの健側との比率を求めた.日常生活動作能力はDASH(The Disability of the Arm, Shoulder and Hand)スコアの日本手の外科学会版を用いて評価した.統計学的解析はDASHスコアと,各ROM,健患比の相関を求めた.各相関はPearson相関係数を求め,危険率を0.05未満で有意とした.<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認(H21-15)を得て行った.被験者に対し研究の説明を行い,同意を得られた者のみデータを採用した.<BR><BR>【結果】<BR> DASHスコアと橈背屈ROMの自動運動(r = 0.596, p < 0.05),他動運動(r = 0.628, p < 0.05),自動運動の健患比(r = 0.604, p < 0.05),他動運動の健患比(r = 0.756, p < 0.01)に相関がみられた.またDASHスコアとダーツスロー・モーション面ROMの自動運動(r = 0.628, p < 0.05),他動運動(r = 0.648, p < 0.01),自動運動の健患比(r = 0.522, p < 0.05),他動運動の健患比(r=0.671,p<0.01)に相関がみられた.その他の項目とは相関は認められなかった.<BR><BR>【考察】<BR> DASHスコアと橈背屈ROM,ダーツスロー・モーション面ROMに相関が認められた.掌屈,背屈,橈屈,尺屈,回内,回外のROMと,掌背屈,橈尺屈,回内外のROMがDASHスコアと相関が認められなかったことは,先行研究と同様の結果であった.今回ダーツスロー・モーション面ROMと相関が得られたことから,橈骨遠位端骨折後ではダーツスロー・モーションが日常生活に最も重要であり,特に橈背屈方向の動きが日常生活に影響を与えていると考えられる.またダーツスロー・モーション面のROMが大きいほどDASHスコアも高値であったことより,橈骨遠位端骨折後の回復過程をダーツスロー・モーション面ROMの評価をすることにより把握することができると考えられる.また手関節背屈40°~50°の角度からのダーツスロー・モーションは,橈骨手根関節の動きは少なくなり手根中央関節の運動のみとなる.よって橈骨遠位端骨折後のリハビリテーションの際に,ダーツスロー・モーションは骨折部にストレスをかけずに早期から手を動かすことができるかもしれないといわれている.これらのことからも橈骨遠位端骨折後には早期からダーツスロー・モーションのROM訓練を行うことが有意義な理学療法に繋がると考えられる.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 橈骨遠位端骨折では日常生活動作能力を向上させるには,ダーツスロー・モーション面ROMの改善が必要であるということが示された.またダーツスロー・モーションは理学療法において,治療,評価のどちらにも重要であると示唆された.
著者
粕渕 賢志 藤田 浩之 福本 貴彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A4P3021, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】立位の保持には、視覚、前庭迷路や足底の圧および触受容器、下肢筋の固有受容器、関節器官などの体性感覚からの情報感覚が関与している。バランス機能評価として不意な外乱を与えることによる膝の動揺や下肢の反応能力を、膝関節の加速度をみることにより評価している報告が多くみられる。また両下肢の機能として一側優位性が報告されており、両・片脚起立において左足は右足より支持性が高く直立姿勢を支持し、右足は運動作用の役をなすとされている。バランス機能と筋力に関する報告は多く、片脚バランス能に右下肢では前後動揺と膝筋力との間に相関関係があり、左下肢では膝筋力と相関が認められなかったという報告もある。しかし、筋力の評価において膝周囲の筋バランス指標であるハムストリングス/大腿四頭筋筋トルク比(以下H/Q比)を用いた報告は少ない。 よって、今回の研究の目的は、不意な外乱を与えることによる膝の動揺とH/Q比の関係をみることと、下肢の一側優位性から左右差が認められるかを調査することとした。【方法】対象は、下肢に整形外科疾患の既往がない健常成人8名(男性3名、女性5名)。平均年齢24.3±1.3歳。8人とも右利きであった。3軸加速度計MA-3-10Ac(MicroStone株式会社)を対象者の両側の外側上顆と不安定板上にそれぞれ貼付固定した。不安定板は底が円柱状で左右方向のみ動揺するものを使用した。被験者には不安定板上で立位姿勢をとらせ、なるべく姿勢を維持するように指示した。次に被験者に見えない後方から不意に不安定板を傾斜させた。この傾斜に対しても姿勢を保持するように指示を行った。不安定板は左右各3回ずつ傾斜させた。