- 著者
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生城 浩子
- 出版者
- 大阪医科大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2006
セリンパルミトイル転移酵素(SPT)はスフィンゴ脂質生合成の初発かつ律速段階の反応を触媒する.SPT活性の変動が細胞内スフィンゴ脂質の種類と総量に直接影響するため,本酵素の活性制御機構の解明は重要である.(1)スフィンゴ脂質含有細菌のSPT遺伝子をクローニングし,大腸菌ないでの大量発現系を構築し,組換え酵素の精製方法を確立した.(2)非反応性の基質誘導体S-2-オキソヘプタデシル-CoA(以下誘導体と略)を合成し,組み換えSPT精製標品を用いて,SPT・L-セリン・アシル-CoA誘導体の三者の反応を詳細に解析した.SPTにL-セリンを加えるとミカエリス複合体を経由して外アルジミン中間体を生じた.SPT-L-セリンニ者複合体に誘導体を添加しても最終生成物である3-ケトジヒドロスフィンゴシンへは変換されなかったが,吸収スペクトルにおいてキノノノイド中間体の新たなピークが観測された.この三者複合体の時間分解スペクトルの速度論的解析の結果,誘導体の結合によってキノノイド中間体の生成・蓄積が誘起され,キノノイド中間体と外アルジミン中間体の平衡状態で反応が停止していることが示された.(3)SPTによるL-セリンCα位の脱プロトン反応の速度(キノノイド中間体生成の反応速度に対応する)をNMRによって解析した.NMR解析はSPT二者複合体におけるL-セリンのCα位の水素-重水素交換は非常に遅いが,誘導体の添加によって100倍加速することを示し,SPTにおけるsubstrate synergismを示した.(4)SPT・L-セリン外アルジミン複合体の立体構造を2.3〓の分解能で決定した.このデータに基づき,SPTの触媒作用における保存されたアミノ酸残基の役割についての議論が可能になった.