不安定板の揺れを標準化するために、無次元化([膝の加速度]/[不安定板の加速度])し、側方動揺の最大値と3軸の合成最大値を膝動揺の指標とした。加速度データのサンプリング周波数は100Hzとした。等速性筋力はSystem3 ver.3.33(BIODEXSYSTEMS)にて測定した。角速度60度/秒、180度/秒にて求心性の膝伸展筋力と膝屈曲筋力を左右各3回測定し、体重補正した膝伸展筋力と膝屈曲筋力を用いてH/Q比を算出した。各相関はPearson相関係数を求め、危険率を0.05未満で有意とした。【説明と同意】被験者に対し研究の説明を行い、同意を得られた者のみデータを採用した。【結果】不安定板傾斜時の左膝動揺の3軸合成最大値と左下肢の角速度180度/秒の等速性筋力の間に有意な相関を認めた(r=-0.738,p<0.05)。そのほかの膝の動揺とH/Q比には相関は認められなかった。【考察】左下肢の角速度180度/秒のH/Q比が高いほど、左下肢の膝の動揺は軽減する傾向にあった。しかし、そのほかの膝の動揺とH/Q比には相関は認められなかった。左下肢で相関がみられたのは、被験者全員が右利きであり、左足は右足より支持性が高いと報告されていることから、支持性を高めるために膝周囲の筋バランスが右下肢よりも必要であることを示している。また角速度60度/秒のH/Q比では相関を認めず、角速度180度/秒のH/Q比で相関が認められたことより、姿勢制御にはその瞬間の筋力発揮が必要であり、速い速度で筋力がバランス良く使用できることが重要であると示している。膝の動揺に対して筋力比が関与していたため、膝の動揺を軽減させていくためには膝周囲の筋力の値だけではなく、H/Q比も考慮した理学療法プログラムを考案し、実施していく必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】今回健常成人の動的バランスの姿勢制御において、筋力比であるH/Q比が関与していることが示された。これよりH/Q比を考慮することにより、より効果的にバランス機能を向上させることができると考えられる。また、高齢者への姿勢制御能力を向上させることにも応用が可能であるのではないかと思われる。理学療法を施行するにあたり、筋力について新たな一面から捉えることができるため、今後筋力比を筋力の評価方法の新たな指標にすることが可能であると考える。今後はH/Q比と前後、上下方向の動揺の関係や、性差、年齢差による違いを調査し、膝関節の動揺が小さくなる最適な筋力比の数値を調査していきたい。またそのほかの筋力比と姿勢制御能力の関係を検証していきたい。
著者
松原 慶昌 田坂 清志朗 福本 貴彦 西口 周 福谷 直人 田代 雄斗 城岡 秀彦 野崎 佑馬 平田 日向子 山口 萌 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0062, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】近年子どもの外反母趾が増加し,問題となってきている。外反母趾の原因は様々な要素が指摘されており,足部アーチの低下が外反母趾と関連しているという報告がある。子どもの足は足部アーチの形成の重要な時期にある。さらに,足部アーチの形成には足趾把持力が関連していると報告されているため,足趾把持力が外反母趾に関連している可能性がある。また,特に子どもにおいては足部の筋力,形状共にも発達段階にあるため,足部の筋力が足部形状に与える影響が大きい可能性がある。子どもにおいて外反母趾と足趾把持力の関連についてはまだ調べられていない。そこで,本研究では子どもにおける外反母趾と足趾把持力の関連について調べることを目的とした。【方法】対象は奈良県田原本町にある小学校5校の小学4~6年生671名の計1342足(平均年齢10.3歳±0.7歳,男子317名,女子354名)とした。外反母趾角は,母趾基節骨と第一中足骨のなす角とし,静止立位にて,ゴニオメーターを用いて測定した。足趾把持力は足趾筋力測定器(竹井機器工業,T.K.K.3364)を用いて股関節,膝関節ともに90°屈曲座位にて,左右両足を各足二回測定した。各足の最大値を足趾把持力として用いた。統計解析は,従属変数に外反母趾角,独立変数に足趾把持力,調整変数に性別,年齢,身長,体重を投入した重回帰分析を行った。なお,同一の対象者から二足を用いているため,両足の類似性を補正するために,一般化推定方程式を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】全対象者の外反母趾角の平均は7.91±5.0°,足趾把持力の平均は13.3±4.0kgであった。重回帰分析の結果,偏回帰係数は-0.098(95%信頼区間:-0.187~-0.010)で有意差(p=0.029)を認め,外反母趾角と足趾把持力は負の関係にあった。【結論】本研究では,子どもにおける外反母趾角と足趾把持力の関連性を検討した。その結果,小学子どもにおいて外反母趾角と足趾把持力が負の関係にあることが明らかになった。しかし,先行研究においては,健常成人では外反母趾角と足趾把持力の関係性は認められなかった。この理由は,子どもの足部は発達段階にあり,筋力が足部形成に与える影響が大きい可能性が考えられる。低足趾把持力により十分な足部アーチ形成が行われず,足部アーチの未発達が外反母趾角の増大につながったと考えられる。本研究は横断研究であるため,因果関係について断言できないが,足部アーチが発達段階にある子どものころに,足趾把持力を鍛えることで外反母趾の予防につながる可能性がある。
著者
熊澤 浩一 幸田 仁志 坂東 峰鳴 山野 宏章 梅山 和也 粕渕 賢志 福本 貴彦 今北 英高
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0536, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】フォワードランジ(以下,FL)とは,片脚を前方へ踏み出し,踏み出した脚の膝と股関節を曲げることで,姿勢を変えて体重を前脚にかける運動である。FLによって下肢の筋力,柔軟性,バランスの総合的な評価とトレーニングを行うことができ,スポーツ選手から高齢者まで幅広く用いられる。臨床現場において,膝前十字靭帯損傷など下肢運動器疾患を有する人を対象にFLを行う際では,踏み出し時に加わる膝関節への負荷を考慮して,前後に脚を広げた状態を開始肢位として行う場合もある。しかしながら,FLに関する先行研究では踏み出しの有無による膝関節への負荷軽減効果については分析されていない。そこで,本研究の目的は,膝関節への機械的ストレスの指標とされる外部膝関節モーメントを用いて,FL時の踏み出しの有無が膝関節へ及ぼす影響を検討することとした。【方法】対象は,下肢に整形外科疾患の既往のない男性12名(年齢20.8±2.0歳,身長171.6±7.6cm,体重63.9±7.6kg)とした。測定には,三次元動作解析装置(Vicon社)と床反力計(AMTI社)を用いた。対象者は利き足(ボールを蹴る足)を前脚とした踏み出し有りと無しのFLを各3回ずつ実施した。その際,踏み出し及び前後開脚幅は棘果長の80%,足幅は上前腸骨間距離,前脚足尖方向は前方と規定した。踏み込みの速度を統一するためにメトロノームを用い,2秒で踏み込み,2秒で開始肢位に戻るよう指示した。また,FL時は可能な限り前脚に体重をかけ,前脚踵が床から離れない範囲で足尖方向に膝を屈曲させた。動作中の外部膝関節屈曲モーメントと外部膝関節内外反モーメントを体重で除して正規化し,3回計測した平均値のピーク値を解析対象とした。統計学的解析には,踏み出しの有無の違いによる各モーメントの差異について対応のあるt検定を用いた。なお,有意水準は5%とした。【結果】外部膝関節内外反モーメントは,全例内反モーメントを示した。踏み出し有りのFLでは,外部膝関節屈曲モーメント0.89±0.19Nm/kg,外部膝関節内反モーメント0.65±0.23Nm/kgであった。踏み出し無しのFLでは,外部膝関節屈曲モーメント0.75±0.19Nm/kg,外部膝関節内反モーメント0.65±0.13Nm/kgであった。踏み出し無しでのFLは踏み出し有りと比較して,外部膝関節屈曲モーメントが有意に減少しており(p<0.05),外部膝関節内反モーメントには有意な差がなかった(p=0.89)。【結論】踏み出し無しのFLは,踏み出し有りと比較して膝関節へ加わる外部膝関節屈曲モーメントを軽減できるが,外部膝関節内反モーメントは軽減されないことが示された。踏み出し有りのFLは,外部膝関節内反モーメントを増加させることなく,外部膝関節屈曲モーメントを加えることができる。臨床では,踏み出し無しのFLが一様に膝関節への機械的ストレスを軽減するものでは無いことを念頭におき,運動方法を選択する必要があろう。
著者
今井 亮太 大住 倫弘 平川 善之 中野 英樹 福本 貴彦 森岡 周
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-7, 2015-02-20 (Released:2017-06-09)

【目的】術後急性期の痛みおよび運動に対する不安や破局的思考は,その後の痛みの慢性化や機能障害に負の影響を及ぼす。本研究は,術後急性期からの腱振動刺激による運動錯覚の惹起を起こす臨床介入が痛みの感覚的および情動的側面,ならびに関節可動域の改善に効果を示すか検証することを目的とした。【方法】対象は,橈骨遠位端骨折術後患者14名とし,腱振動刺激による運動錯覚群(7名)とコントロール群(7名)に割りつけて準ランダム化比較試験を実施した。課題前後に,安静時痛,運動時痛,Pain Catastrophizing Scale, Hospital Anxiety and Depression Scale,関節可動域を評価した。介入期間は,術後翌日より7日間,評価期間は,術後1日目,7日目,1ヵ月後,2ヵ月後とした。【結果】反復測定2元配置分散分析の結果,VAS(安静時痛,運動時痛),関節可動域(掌屈,背屈,回外,回内),PCS(反芻),HADS(不安)の項目で期間要因の主効果および交互作用を認めた(p<0.05)。期間要因では,両群ともに術後1日目と比較し,7日目,1ヵ月後,2ヵ月後に有意差を認めた(p<0.05)。【結論】術後翌日から,腱振動刺激を用いて運動錯覚を惹起させることで,痛みの程度,関節可動域,痛みの情動的側面の改善につながることが明らかにされた。また,痛みの慢性化を防ぐことができる可能性を示唆した。
著者
萬 礼応 青山 朋樹 福本 貴彦 森口 智規 高橋 正樹
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.83, no.855, pp.17-00223-17-00223, 2017 (Released:2017-11-25)
参考文献数
17

Gait measurements and physical fitness tests are carried out in the community health activities for health promotion and care prevention services in the growing elderly population. In particular, the timed up and go test (TUG) is the clinical test most often used to evaluate functional mobility in many clinical institutions or local communities. To evaluate the functional mobility during the TUG, a gait measurement system (Laser-TUG system) using a laser range sensor (LRS) has been proposed. The system tracks both legs and measures the foot contact positions to obtain walking parameters such as stride length and step length. To reduce the false tracking and improve the measurement accuracy during the turning phase of the TUG, a data association considering gait phase and a spline-based interpolation have been proposed. However, the false tracking is likely to be occurred in the elderly and the measurement accuracy during the turning phase is still deteriorated because of occlusion and inaccurate observation of legs. Therefore, this paper presents a high-accuracy gait measurement system using multiple LRSs. Using multiple LRSs is able to reduce the situation of leg occlusion. However, the measurement accuracy of leg position depends on the distance from the LRS. To improve the measurement accuracy, an integrated leg detection method by a weighted mean of the observation candidates from each LRS data based on the distance from the LRS is proposed. We confirm that the proposed leg detection method can improve the success rate of leg tracking in the elderly and measurement accuracy of the leg trajectory and walking parameters.
著者
瓜谷 大輔 福本 貴彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A4P2078, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】解剖学や運動学のテキストに書かれている筋の作用は解剖学的肢位における作用である。しかし、いくつかの股関節回旋筋については股関節屈曲角度の増大に伴って、その作用が解剖学的肢位での作用から逆転することが報告されている。股関節回旋筋の筋力を測定する際には股関節90度屈曲位で行うのが一般的であるが、上記のことから考えると股関節90度屈曲位での筋力測定は,テキストに記載されている股関節回旋筋の主動筋の筋力を反映していないのではないかと考えられる。そこで本研究では、股関節の肢位による股関節回旋トルクの変化について調査することを目的とした。【方法】対象者は下肢に外傷等の既往のない健康な大学生20名とした(男性6名、女性14名、平均年齢21.6±1.0歳)。測定前にボールを蹴る方の脚を利き脚として利き脚側を事前に聴取した。対象者はトルクマシン(Biodex System3、Biodex社製)のシートに、シートの前縁が膝窩部に一致するように座らせ、代償動作を抑制するために体幹,骨盤,計測側大腿部をベルトで固定し,シート両側の手すりまたは支柱を把持させた。測定条件は座面に対するバックレストの角度を10度(臥位)、55度(半臥位)、85度(座位)の3条件に設定することにより,股関節屈曲角度を変化させた。運動課題は股関節内外旋0度、内外転0度、膝関節90度屈曲位での最大等尺性股関節内旋・外旋運動とし、両側に対して実施した。各条件下での測定は、5秒間の運動と5秒間のインターバルを反復して内旋、外旋を交互に3回ずつ行った。左右の順番および測定条件の順番については、被験者ごとに無作為に設定した。また各条件での測定間には1分間のインターバルを設けた。各条件で得られたデータについては測定した3回のトルクの平均値を算出し、採用した。統計解析は利き脚か否か(以下、脚要因)とバックレストの角度(以下、角度要因)の二要因での二元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を用いて行った。なお有意水準は5%未満とした。【説明と同意】対象者には事前に研究の主旨について説明し、書面への署名によって同意を得た。【結果】本研究の結果、股関節内旋トルクおよび外旋トルクともに,脚要因と角度要因による交互作用は認めなかった。股関節内旋トルクについては角度要因(p<0.01)にのみ有意な主効果を認めた。多重比較検定の結果,股関節内旋トルクはバックレストの角度55度で10度より有意に高値であり(p<0.01),85度では10度および55度より有意に高値を示した(それぞれp<0.01,p<0.05)。一方股関節外旋トルクについては両要因ともに主効果は認められなかった。【考察】遺体を使用した研究で、Dostalらはモーメントアームの長さの変化から、股関節20度伸展位で股関節内旋筋として作用する11筋のうち、股関節40度屈曲位では5筋で股関節内旋トルクが減少し、さらにそのうちの3筋は外旋筋に転じたと述べている。一方、股関節20度伸展位での股関節外旋筋については16筋のうち9筋は股関節40度屈曲位で外旋トルクが減少し、うち7筋については内旋筋に転じたと述べている。Delpらも同様に股関節屈曲角度の増大に伴い複数の股関節内旋筋で内旋トルクが増大し、股関節外旋筋では外旋トルクが減少すると報告している。本研究結果からも、股関節屈曲角度の増大とともに股関節内旋筋のモーメントアームが長くなり、産生される股関節内旋トルクが増大し、有意な変化を示したものと考えられた。一方、股関節外旋トルクについては、モーメントアームの変化が股関節外旋トルクに与える影響は小さく、また臥位という不慣れな肢位で運動を行った影響がモーメントアームの変化以上に影響を与えていたことが考えられた。本研究では設定した各肢位での股関節の角度について実測値を示すことができておらず、今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】今回、股関節の肢位の変化によって股関節内旋の等尺性運動でのトルクは有意な変化を示した。今後は股関節回旋筋力評価や股関節回旋筋の治療やトレーニングを実施するにあたって、股関節の屈曲角度を考慮したうえで実施する必要があり、当該部位の既存の評価や治療については再考すべき点があることが示唆された。
著者
土橋 純美 福本 貴彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101903, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに,目的】足指握力が身体機能において重要な役割を持っているとの報告は多い.足指握力は安静立位時の姿勢調節を行っているとの報告や,足指握力強化による転倒リスク軽減の可能性,歩行能力向上の報告もある他,トップアスリートのパフォーマンスにおいても重要な役割を担っているとされている.また,扁平足では運動能力が劣ることが一般常識とされている.扁平足の子供はそうでない子供と比較して,片脚立位などの運動課題において成績が劣るとの報告や,立ち幅跳びや50m走などにおいて,アーチ未形成者は形成者に比べて成績が劣るとの報告がある.以上より,足指握力及び足部アーチは種々の身体機能面において重要であると言えるが,その関係性についての報告は少なく結果も様々である.また,足指握力の測定肢位は膝関節屈曲90°の端座位姿勢がよく選択されるが,日常的に足指機能を発揮しているのは歩行時や運動時など,荷重下の場合がほとんどであると思われる.荷重下で足指握力を測定することで,より日常生活上での能力として反映されると考えた.本研究の目的は,足指握力の測定を荷重下で行い,足指握力に影響を及ぼすとされるアーチ高率との関連性を検討することである.【方法】日常生活に支障を来たすような疼痛のない健常女子大学生24名(身長160.0±5.2cm,体重56.0±9.4kg,BMI21.9±3.5kg/m²).利き足はボールを蹴る足と定義し,全員右側であった.計測は全て自然立位下で行った.足長は,踵骨後端から最も長い足指先端までの直線距離とした.アーチ高は,床面から舟状骨粗面までの高さとした.アーチ高率は,足長に対する舟状骨粗面高の割合を算出した.足指握力は,足指筋力測定器(T.K.K.3362 武井機器工業株式会社)を用いて左右交互に2回計測し,平均値を採用した.統計処理は,足指握力とアーチ高率の関係性をみるために相関係数を算出した.有意水準は0.05未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】被験者には本研究の十分な説明を口頭及び文書にて行い,書面にて同意を得た.【結果】アーチ高率の平均は右側15.7±2.6%,左側15.9±2.8%であった.足指握力の平均は右側21.7±7.3,左側20.0±7.1であった.右側のアーチ高率と足指握力に有意な相関関係は認められなかった(p=0.35).左側のアーチ高率と足指握力にも有意な相関関係は認められなかった(p=0.20).その他,左右の足指握力と各体格要因(身長,体重,BMI,アーチ高)との間にも有意な相関関係は認められなかった.【考察】荷重下での足部アーチの高低が足指握力に及ぼす影響について検討した.足指握力に影響を与える因子として,アーチ高率が高いほど足指握力が強いという報告があるが,本研究の結果はこれとは一致しない.アーチ高率に関しては,体重負荷によって低下することが予想される.端座位の場合,足部にかかる荷重は下肢の重さ(体重の1/6)のみであるとされているが,立位姿勢となると全体重が足部に負荷される.これによりアーチが低下し,足指屈筋が伸張位となることで,充分な足指の屈曲が得られなかったのではないかと考えられる.また,一般的に筋力と体重には相関があるとされているが,足指握力に関しては,立位姿勢では足指が体重支持(バランス)に強く働き,座位姿勢時よりも筋力を発揮出来なかったのではないかと考えられる.【理学療法学研究としての意義】足指握力を荷重下で測定することによって,足指握力に影響を与える因子として考えられているアーチ高率との関連性を認めなかった.つまり測定肢位を変化させることでアーチ高率は足指握力に関与しなくなったと考えられる.よって,荷重によってアーチが低下しても,足指握力には影響を与えないということが示唆された.立位姿勢で足指握力を測定することは,特に高齢者やバランス障害のある患者においてはそれだけで危険な行為であり,足指握力に関連する因子も見出せない.そのため,足指握力の測定肢位は,荷重下である立位姿勢よりも,一般的に選択されている端座位姿勢が臨床的に有用であり,かつ安全であると考えられる.
著者
前岡 浩 福本 貴彦 坂口 顕 長谷川 正哉 金井 秀作 高取 克彦 冷水 誠 庄本 康治
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.529-533, 2008 (Released:2008-10-09)
参考文献数
16
被引用文献数
11 4

[目的]フリーウェアであるImageJは顕微鏡画像の処理,解析に利用されているが,角度測定機能は理学療法分野でも活用可能と考えた。そこで,立ち上がり動作を利用し,ImageJによる体幹前傾角度測定の信頼性を検証した。[対象]被験者は3名,ImageJを使用する検者を10名とした。[方法]被験者に左側の肩峰,大転子,膝関節外側関節裂隙に反射マーカーを貼付し,立ち上がり動作を矢状面から1回撮影した。体幹前傾角度はImageJおよび三次元動作解析装置で測定した。[結果]級内相関係数と標準誤差を用いて統計解析を行った結果,検者内・検者間信頼性を示すICCはともに高かった。[結語]ImageJを用いた二次元での動作分析は理学療法分野における評価や研究,教育に有益な手段である可能性が示唆された。